アート

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  • 2024.02.18

“有楽町”の由来になった…!? 織田信長の弟「有楽斎」の生き方に触れる展覧会 | ananweb – マガジンハウス

東京・六本木のサントリー美術館で、「四百年遠忌記念特別展 大名茶人 織田有楽斎」が開催されています。天下人・織田信長の13歳下の弟として生まれた織田有楽斎(うらくさい、1547-1621)。本展では、茶人としても活躍した有楽斎の人物像を名品などにより紹介。展示風景や学芸員さんのお話などレポートします! 戦国を生き抜いた男! 展覧会入り口 ※本記事の写真は、主催者の許可を得て撮影しています。 【女子的アートナビ】vol. 325 本展では、織田有楽斎とゆかりの深い寺である京都・建仁寺塔頭 正伝永源院(しょうでんえいげんいん)の寺宝を中心に、有楽斎にまつわる茶道具や手紙などの資料を展示。多彩な作品をとおして、彼の生き方に触れられる展覧会です。 有楽斎は、もともと織田長益(ながます)として活躍していた武将でした。長益(有楽斎)は、信長の長男・信忠に仕えていましたが、1582年に起きた「本能寺の変」で信長は自害。さらに、信忠が二条御所で抗戦した末に自害したのにもかかわらず、長益(有楽斎)は脱出して生き延びました。これにより、人々から「逃げた男」と揶揄され、今でもそのイメージで戦国ドラマに登場することもしばしばあります。 プレス内覧会に登壇された建仁寺塔頭正伝永源院第24世住職 真神啓仁さんは、本展開催のきっかけについて、次のように語っています。 真神さん 当院は、鎌倉時代の文永年間に創建された寺でしたが、戦禍により荒廃していました。その寺の再興にあたったのが、織田有楽斎です。彼は「逃げの有楽」という不名誉なイメージがつけられていましたが、それを改めて問い直せないかと思い、本展の発案となりました。有楽斎は正伝院を再興し、晩年には現在国宝に指定されている茶室「如庵」を創設しました。茶の湯をとおして、大名や僧侶たちと交流をはかった人物でもあります。彼の想いや美意識を本展で感じていただきたいです。 有楽斎がお出迎え…! 《織田有楽斎座像》江戸時代 17世紀 正伝永源院蔵 【通期展示】 では、展示の見どころをピックアップしてご紹介。 最初の展示室に入ると、まず目に入るのが有楽斎の生前のお姿を表した座像です。 本作品について、サントリー美術館・主任学芸員の安河内幸絵さんは次のように解説。 安河内さん この像では、有楽斎が僧の姿をしていますが、実際には僧籍があったわけではありません。千利休のように、茶人の姿としてこのような格好をしていたという説もあります。この有楽斎の像は、遠くをまっすぐ見つめる視線で、人の心の中を見透かしてしまうような、本質を見極めるような目をされています。 本能寺の変で焼けた…! 《本能寺跡出土瓦》桃山時代 16世紀 京都市蔵【通期展示】 第一章では、有楽斎が織田家の一員であることや、武将としての一面をうかがい知ることができる歴史資料などを見ることができます。例えば、織田信長の一代記として知られる「信長公記」では、主要な武将のひとりとして長益(有楽斎)がいたことが記されています。 また、本能寺跡から出土した瓦の一部も展示されています。この出土品について、安河内さんは次のように解説。 安河内さん 明智光秀の謀反により、信長は49歳で亡くなります。本能寺の跡から出土した瓦は、鬼瓦や軒瓦のほか、表面が変色した瓦も含まれています。展示されている橙色の瓦は熱を受けて変色したもので、激烈な火災であったことがうかがえます。 伊達政宗とも交流! 展示風景より、写真手前:織田信長像 江戸時代 18世紀 正伝永源院蔵 【通期展示】 第二章では、有楽斎宛ての手紙や彼自身の手紙などの資料をとおして、茶人として活躍した有楽斎の姿が紹介されています。 例えば、伊達政宗から有楽斎に宛てた手紙なども展示。政宗と有楽斎は茶を通じて親交があり、如庵での茶会に招かれたという話も残されています。手紙には現代語が掲示されているものも多いので、内容を理解しながら鑑賞を楽しむことができます。 有楽斎の交友について、安河内さんは次のように解説。 安河内さん 有楽斎は武将たちのみならず、堺や博多の有力茶人や高僧、公家などとも幅広く交友し、茶の湯をとおして親交を深めていました。茶の湯が政治のツールとして使われ、茶会が政治の中で必要不可欠なコミュニケーションとなっていた当時、茶の湯に巧みで広い交友関係をもつ有楽斎は、豊臣や徳川家をはじめ、多くの人々から頼りにされたことが想像されます。 圧巻の襖絵は必見! 《蓮鷺図襖》狩野山楽 江戸時代 17世紀 正伝永源院蔵 【通期展示】 三階のギャラリー空間では、有楽斎が再興した正伝院の客殿を飾った《蓮鷺図襖》16面すべてを展示。圧巻の見ごたえです! つぼみのハスや咲き始めたハスの姿、咲き誇る姿、そして枯れかけた姿もあり、ハスの生命や季節のうつろいが大変美しく描かれています。 第四章と第五章では、織田有楽斎が晩年に再興し終の棲家とした建仁寺正伝院ゆかりの寺宝を紹介。茶道具や織田家ゆかりの蒔絵作品などを見ることができます。 有楽町の由来という説も…! ちなみに、東京の千代田区にある「有楽町」という地名は、織田有楽斎が由来という説もあります。 千代田区の公式サイトによると、有楽斎は関ケ原の戦いのあと徳川方に属し、数寄屋橋御門の近くに屋敷を拝領。その屋敷跡が「有楽原」と呼ばれていたことから、明治時代に「有楽町」と名づけられたそうです。(※諸説あります) 武将や茶人として戦国時代を生き抜いた織田有楽斎の展覧会は、3月24日(日)まで開催。会期中、展示替えもあります。 ※参考サイト Information 会期:2024年1月31日(水)~3月24日(日)※作品保護のため、会期中展示替を行います。開館時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)※2月22日(木)、3月19日(火)は20時まで開館※いずれも入館は閉館の30分前まで休館日:火曜日 ※3月19日は20時まで開館観覧料:一般 ¥1,600、大学・高校生 ¥1,000、中学生以下無料  https://ananweb.jp/anew/531268/ Source: ananweb

