【芸能】“スピードワゴン小沢”という生き方「今後の目標なんて昔から1個もない」
今年5月、『THE SECOND~漫才トーナメント』決勝に進出し、「四季折々の恋」という“らしさ全開”のネタで笑わせたスピードワゴンの小沢一敬さん。昨年から『ラ・ママ新人コント大会』の司会を務めるなど、今もなおライブシーンの最前線に立ち続けている。
そんな彼は、どんな思いでお笑い界と向き合っているのか。「あんまり覚えてない」というTHE SECONDについて、漫才に対する向き合い方、「ラ・ママ~」を主催するコント赤信号・渡辺正行さんの魅力、独特な活動方針など、常に今を生きる小沢さんの本音を聞いた。
◆本当のこと言うと、忘れちゃった
――今年開催された『THE SECOND』決勝に進出。中堅からベテランまで白熱したバトルを見せましたが、改めてどんな大会でしたか?
小沢一敬(以下、小沢):……本当のこと言うと、忘れちゃった(苦笑)。まぁでも、THE SECONDっていう大会があったことによって生まれたライブがけっこうあって、そこにも呼んでもらったから、そういう意味では楽しかったですね。
――YouTubeチャンネル『スピードワゴン小沢のオザワ倶楽部』の「【THE SECOND】ファイナリスト達のガチ敗因考察」のなかで囲碁将棋・文田大介さんが「予選の会場に出る前の小沢さんが(震えてた)」と口にしていたのが印象的でした。
小沢:そうね、緊張しないかなと思ってたけど。緊張はしてただろうね。
◆目を潤ませていたことも「あんまり覚えてない」
――「ノックアウトステージ16→8」では、2丁拳銃に勝利して目を潤ませていました。
小沢:あー、そうだっけ?
――はい(笑)。2003年のM-1決勝でファイナリスト同士の2丁拳銃との対戦はグッとくるものはありましたか?
小沢:そのときは思ったかもしれないけど、もうあんまり覚えてない(苦笑)。
――そのほか印象的だった対戦は?
小沢:Dr.ハインリッヒのことが好きで、袖で見てたらすごいウケてたからドキドキしたね。やっぱすごいなと思って。
◆先のことは、そのとき考える
――ギャロップ、マシンガンズと優勝・準優勝組が活躍しています。今後THE SECONDがお笑い界にもたらす影響は大きいと思いますか?
小沢:それは俺にはわからない(苦笑)。どうなんでしょうね……どうしてもみんな、若い才能を世に出したいし、見たい。若手が出るネタ番組にしても、ある程度年齢いくとなかなか呼ばれなくなるんですよ、自分たちを含めてね。だから、出られる場所が増えるのはいいことなんだろうなとは思いますけどね。
――YouTubeチャンネル『オザワ倶楽部』のなかで「THE SECONDにインスパイヤされたネタ作ってる」とおっしゃっていましたが、開催されれば来年も参戦される予定ですか?
小沢:それはマジわかんない(苦笑)。だって大会もどうなるかわかんないし。先のことはあんまり考えないようにしてるんだよね。先のことを考え過ぎて不安になってる人多いじゃん?「意味あんの」って思っちゃう。
5年後どころか、1年後だってまだ存在してないじゃん。「何で勝手に存在しないものを不安にならなきゃいけないんだろう」って思うから。先のことは、そのとき考えるっていう感じかな。
◆自分の場合は、まだ恋の話してもいい
――3年前の『やすとものいたって真剣です』(ABC)にゲスト出演した際、舞台が怖くなって一時期漫才から離れたとおっしゃっていましたよね。
小沢:テレビとか取材とかだと刺激的な言い方してるけど、まぁタイミングだね。これはキングコングの西野(亮廣)に教えてもらったんだけど、「“応援シロ”がある人はファンが多い」と。次の目標をガンガン言う人のほうが、ファンは応援しがいがあるって言ってたの。
たぶん、どの芸人さんたちもみんな経験するんだろうけど、最初ライブでウケて順調にM-1グランプリ決勝とか行ってテレビに出て。ある程度落ち着いた段階でライブ出ても「もう私たちは応援しなくてもいいんだ」みたいな空気があってウケづらい時期はあるのかもしれないね。
こっちもネタ作るモチベーションが若い頃より減ってたのかもしれないけど、自分たちでも何やっていいのかわかんなくなったりもするし。でも、いまだにわかんないけどね。ライブで何をやったらいいかは正解がないから。
――今年5月にナイツ・塙宣之さんにお話を伺った際に、年齢を重ねると「新ネタが作れなくなる」「パーソナルな部分が全部漫才に反映されるようになる」とおっしゃっていましたが、共感する部分はありますか?
小沢:すごいわかるね、それは。同世代の芸人たちと飲むとよく言うけど、「今度、彼女と初めてデート行くんだ」っていう設定はもうできないわけじゃん。年齢に合ったネタというか、キャラクターに合ったネタじゃないと違和感が出るし。
ただ、自分で言うのもあれだけど、「俺の場合は、まだ恋の話してもいいだろうな」とは思ってるの。独身だし。だから、昔から一貫して「その人に合ったネタじゃないと意味ない」とはずっと思ってるね。
◆聞かれりゃ言うけど、基本ダメ出ししない
――昨年7月からコント赤信号のリーダー・渡辺正行さんとともに『ラ・ママ新人コント大会』の司会を務めています。そのほかのライブと違うのはどんなところですか?