  • 2024.02.04

来場者が“目撃者”に!? “月へ行く30の方法”がテーマの恵比寿映像祭開催 | ananweb – マガジンハウス

テクノロジーの進化とともに映像の分野でも新しい挑戦が広がるなか、今年16回目を迎える恵比寿映像祭では“月へ行く30の方法”がテーマに。特別プログラムの上映のほか多彩なイベントが開催される。 アーティストと一緒に“月へ行く方法”を探してみる。 本テーマは2018年に開催された現代美術家・土屋信子さんの個展のタイトルからとったもの。最先端の科学技術や理論以上に、アーティストの思考や実践から生まれる発見や創造が月へ向かうためのヒントになるかもしれないとし、サイエンスとは異なる眼差しで現状を超えていこうというコンセプトだ。 映像作家をはじめ、現代美術のアーティスト、パフォーマーなど、総勢30名以上が国内外から参加。写真や映像の展示・上映に加え、参加型パフォーマンス、ラウンドテーブルでのディスカッションなど来場者一人一人が“目撃者”となるような体験がねらいだという。つまり、鑑賞者にとどまらず、記憶し伝えるメディア(媒体)として機能することが期待されているということ。共に感じ、考えることから、私たち自身にも月面着陸を可能にする発想が生まれるかも!? 会期中には日本を拠点に活動する新進アーティストに映像作品の制作を委託する「コミッション・プロジェクト」のファイナリストの発表も。 そのほかイベントが盛りだくさん。ホームページをチェックして、シンポジウムやトークセッションへぜひ参加してみて。 パフォーマンスやライブなども連日開催。ロサンゼルスを拠点とするパフォーマンス作家・荒川ナッシュ医の参加型パフォーマンスでは、アジアが主体形成する未来を推測するため感情や感性の間にあるものを探求。 荒川ナッシュ医《Mega Please Draw Freely》2021年 テート・モダン、ロンドン Photo:Rikard Osterlund アルゴリズムから生まれるシーンの数々。恵比寿ガーデンプレイス センター広場では大型ビジョンを設置、プログラム言語が作り出す映像で大型ビジョンを埋め尽くす。アルゴリズムが織りなす多彩な表現は圧巻。 高尾俊介《CityScape #1》2021年 植物とコミュニケーションは可能?コンセプチュアル・アートの先駆者、バルデッサリの作品。「植物にアルファベットを教える」行為によってアルファベットの意味が無意味に転じる瞬間からユーモアが浮かぶ。 ジョン・バルデッサリ《植物にアルファベットを教える》1972年/18分40秒 John BALDESSARI, Teaching a Plant the Alphabet, 1972. Courtesy Electronic Arts Intermix (EAI), New York. アジア発、アニメーション意欲作に注目。アジア15地域の映像コンペDigiCon6 ASIAより《月へ向かうヒントが得られる? 11のアニメーション》の上映も。2/6、2/9、2/11 18時~20時、東京都写真美術館1Fホール。 フライング モンキーズ プロダクション《Monsoon Blue》2023年/14分19秒 日常の身ぶりに垣間見るシステムの呪縛。ピオトロフスカは家族構造や人間行動と社会・文化的生活を含むシステムとの関係性にフォーカス。優しく親密な日常のジェスチャーが「解放と抑圧」に変換する様を捉える。 ジョアンナ・ピオトロフスカ《Animal Enrichment》2019年/3分8秒 日本初公開含む特別プログラムを上映。写真はアーティスト、デイヴィッド・ハモンズのドキュメンタリー。2/2、2/8 18時~20時、2/11 11時30分~13時30分、東京都写真美術館1Fホールにて上映。 デイヴィッド・ハモンズの芸術と時代《The Melt Goes On Forever》(監督:ジャッド・タリー、ハロルド・クロックス)2022年/101分 ©Michael Blackwood 恵比寿映像祭2024 月へ行く30の方法 東京都写真美術館(東京都目黒区三田1‐13‐3)、恵比寿ガーデンプレイス センター広場(東京都渋谷区恵比寿4‐20 恵比寿ガーデンプレイス内)、地域連携各所ほか 2月2日(金)~18日(日)10時~20時(18日は~18時。入館は閉館の30分前まで) 月曜休(12日は開館、13日休館。※コミッション・プロジェクト〈3F展示室〉のみ3月24日まで) 無料※一部のプログラム(上映など)は有料 TEL:03・3280・0099(代表) ※『anan』2024年2月7日号より。文・松本あかね (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/530226/ Source: ananweb

  • 2024.02.04

巨匠の“スゴ技”に驚嘆! 版画のイメージがガラリと変わるユニーク展覧会 | ananweb – マガジンハウス

石川県金沢市の国立工芸館で、特別展「印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1957-1979」が開催されています。版画とグラフィックデザインの巨匠たちによる作品が一堂に集まる注目の展覧会について、担当学芸員さんに見どころなどをお聞きしました。 巨匠たちの版画とグラフィックデザインが集結! 展示風景より 【女子的アートナビ】vol. 323 この展覧会では、国立美術館のコレクションから、版画やグラフィックデザイン界などで活躍した作家たちの作品70点が集結。浜口陽三や池田満寿夫、横尾忠則など巨匠が手がけた貴重な作品などが展示されています。 今回、本展を企画された国立工芸館 主任研究員の中尾優衣さんにインタビューを実施。見どころやおすすめ作品などを教えていただきました。 開催のきっかけは… 展示風景より ――まず、この展覧会を企画されたきっかけについて、教えていただけますか。 中尾さん もともと、1970年代前後のグラフィックデザインと版画の関係に興味をもっていたのがきっかけです。日本の戦後美術では、1960年代にウォーホルなどポップアートが流行してから、版画表現の可能性が注目されていました。また、印刷技術が進歩していくなかで、版画と印刷の関係性が変わっていくようになり、そこがおもしろいと思ったのです。 ――版画と印刷の関係性とは、具体的にどういうことですか。 中尾さん 版画は、版にインクをのせ紙に押し当ててつくります。江戸時代は、大量に出版物を刷るための最先端の印刷技術として木版が使われていましたが、時代が進むにつれ、代わりにもっと効率の良いオフセット印刷などの機械印刷が使われるようになります。そのため、従来の木版は⼤量印刷のための主要な技法ではなくなった代わりに、その味わいを生かして版画家が作品をつくるための手段のひとつとなったのです。このように、版画と印刷の関係性が、年代に応じて変わっていく現象に興味を持ちました。 展示風景より ――技術の進化により、版画の役割が変わったのですね。 中尾さん 戦後の版画の可能性を考えていくなかで、東京国立近代美術館などで開催していた「東京国際版画ビエンナーレ展」が大きな役割を果たしたのですが、 当館を含む国立美術館では、その受賞作などをたくさん所蔵しているので、当時話題になった作品を展示することで、印刷と版画の関係性が明らかになるのではないかと思い、この展覧会を企画しました。 日本の版画が世界で高評価! 杉浦康平《第8回東京国際版画ビエンナーレ展ポスター》 ――では、展覧会の見どころについて教えていだたけますか。 中尾さん 本展では、「東京国際版画ビエンナーレ展」の受賞作や出品作と、当時の展覧会ポスターを一堂に展示しています。当時の作品をここまでの規模で紹介するのは、今回がはじめての機会です。ポスターは一過性のもので、ふつうは展覧会が終われば捨てられてしまうものですが、当館では資料として保管していました。東京国際版画ビエンナーレ展の作品と、当時の著名なグラフィックデザイナーが担当した歴代のポスターをあわせて見ていただけるという点が大きな見どころです。 展示風景より ――「東京国際版画ビエンナーレ展」とは、どんな展覧会だったのですか? 中尾さん これは1957年から79年まで、全11回開かれた展覧会です。日本は、戦後復興のなかで欧米に並ぶような経済的発展を目指し、文化的にも優れている点を見せていこうとしていました。そこで、日本人の版画が当時海外で高く評価されていたことから、版画の国際展覧会を開催することにしたのです。展覧会というより国家的な文化事業で、外務省も後援になっていました。 ――海外で評価された日本の版画とは、浮世絵版画のことですか? 中尾さん 浮世絵版画のすごさは、明治時代に海外で知られるようになりました。浮世絵のような分業制の職人技が光る版画も今なお評価されていますが、戦後に新しく出てきたのは棟方志功です。彼の版画は、浮世絵とはまったく異なる方法で制作し、大胆でプリミティブな表現にアーティストとしての強烈な個性と東洋の文化が融合した作品です。浮世絵と違う版画の魅力を世界の人たちが知り、棟方の版画は戦後まもない時期からヴェネツィア・ビエンナーレなど世界的展覧会で高く評価されました。 巨匠の“スゴ技”がさく裂! 野田哲也《日記 1968年8月22日》1968年 東京国立近代美術館蔵 ――展示作品のなかから、特におすすめ作品をいくつかご紹介いただけますか。 中尾さん 野田哲也さんの《日記 1968年8月22日》は、非常におもしろい作品です。これは、第6回東京国際版画ビエンナーレ展で大賞をとったもので、作家自身の家族写真をもとにコラージュした作品です。野田さんはカメラが趣味で、故郷の熊本に帰ると両親とともに記念撮影をしていました。比較的古風な習慣のご家庭でしたので、紋付き袴の正装姿で撮られています。自分で撮影した写真をコラージュし、海外風の椅子に座らせて非現実な空間をつくりだし、とても不思議な図柄になっています。きわめてプライベートなことをテーマにしていますが、そこから日本の伝統的な文化風習や、家族とそれを構成する個人との関係性、社会の中で記号化される人間の存在など、作品を見る人が自由に想像をめぐらせることができます。 ――写真をベースに版画をつくられるのですか? 中尾さん 野田さんは、もともとは油彩からはじめて、木版画を専門に勉強されたかたです。この作品がつくられた当時の版画技法は、木版や銅版、リトグラフがメインでした。写真製版は出始めたばかりでしたので、それを版画に部分的に取り入れるというやり方が珍しい時代でした。この作品では、椅子の部分は墨や蛍光インクに木版画の技法を使い、ほかにも写真製版、もっと詳しく言えば昔はガリ版刷りとも言いましたが、版画にはほとんど使われなかった謄写版ファックスも使うという新しい試みをされたのです。 ――技法がすごすぎて、驚きました。版画では、いろいろなことができるのですね。 中尾さん まさに当時の作家さんたちも同じ気持ちで、版画は自分たちが知っている技法だけでなく、まだまだ新しいやり方を取り入れることができると思ったのです。版画表現は、作家自身で開拓していける可能性のあるジャンルと認識されていた時代でした。 これは版画? 印刷? 高松次郎《英語の単語》1970年 東京国立近代美術館蔵 ――ほかにも、おすすめ作品はありますか? 中尾さん 版画かどうか、議論を呼んだ作品をご紹介します。高松次郎の《英語の単語》です。英単語が3つ並び、読むと「この/3つの/単語」という意味になっています。本来、文字というのはある概念を人に伝えるための記号として機能しますが、この作品では紙に書かれた文字がその内容と一致してしまっています。それ以上でもそれ以下でもない、記号と意味の問題を端的に示している作品です。 ――ちょっと難しい作品のように思えます。どのように鑑賞するのですか? 中尾さん 描かれているものを味わうという鑑賞⽅法とは違い、鑑賞する余地を与えない代わりに、⾒る⼈に頭を使わせ、その⼈の固定概念に揺さぶりをかけます。この時代の高松の作品は、概念を見せています。本作品は、何か別のものを表すために存在するはずの文字が自己完結することで、私たちは居心地の悪いような奇妙な感覚をおぼえます。そして、記号ではなく物質として見てみると、大量印刷できる印刷機で文字を刷っただけのものです。これが版画なのか? と問われるとグレーです。そんな作品が、版画を銘打っている展覧会に出されて注目されました。本作品の存在自体が、「これを版画に含めていいのか、そもそも版画とは何か」という問いも投げかけています。 ――版画作品、奥が深いですね。 中尾さん 1972年には高松が出品した別の作品が国際大賞を受賞し、印刷機でつくったものが、なぜ東京国際版画ビエンナーレ展で賞をとるのか、当時議論になりました。東京国際版画ビエンナーレ展の存在が、ある意味では版画の概念を崩壊させたという妙な状況が生まれたのです。当時は、印刷技術自体が日進月歩の時代。紙に文字を写すものは版画なのか、印刷なのか。その時代性をも見せてくれる、おもしろい作品です。 展覧会タイトルの意味は… 木村秀樹《鉛筆》1974年 京都国立近代美術館蔵 ――版画というと、昔の浮世絵版画や銅版画のイメージしかなかったのですが、さまざまな作品があり、印象がガラリと変わりました。最後に、なぜ展覧会のタイトルに「断層」とつけられたのか、教えていただけますか。 中尾さん 版画とグラフィックデザインはどちらも紙にインクを刷ってつくるので、広い意味では印刷に含まれるとても近い関係にあります。1960年代から1970年代にかけて、版画と印刷とグラフィックデザインの概念そのものを更新したりジャンルの境目を越えていくような試みが繰り返されましたが、本質的な部分まで混ざり合うことはありませんでした。今回の展覧会を考えるとき、これらのジャンルの関係性が私の頭の中で「断層」という言葉と結びつきました。断層の切り口は層としてはすぐ隣で重なっていますが、そこにはズレがあり交わることがありません。それで展覧会のタイトルにしました。当時の時代性も含めて、鑑賞を楽しんでいただけたらと思います。 ――詳しく教えていただき、ありがとうございました。 Information 展示風景より写真提供 国立工芸館 特別展「印刷/版画/グラフィックデザインの断層 1957-1979」 会期:2023年12月19日(火)~ 2024年3月3日(日)会場:国立工芸館(石川県金沢市出羽町3-2)開館時間:午前9時30分~午後5時30分※入館時間は閉館30分前まで休館日:月曜日(ただし2月12日は開館)、2月13日観覧料:一般¥300 大学生¥150 高校生以下、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方と付添者(1名)は無料    https://ananweb.jp/anew/527588/ Source: ananweb