小沢:ほかの人はどう言うかわからないけど、僕の印象では「一番ウケづらい」っていう感じだね。小屋の作り方や空気感からして。ネタとネタの間の出囃子まで、無音の時間があるしね。本当に些細な瞬間だけど、乗りづらいだろうなとはずっと思ってるね。
――ライブ後に反省会があるのもよく知られたところです。渡辺正行さんと同じように、小沢さんも若手にアドバイスはされているんですか?
小沢:聞かれりゃ言うけど、基本ダメ出ししないようにはしようと思ってる。ただ、絶対に言うようにしてるのは、「俺らの言うことなんて聞かなくていいから」「俺ら別に責任とらないから」ってこと。
俺らが言った通りにやってスベっても責任とれないからね。逆に俺らがネタ見せ行ってた頃だって、ダメ出しされても直さなかったもん。「だって責任とってくんないじゃん」と思ってたから。だから、ラ・ママでも「好きにやったほうがいいよ」って言うようにしてますけどね。
別にその子たちをプロデュースしてるわけでもないし、「キミのここが素晴らしいんだ」なんて言うのもね。言われる側も、たぶん嫌だろうしな。若いときはわかったようなこと言われるの嫌だもん。俺はいまだにそうだけど(笑)。
◆司会も本音言うとやりたくない。けど…
――事務所の制限なく、フリーでも出られる部分もラ・ママの特徴だと思います。『X年後の関係者たち〜あのムーブメントの舞台裏〜』(BS-TBS)のなかで、小沢さんが関西に比べて「(笑いの)種類が多い」とおっしゃっていたのがすごく印象的でした。
小沢:俺が言ったの? 覚えてない(苦笑)。好き勝手やりゃいいじゃんっていうだけで、「いろんな笑いがある東京の文化を守りたい」なんて思いはまったくない。ただ、やる場所がなくなるのはもったいないから、ラ・ママを残したほうがいいとは思うけどね。
俺って他人は関係ないもん。「誰かのために」なんて言えないよ。司会も本音言うとやりたくないの。ただ、リーダーがいるから、「アシスタントをやりたい」となっただけで。自分1人だったら難しいね、あれは。
――そんな小沢さんがラ・ママの司会をやろうと思ったのは、渡辺正行さんがいたからですよね。小沢さんにとってリーダーはどんな存在ですか?
小沢:すべての人において、「どんな存在か」なんて考えたことないなぁ。(井戸田)潤もそうだけど、リーダーはリーダーでしかないしねぇ。昔からお世話になってるし、別に怒られた覚えもないし、めちゃくちゃ褒められた覚えもないし。
会って普通にお互いヘラヘラしゃべってる感じ。でも、そういう意味では話しやすくしてくれる人かもね。リーダーってそこがすごいんだろうなと思う。後輩と同じ目線まで降りてきてくれるし、「しゃべってるリーダーにツッコミたい」って思わせてくれる。
本当におべっかとか抜きで、リーダーのことめちゃくちゃ好きよ。ただ、別に「東京のお父さん」みたいにいちいち考えたことないんだよね。一緒に司会という体でやってるだけで。
◆今後の目標なんて昔から1個もない
――2018年末からはYouTubeチャンネル『オザワ倶楽部』を開設。同世代の芸人さんと比べてすごく早かったように思います。
小沢:そうなの? 仲のいいスタッフから「YouTubeやんない?」って誘われて、俺別にやりたいことないし「嫌だ」って言ったら、「じゃあ毎回企画用意するから、僕としゃべりましょう」ってなっただけなんだよね。
毎回この話になると言うけど、「ギャラ1円もいらないから、スタッフで分けて」って始めてるから。でも、あるときに明細見て入ってたから文句言ったのよ。そこでスタッフが「でも、半分いただいてます」って引かなかったから結果的に今はもらってるけど。
「しゃべったり遊んだりする場所を作るからきて」って言われたから行ってるだけで、「金儲けするために何かやろう」なんて1回も言ったことないね。全部、仲のいいスタッフが「今度これやろう」って言ってくれて「いいよ」って感じだから。
――若手芸人さんや映画、漫画など、いろんな知識をお持ちなので、高いアンテナを張っているイメージでした。そうなると、今後の目標みたいなことも……。
小沢:1個もないのよ、昔から(苦笑)。「センターマイク」(2012年からスタートしたスピードワゴン主催のライブ「東京センターマイク〜スピードワゴンと数組の漫才師」)だって、そりゃ作るときは大変だけど、漫才の新ネタどんどん作りたいから今やってるしね。
それも、「これを作ることによってこうなるだろう」とか「今日頑張れば明日こういう仕事増えるだろう」っていう考えではやってないね。……まぁ今やりたいことって言ったら、ビール飲みたいぐらいかな。
<取材・文/鈴木旭 撮影/藤本篤史>
【鈴木 旭】
フリーランスの編集/ライター。元バンドマン、放送作家くずれ。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。個人サイト「不滅のライティング・ブルース」更新中