  • 2024.01.29

日本での展覧会は8年ぶり! 村上隆、最新作のテーマは“もののけ”と“京都” | ananweb – マガジンハウス

21世紀のアートワールドの主要プレイヤーとして世界から注視される村上隆さんが、最新作をひっさげて京都の街に降り立つ。日本での展覧会は8年ぶり。“もののけ”、そして“京都”がテーマである。 現代美術の最前線が描く、京に蠢(うごめ)くもののけたち。 岩佐又兵衛《洛中洛外図屏風(舟木本)》、曾我蕭白(しょうはく)《雲龍図》などの村上版超大作をはじめ、京都祭礼行事や茶華道から着想した作品など、170点余りのうち約160点が新作という超人的な構成だ。引用される作品はいずれも江戸期の京都で花開いた琳派や狩野派、そして近年、高い評価を得る曾我蕭白、伊藤若冲(じゃくちゅう)ら「奇想の系譜」の画家たちによる日本絵画史上の傑作ばかり。「村上版」においては、京の町に漂うもののけの気配がより濃厚に描かれる。 全長約13mの大作、村上版《洛中洛外図》は、祭りや遊里、歌舞伎や浄瑠璃に興じる二千数百人の人々が登場。賑やかな都の様子を俯瞰して描くものの、その頭上には禍々しい髑髏(どくろ)の形を帯びた錦雲がたなびいている。平安京のインスタレーションでは、八角形の部屋の東西南北に町を守護する神獣(青龍、白虎、朱雀、玄武)の大型絵画を配置。中央には京都のへそと呼ばれる六角堂から着想を得た《六角螺旋(らせん)堂》がたたずみ、周囲をもののけがさ迷う。華やかな表層を1枚めくるとハレとケガレが隣り合う、もう一つの都の姿が立ち上がってくるようだ。 「村上版」を含め、新作のテーマを設定したのは、京都市京セラ美術館・事業企画推進室ゼネラルマネージャーを務める高橋信也さん。 「村上隆さんが京都で展覧会をする必然性を、私は確信していました。江戸期の京都の美術に並々ならぬ関心を持っていることは、村上さんの絵を見ればよくわかります」 これらの絵画のうちに村上さんが見出したのは、現代のアニメや漫画にも通底する「スーパーフラット」という原理。一点透視図法が浸透する以前、日本の絵師たちは2次元の紙の上でさまざまな構図を試みた。一瞬を切り取る独特のタイミング、四角い平面の中を緊張感を持って成り立たせる事物の配置の仕方など。そして村上さんは現代のアニメや漫画の1シーンやコマ割りでも、同じ方法で効果をあげていることを発見。2000年の「スーパーフラット宣言」以来、自身の創作においてこの原理を用いる姿勢を貫いている。 「現代美術とは1917年にマルセル・デュシャンが発表した《泉》(男性用便器を用いたレディメイド作品)以降、新しい認識をもたらさないものは認めないという、欧米の作ったルールに則って運営される視覚分野の1ジャンルです。その分野で村上さんは、古典的な技術も含めて日本美術のオリジナルな方法、つまり『スーパーフラット』で挑戦し続けるトップランナーなのです」 西洋美術にとって未知の領域として評価されているという、その絵画はどのように作られるのか。 例えば1枚の絵画に対して、シルクスクリーンを何百版と重ねる工程を経る。そして仕上げに透明な樹脂を塗ると、ぺらっと薄いセル画のように見えるのだという。が、横から見るとキャンバスの上にスクリーンを重ねた分の厚みがあり、完全なペインティングであることがわかる。 「海外の人にどうやって描いたのかと聞かれますが、全く新しい視覚体験に近いものだと思います」 村上さんの著書『想像力なき日本』に現代美術とは“作家が生きていた時点での現代”を時代を乗り越えて伝えるもの、という言葉がある。「現代」を一番パワフルに表現しうる手段として「スーパーフラット」で真っ向勝負する村上さんのよりどころが京都にある。この地と向き合って生まれた最新作の数々、気迫と美しさに触れてみてほしい。 日本初公開。全長18mの赤い龍は圧巻。 「奇想の系譜」の画家、曾我蕭白の《雲龍図》に衝撃を受け、筆で描いた。美術史家の辻惟雄氏と共にボストンで開催した展覧会の目玉となった。日本では初公開。村上隆 Takashi Murakami《雲竜赤変図《辻惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》》 Dragon in Clouds – Red Mutation:The version I painted myself in annoyance after Professor Nobuo Tsuji told me,“Why don’t you paint something yourself for once?” 2010年 作家蔵 Collection of the Artist ©2010 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. 神獣が守る村上版「平安京」が会場に出現。 (左)平安京を模したインスタレーションでは、さまざまな姿のもののけがさまよい、人間と共存していたさまを描く。村上隆 Takashi Murakami《想像を超えた宇宙の活性を想起する》Invoking the Vitality of a Universe Beyond Imagination 2018年 作家蔵 Collection of the Artist ©2018 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. (右)本作品には髑髏のモチーフがちりばめられ、生と死が隣り合う平安京の不穏な気配を漂わせている。村上隆 Takashi Murakami《竜頭 Gold》 Dragon Heads -Gold  2015年 作家蔵 Collection of the Artist, Courtesy of Galerie Perrotin ©2015 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. 京都で活躍した絵師たちの代表作を大胆に再解釈。 尾形光琳から着想を得た作品。正面を向く顔のある花は「スーパーフラット」の象徴的モチーフ。村上隆 Takashi Murakami《金色の空の夏のお花畑》(参考画像) Summer Flower Field under the Golden Sky 2023年 ©2023 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. 村上隆 むらかみ・たかし 1962年、東京都生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。英国の雑誌『Art Review』が発表する「アート界で影響力のある100人」に10年連続で選出。今年はブルックリン、香港ほか、世界各地で個展を開催予定。撮影:Museum of Fine Arts, Boston ©2017 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. 「京都市美術館開館90周年記念展 村上隆 もののけ 京都」 京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ 京都府京都市左京区岡崎円勝寺124 2月3日(土)~9月1日(日)10時~18時(最終入場は17時30分まで) 月曜休(祝日の場合は開館) 一般2200円ほか TEL:075・771・4334 ※『anan』2024年1月31日号より。取材、文・松本あかね (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/528872/ Source: ananweb

  • 2024.01.22

たくさんの妖怪たちに会える! 水木しげる生誕100周年を祝う記念展が横浜に! | ananweb – マガジンハウス

全国各地で話題を呼んだ展覧会がついに横浜へ! 昨年秋に公開された映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』をはじめ、盛り上がりを見せているアニバーサリー企画のひとつ、漫画『ゲゲゲの鬼太郎』の作者・水木しげるさんの生誕100周年を祝う記念展「水木しげる生誕100周年記念 水木しげるの妖怪 百鬼夜行展~お化けたちはこうして生まれた~」が開催される。水木さんが生涯で描いた妖怪は日本のものだけで1000点近く。それらはどのように生み出されたのか? 創作の秘密を初めて解き明かすのが本展の試みだ。 鍵の一つに先達の妖怪文化人たちの存在がある。幼い頃から“妖怪感度”が高く、身の回りに目に見えないものたちの存在を感じていたという生い立ちから展示はスタート。妖怪たちと再び邂逅したのは左腕を失い、生死の淵をさ迷う過酷な従軍経験を経て復員した後。東京・神田の古書店街でのことだったという。 このとき出合った書籍が、江戸時代の浮世絵師・鳥山石燕(とりやま・せきえん)の画集『画図百鬼夜行』や昭和初期の民俗学者・柳田國男の著作『妖怪談義』だ。石燕の妖怪画を目にしたとき、これまで感じていた存在がそのまま描き出されていることに驚き、「やっぱり妖怪はいたんだ!」と感動したという。これをきっかけに現代の妖怪絵師としての才能が花開いていく。 「水木しげるが妖怪とどう向き合ってきたのか、順を追ってわかりやすく展示されています。特に水木が大きな影響を受けた『画図百鬼夜行』『妖怪談義』の展示は必見です」 と水木プロダクションの原口尚子さん。これらの資料からわかるのは、水木さんが昔の人が感じた「お化け」の形を大切にしていたということ。 例えば『画図百鬼夜行』に登場する「垢嘗(あかなめ)」、浮世絵師・歌川国芳が描く『相馬(そうま)の古内裏(ふるだいり)』に登場する巨大な骸骨など、先達の絵師たちが描いた妖怪の姿形を尊重し、ほぼそのまま活かしている。伝承として言葉だけで残る妖怪の場合は、さまざまな資料にあたって、丹念にその姿を浮かび上がらせたという。お馴染みの妖怪、「砂かけ婆」の表情が地方に伝わるお面を見て「これだ!」と決まったという具合に。 一方で「怖いだけではダメ」、と常々言っていたというように、よく見ると目元がかわいらしいなど、愛嬌があるのも水木さんの描く妖怪の魅力。会場では妖怪画の原画が100点以上、展示される。たくさんの妖怪たちに会えることに加え、肉筆に触れることで新しい発見もありそうだ。原口さん曰く、 「リアルな背景を描くことで、『妖怪がそこに存在している』という実存感を出そうとしていました」 Gペンで丹念に描きこまれた陰影、墨汁が醸し出す漆黒の味わいなど、妖怪絵師としての画力もじっくり味わいたいところ。 妖怪画を描くたびに心の中で「この形でいいでしょうか」と、その妖怪にお伺いを立てていたという水木さん。その心は妖怪を描き出すことより、その存在を現代に蘇らせることにあったという方が正確なのかもしれない。会場を後にする頃には、妖怪たちの存在がリアルに感じられるほど、私たちの妖怪感度も高まっているに違いない。 一反木綿 一反(約10m)ほどの白く長い布のようなものが空を飛び、時には人を襲うこともあるという。鹿児島県に伝わる妖怪。©水木プロダクション 海坊主 全国各地の海上に現れる妖怪。姿を見て驚いて叫ぼうものなら、たちまち船はひっくり返されてしまうため、船乗りたちから恐れられた。©水木プロダクション がしゃどくろ 埋葬されなかった者の骸骨や怨念が集まり、巨大な骸骨となってガシャガシャと音を立ててさ迷う。幕末の浮世絵師・歌川国芳の作品を参考に。©水木プロダクション あかなめ 鳥山石燕が描いた『画図百鬼夜行』にも登場する妖怪。長い舌で風呂桶の垢をなめるといわれ、つまり風呂掃除をさぼっていると現れる!?©水木プロダクション みずき・しげる 1922年生まれ。鳥取県境港市で育つ。太平洋戦争時、激戦地だったパプアニューギニアのラバウルに出征。爆撃で左腕を失う。復員後、紙芝居作家を経て漫画家に。妖怪研究家としての顔も持つ。代表作に『ゲゲゲの鬼太郎』『日本妖怪大全』など。2015年没。 水木しげる生誕100周年記念 水木しげるの妖怪 百鬼夜行展~お化けたちはこうして生まれた~ そごう美術館 神奈川県横浜市西区高島2‐18‐1 そごう横浜店6F 1月20日(土)~3月10日(日)10時~20時(入館は閉館の30分前まで) 会期中無休 一般1600円 TEL:045・465・5515 ※『anan』2024年1月24日号より。取材、文・松本あかね (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/527631/ Source: ananweb

  • 2023.12.23

磯村勇斗「ビビッときました!」学生時代から好きだったキース・へリングの魅力を熱弁 – 撮影:山本倫子 | ananweb – マガジンハウス

東京・六本木にある森アーツセンターギャラリーで、「キース・ヘリング展 アートをストリートへ」がはじまりました。東京展のスペシャルサポーターと音声ガイドナビゲーターを務めるのは、俳優の磯村勇斗さん。昔からへリングが大好きだったという磯村さんに、展覧会のご感想やアートについて、お聞きしてきました! 磯村勇斗さんがスペシャルサポーター! 磯村勇斗さん。キース・ヘリング作《ブループリント・ドローイング》の展示室にて 【女子的アートナビ】vol. 320 本展は、世界的アーティスト、キース・ヘリング(1958-1990)のアートを体感できる大規模な回顧展です。 キース・へリングは、アメリカ・ペンシルベニア州生まれ。1978年にニューヨークのスクール・オブ・ビジュアル・アーツに入学し、1980年代初頭にニューヨークの地下鉄駅構内にある広告板にグラフィティ・アートを描きはじめ、注目を集めます。やがて次々と展覧会が開かれて国際的にも評価が高まり、日本でも展覧会やワークショップを開催。精力的に制作を続けますが、1988年にエイズと診断されます。その後はエイズ予防のメッセージをアートで訴えるなど、31歳で亡くなるまで、アートをとおして社会的な活動も行いました。 本展では、初期のサブウェイ・ドローイングや、誰もが見たことのある人気のモチーフが登場する《イコンズ》、6メートルもある大型作品など約150点を展示。絵画だけでなくオブジェクトもあり、展示空間もドラマチックに演出されています。 そんな楽しい展覧会の東京展スペシャルサポーターと音声ガイドナビゲーターを務めるのは、磯村勇斗さん。内覧会に登壇した磯村さんにインタビューも行い、展覧会やアートのことなど、いろいろお聞きしてきました! ビビッときました! ――昔から、キース・へリングが大好きだったとのことですが、どんなきっかけで好きになられたのですか? 磯村さん 大学で美術を専攻していまして、アメリカのポップカルチャーを勉強していました。アンディ・ウォーホルや草間彌生さんなどのアーティストのなかにキース・へリングもいて、教科書に載っていたキースの絵を見て、ビビッときたんです。この絵好きだ! と思いました。そこから、彼の絵をどんどん見るようになりました。 ――どんなところにビビッときたのですか? 磯村さん 学生時代のことで、作品名をしっかり覚えてはいないのですが、人の集合体のような作品で、人がシンプルに描かれているだけで、絵は止まっているはずなのに、なんで人が動いて見えるのだろう? と思いました。線の効果や、人のちょっとした動き具合だと思うのですが、止まっている絵をこんなにも楽しく見せることができるのだな、と衝撃を受けました。 ――そんな大好きなアーティストの展覧会でスペシャルサポーターに選ばれて、いかがですか。 磯村さん 率直にうれしかったです。今まで取材などでキース・へリングが好きですという話をしていたのですが、それが今回このような形でオファーをいただけて、すごくうれしく思いました。はじめての展覧会スペシャルサポーターがキース・へリングなんて、光栄でありがたいです。 好きな気持ちを乗せて… ――今回、音声ガイドナビゲーターも担当されています。収録はいかがでしたか。 磯村さん 緊張しました。キース・へリング自身、自分の作品についてあまり説明していなくて、彼が当時どのような思いで生きていたのか明かされていないまま今に至ります。音声ガイドでは、そんな彼の言葉や思いをセリフのように自分が語る部分があります。自分の気持ちをどのくらい入れたらいいのだろうと悩みながら収録しました。特に、セリフの部分をキースに寄せるのか、自分自身の言葉でやるかを悩みましたが、そこはキースを好きな気持ちを乗せながら、自分らしくやりました。 ――音声ガイドで、印象に残っているストーリーなどはありますか? 磯村さん キースの言葉で、「鑑賞者もアーティスト」というのがあり、それが僕たちの仕事も同じだと思いました。映画は映像として完成した時点では90パーセントで、劇場で公開して、お客さまに見ていただき、ようやく100パーセントになると思っています。それと一緒だなと思いましたし、キースの感覚と近いものを感じられました。すべて自分たちで解決して満足するのではなく、余白を残して、しっかり鑑賞者であるお客さまにゆだねるという心が大事だなと思いました。 ――今回の展示で、特にお気に入りの作品はありますか? 磯村さん 本当に絞るのが難しいのですが、特によかったのは《ブループリント・ドローイング》の作品群です。暗い展示室の中にモノクロ版画の作品が並んでいるのですが、展示空間づくりも含めてお気に入りです。キースが死の宣告を受けたあと、彼が今までやってきたアート人生を振り返りながら制作したもので、悲しい部分を感じつつも、パワフルで、皮肉な部分もあります。それらを暗く描くのではなく、明るく描いているのがすごく僕の中でしびれました。ぜひ注目していただきたいポイントです。 友だちになれそう(笑) ――本展では、キース・ヘリングの生涯についても詳しく触れられています。この点について、どう思われましたか。 磯村さん キースはパートナーを亡くし、自分がエイズであることも知り、死を感じながら創作活動をしていました。死を知りながら、何かものづくりをするというのは、どんな気持ちだったのだろうか、とすごく考えます。当時描いていた絵を見ると、ものすごくエネルギーがありながらも、どこか寂しさもある。でも、それを悲しく描くのではなく、最後まで色を使って明るく描いて、明るく生きていこうとしていたのではないかと僕は感じました。鑑賞者の立場になり、アートはみんなのため、という想いを最後まで心の中に秘めながら描いたのではないかと思いました。 ――キースのアーティストとしての活動期間は約10年間でした。磯村さんもデビューして約10年ですが、今回彼の作品を観られて、改めてどう感じられましたか。 磯村さん 10年という短いなかで絵を描き、それが今の世界でみんなに知られている。彼がもし今生きていたら、どんなふうに作品を作って世の中にメッセージを届けていたのか気になります。キースの作品にはセクシャルな部分など社会的なメッセージもあり、現代でも通用するものです。彼の生きてきた時代と今は全然変わっていないし、彼の絵が僕らにも刺さるということは、今もその問題に向き合わなければならないことだと僕たちに教えてくれます。彼は20代で、すでにいろいろな問題が見えていた。それは、考えられないくらいすごいことだと思います。 ――磯村さんにとって、キースはどんな存在ですか? あこがれの人でしょうか。あるいは、友だちになりたい人ですか? 磯村さん 友だちになれそうな感じがします(笑)親しみやすい方なのではないかな、と思います。キースは、小さいころから絵を描くことが大好きで、親にやめなさいと言われても描き続け、どんどん手が止まらず描いてきた人だった。自分も、役者をやりたいといって、反対されながらもずっと口にしてやり続けてきたので、その辺のマインドみたいなものはすごく共感できます。もし今の時代にキースが生きていたら、こういう話をして「わかる、わかる!」と言い合いたいですね(笑)。いい友だちになれそうな気がします。 ――キースなどのアートを見ることは、役作りに何か影響していますか? 磯村さん 俳優業にどうつながっているかはわかりませんが、やはり絵は自分の世界を広げてくれるものでもあり、想像力を掻き立てられて豊かにしてくれるものです。役者も想像力が豊かでないとできないので、それを養う力がアートにはあると思います。 グッズも持っています! ――ちなみに、キースのグッズもお持ちですか? 磯村さん グッズはいろいろ持っていて、ステッカーやファイル、ポーチ、Tシャツ、ジャケット、「光りを放つ赤ちゃん」と「吠える犬」のオブジェクトもあり、全部で十数点は持っています。 ――お部屋に飾って楽しんでいるのですか? 磯村さん 赤ちゃんと犬のオブジェクトは自分のなかのお気に入りで、それは部屋の観葉植物の下に置いています。配置を工夫して、気分によって犬に追われている赤ちゃんにしたり、赤ちゃんが追う犬にしたりしてシーンをつくり、寂しい遊びをしています(笑)。観葉植物はヤシ科の大きな葉があるもので、その下に置いているのですが、意外にかわいくて合います。 ――アートがお好きなんですね。 磯村さん 小さいころからアートは好きで、家族で旅行に行ったりするときは、必ず美術館に寄るくらいでしたので、その影響で自分も絵が好きになっていました。美術館で絵を見るのも好きですけど、その空間も好きなんです。部屋にアートを飾ると、その好きな空間を家の中で味わえて、自分のプライベートの時間が充実するし、落ち着きます。 ――最後に、展覧会を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。 磯村さん キース・へリングの作品は、今の若い人たちも見たことがある人がほとんどだと思います。でも、キースがどんな人なのかを知っている人は少ないと思います。今回の展覧会では、彼がどういう人でどんな人生を歩んできたのか、みなさんが見たことがある絵の背景にはどういった思いがあるのか、といったことを知ることができるチャンスだと思います。ここまでキース・へリングの裏側を解説していく展覧会はなかったと思うので、ぜひ、みなさんに来ていただけるとうれしいです。 ――ありがとうございました! 取材を終えて… キース・ヘリングのTシャツがお似合いだった磯村さん。ご自身でも絵を描いているそうで、アートにも大変詳しく、楽しいお話を聴かせてくださいました。 取材後、会場で音声ガイドを聴きながら作品を観たのですが、キースの人生や彼の言葉が紹介され、まるでドキュメンタリー映画を見ているような感覚で作品を鑑賞できました。特に、エイズと診断されたあとのキースの想いや、死について語る部分では涙腺が崩壊。彼の作品と磯村さんの声が重なり、すばらしい鑑賞体験ができました。 ぜひ音声ガイドを聴きながら、キースの作品をご覧になってみてください。 All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation Information 会期:~ 2024年2月25日(日)会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)時間:10:00~19:00※金曜日・土曜日は20:00まで※年末年始(12月31日~1月3日)は11:00~18:00※入場は閉館の30分前まで休館日:会期中無休観覧料:一般・大学生・専門学校生¥2,200 中高生¥1,700 小学生¥700※事前予約制(日時指定券)音声ガイド貸出価格:¥650(税込)※お一人様一台につき  撮影:山本倫子 https://ananweb.jp/anew/522403/ Source: ananweb

  • 2023.12.22

姓名に「龍・竜・辰・タツ・リュウ」で割引も! おめでた気分MAX「ハッピー龍イヤー!」展 | ananweb – マガジンハウス

東京・丸の内にある静嘉堂@丸の内で、2024年1月2日から2月3日まで「ハッピー龍イヤー! ~絵画・工芸の龍を楽しむ~」が開かれます。古代から吉祥をもたらすものとして扱われていた「龍」。辰年の2024年、おめでたい龍の絵画や工芸品が静嘉堂に集まります。 おめでた気分MAXの展覧会! 【女子的アートナビ】vol. 321 「龍」が誕生したのは、古代中国。体はヘビ、頭には角が2本あり、口に長いひげを生やした姿で描かれる想像上の動物です。ふだんは水中にひそんでいますが、天に昇って雨を降らせる力などをもつとされ、古くから雨ごいの神としても信仰されていました。 そんな龍をモチーフにした作品が本展に集結。企画を担当された静嘉堂文庫美術館学芸員の長谷川祥子さんは、本展の見どころについて、次のように教えてくれました。 長谷川さん 2024年に幕開けとなる本展は、来年の干支・辰(龍)を祝うテーマで開催するものです。想像上の動物である龍は、東アジアでは吉祥の霊獣として、また皇帝のシンボルとして数多く名品に表されています。このたび、静嘉堂の所蔵品から龍モチーフの作品を、幅広いジャンルから揃えました。これまで公開の機会のなかった“龍たち”も、ここぞとばかりに初登場です。さまざまな表情、迫力あるポーズも楽しい、そして重要文化財2件を含む、意外に()名品揃いの展覧会です。どうぞお楽しみください!  anan読者におすすめの作品は… 青花黄彩雲龍文盤 「大清乾隆年製」銘 清時代・乾隆年間 (1736〜95) 景徳鎮官窯 今回、長谷川さんにanan読者へのおすすめ作品を3点ピックアップして解説していただきました。ひとつめは、景徳鎮のお皿です。 長谷川さん この大皿は真ん中に正面を向いた五爪龍が描かれ、中央には「宝珠」を持つがごとく、「寿」の字を入れた丸文が描かれています。上質なコバルト顔料で、龍とそれを取り囲む炎や雲を濃いブルーで描いて本焼成したのち、今度は清朝で開発されたばかりの、酸化アンチモンによる美しい「レモンイエロー」の顔料を余白すべてに塗りつめてからもう一度焼いています。なんとも濃密なカラー! 清朝官窯ならではの逸品なのです。  幕末最大の浮世絵派閥、夢の競演! 三代歌川豊国(国貞)・二代歌川広重 画 《長崎 円やま》 江戸時代・文久元年(1861) ふたつめのおすすめ作品は、江戸時代の浮世絵です。 長谷川さん 異国情緒ただよう、長崎・円山(まるやま)の妓楼(ぎろう)で、男女二人が窓辺に広がる海を眺めています。長いキセルをステッキのようにたてた遊女の打掛は、大海原から立ち上る昇竜(のぼりりゅう)のデザインです。ちなみにこの浮世絵は、国貞が三代歌川豊国と名乗り、歌川派の重鎮として活躍した時期の作品ですが、画面に繰り広げられる見事な景色は、風景画を専門とした二代歌川広重が描いています。一点で、幕末最大の浮世絵派閥・歌川派の競演、“人物の豊国”と“風景の広重”を楽しめる、お得な作品です。 皇族の服をリフォーム!? 《紺地龍“寿山福海”模様刺繍帳》(部分) 清時代 (19世紀) 最後のおすすめ作品は、刺繍で装飾された美しい布です。 長谷川さん 「帳(とばり)」とは、中国文人風の「煎茶会」を邸宅の広間で催す際、茶室の入り口に掛けられた暖簾(のれん)のような布のことです。この羅地(らじ)の絹は、中国皇帝のシンボル・五爪をもつ龍と、さまざまな吉祥文様を各色に染めた色糸による刺繍によって、ことに龍の鱗は金箔の「撚(よ)り糸」による刺繍で装飾されています。限りなく吉祥文様が詰まった“寿山福海”(じゅざんふくかい)という意匠です。この帳は何と、清朝皇族の袍(服)であったものを、煎茶人がリフォームしたものと推定されます。 姓名に「龍・竜・辰・タツ・リュウ」でうれしい割引も! 長谷川さんの解説、いかがでしたか。 ほかにも、迫力満点の橋本雅邦「龍虎図屏風」(重要文化財)と、鈴木松年「群仙図屏風」の屏風対決が見られたり、大人気の国宝「曜変天目(稲葉天目)」も出品されたりと、静嘉堂のスター作品も登場。おめでたい気分を味わえること、間違いなしです! なお、本展では「辰年生まれ」の方、姓名に「龍・竜・辰・タツ・リュウ」がついている方は、同伴者も含めて入館料が200円も割引になります。ぜひ、お友だちやご家族のなかで辰年生まれや姓名にご縁のある方を探し、みなさんでハッピーな展覧会にお出かけください。 Information 会期:2024年1月2日(火)~2月3日(土)会場:静嘉堂@丸の内開館時間:10:00~17:00 ※金曜は18:00閉館。※入館は閉館時間の30分前まで休館日:月曜日(ただし1月8日(月・祝)、1月29日(月)は開館)1月9日(火)※1月29日(月)はトークフリーデーとして特別開館いたします。観覧料:一般¥1,500 大学・高校生¥1,000 中学生以下無料 ※「辰年生まれ」の方、姓名に「龍・竜・辰・タツ・リュウ」がついている方は、同伴者も含め、本展の入館料を ¥200割引。※他の割引との併用不可。※ご入館の際、証明になるものをご提示ください。   https://ananweb.jp/anew/522624/ Source: ananweb

  • 2023.12.12

もふもふした子犬の姿に思わずきゅん! 若冲や土牛の作品も登場、癒やしの日本美術展 | ananweb – マガジンハウス

大胆な構図と斬新な作風で有名な日本絵画の鬼才・伊藤若冲(じゃくちゅう)や長沢芦雪(ろせつ)。そんな従来のイメージを一新する、ゆるくてユーモアあふれる作品を紹介しているのが、特別展『癒やしの日本美術―ほのぼの若冲・なごみの土牛―』。まるでゆるキャラのような若冲の《布袋図》や、もふもふの描写がたまらない芦雪の《菊花子犬図》など、希少な個人所有品も数多く登場する。 その可愛らしさに、きゅんとする。思わず笑みがこぼれる日本美術。 また奥村土牛(とぎゅう)の《兎》や竹内栖鳳(せいほう)の《鴨雛》といった、ふわふわの動物画、愛らしい子供画など、キュートなモチーフが集まっていて、日本画初心者も気軽に楽しめるはずだ。 伊藤若冲《伏見人形図》1799(寛政11)年 紙本・彩色 山種美術館伏見稲荷の土産物として知られる素朴な伏見人形は、若冲が長年好んで取り上げた絵のモチーフ。 伊藤若冲《布袋図》18世紀(江戸時代) 紙本・墨画 個人蔵特にふくよかな姿の布袋さん。吉祥画題でおなじみの、このテーマの作品も数多く残っている。 長沢芦雪《菊花子犬図》18世紀(江戸時代) 絹本・彩色 個人蔵子犬の絵でも有名な円山応挙の弟子・長沢芦雪。彼の犬の絵は師匠譲りで写実的だったが、次第にゆるくなり、キュートなフォルムの子犬画は江戸時代にも大ブレイクした。 特別展『癒やしの日本美術―ほのぼの若冲・なごみの土牛―』 山種美術館 東京都渋谷区広尾3‐12‐36 開催中~2024年2月4日(日)10時~17時(入場は閉館30分前まで) 月曜(1/8は開館)、12/29~1/2、1/9休 一般1400円ほか TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル) ※『anan』2023年12月13日号より。文・山田貴美子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/520438/ Source: ananweb

  • 2023.12.06

愛らしい表情やぎこちないフォルムに夢中! みちのくの“民間仏”に注目した仏像展 | ananweb – マガジンハウス

多種多様な民間仏に込められた、人々の祈りとは? 仏像展「みちのく いとしい仏たち」をご紹介します。 みちのく いとしい仏たち 「仏」という言葉から連想される一般的な姿とは微妙に異なる愛らしい表情やぎこちないフォルム。それなのに不思議と親近感が湧いてくるこれらの仏像は江戸時代、みちのくの地で作られた“民間仏”。大工や木地師(きじし※ろくろを用い、主に木工品などを作る職人)が製作した民間仏は小さなお堂や祠に祀られ、人々の心の拠り所、そして日常のささやかな祈りの対象として大切にされてきた。 しかし、当時は上方や江戸で修練を積んだ仏師が、立派で端正な姿の仏像を製作し、全国に広がっていった時代。そんな時代に、なぜみちのくでは民間仏が浸透していた? 「立派な仏像・神像は大変ありがたい存在ではありますが、厳しい風土を生きる東北の人々は、生活のなかの小さな愚痴やちょっとした日々の心配ごとなどを聞いてもらう対象として、もっと親しみやすい存在を必要としていたのでしょう。それは必ずしも立派な姿である必要はなく、やさしい姿かたちのお像で十分だったのだと思います。むしろそうしたお像だから悩みを打ち明けやすかったのでは」(東京ステーションギャラリー学芸員・柚花文さん) 民間仏の造形は、シンプルさを追求したようなものから、装飾性のあるもの、立像から坐像までさまざま。 「立派なご本尊も目にしているはずなので、大工さんも仏像の造形の基本を知らなかったわけではないはず。その上で仏像作りのルールに忠実に従うよりも、依頼主の気持ち、たとえば疫病、飢饉、災害などで命を落とした人々への鎮魂などに寄り添い、できる技術の範囲のなかで心を込めて作った結果、生まれた造形なのだと思います」 「笑みをたたえる」「ブイブイいわせる」といったユニークな8つのセクションで構成され、約130の民間仏が展示される本展。歴史ある東京ステーションギャラリーならではのレンガ壁の展示室とマッチした風景も、見どころのひとつになりそう。 「難しい話は抜きにして、人々が民間仏にどのような祈りを込めてきたのかについて、思いを馳せながら楽しんでいただければ」と柚花さん。似ている誰かを想像したり、お気に入りのひとつを見つけたり。仏像展初心者も、ぜひ足を運んでみて。 《六観音立像》江戸時代 宝積寺/岩手県葛巻町良質なカツラの木に彫られたあっさり顔の六観音立像。顔とは対照的に衣のひだからは手が込んでいることがわかる。6体並んだときの祈りの静けさと装飾性を帯びた造形が秀逸。 《山神像》江戸時代 兄川山神社/岩手県八幡平市本展のメインビジュアルにも選ばれた、林業に携わる人々に今なお厚く信仰されている山神様。狭い肩、バランスのとれた3頭身、控えめな合掌ポーズが魅力的。 《不動明王二童子立像》江戸時代 洞圓寺/青森県田子町腰をくねらせた不動明王と、やんちゃそうな筋肉もりもりの童子たち。山深い土地で生まれた味わいあるトリオ。 《鬼形像》江戸時代 正福寺/岩手県葛巻町地獄で亡者の罪を責め苛む鬼が、左手に女性を引きずり得意満面な表情を見せる。楽しそうな表情からは、つらい現世を笑い飛ばしたいという願いも見受けられる。 《童子跪坐像》右衛門四良作 江戸時代(18世紀後半) 法蓮寺/青森県十和田市丸みを帯びた像の底が前後に揺れる可愛らしい仏像。十和田にはこうした武骨で優しい像が多く残されている。 みちのく いとしい仏たち 東京ステーションギャラリー 東京都千代田区丸の内1‐9‐1(JR東京駅 丸の内北口 改札前) 12月2日(土)~2024年2月12日(月)10時~18時(金曜~20時。入館は閉館の30分前まで) 月曜(1/8、2/5、2/12は開館)、12/29~1/1、1/9休 一般1400円ほか TEL:03・3212・2485 ※『anan』2023年12月6日号より。写真・須藤弘敏 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/519150/ Source: ananweb

  • 2023.12.03

還暦を機に人生初の個展開催! 松尾スズキ「わかりやすいものを描いたら負けだなと (笑) 」 | ananweb – マガジンハウス

舞台や映画、小説、コントなど、あらゆる分野で独自の世界観を生み出している松尾スズキさん。還暦を機に人生初の個展を開く。その名も「生誕60周年記念art show『松尾スズキの芸術ぽぽぽい』」。 わかりやすいものを描いたら負け(笑)。ポエムも添えました。 「コロナ禍で時間が空いてしまった時に、部屋に飾る絵が欲しいなとキャンバスに描き始めたんです」 小さい頃から絵が好きで漫画家を目指した時期もあり、美大のデザイン科に進学した。表現のスタートは絵なのだが、演劇の道に進んでから、仕事を離れ、純粋に作品を描いたのは久々の体験だった。 「数年前からiPadで描くことを覚えて、連載しているメールマガジンにイラストを発表したりしていました。そして、自分は絵を描くのが好きだったと思い出したんです。ただ、アクリル絵の具で描きだしてからは、デジタルで描こうという気にならなくなってしまって」 iPadと、紙やキャンバスに描くのでは肉体的な感覚が全く異なる。 「紙の上にペンを走らせる時のカリカリカリというASMR的な気持ちよさ(笑)。はみ出さずに色を塗れた快感や、パレットと紙の上に載せた色が変わって見える驚き。アナログの『失敗できない』という緊張感は、舞台と似ているところがあるのかもしれません」 還暦のイベントとして展示するのはどうか、とスタッフの発案で本展の開催が決まった。2年間ひたすら描き続け、大小合わせて約250点以上の作品が展示される。描く中で気づいたのは、背景よりもキャラクターを描きたいということだった。 「『シン・ヒョットコ』のフォルムを見つけた時は興奮しました」 花瓶のような輪郭の「シン・ヒョットコ」や、ぶ厚い唇の怪獣(?)「トゲくちびる」など、独自のキャラクターがたびたび登場する。 「モンスターのモチーフは多いですね。勝手に頭の中で、松尾の中のアベンジャーズがポーズを決めている感じ(笑)。僕自身、俳優としても動いていたいタイプなので、絵の中でも普通には立たせたくないんです」 横尾忠則さんや岡本太郎さんの作品に惹かれるという松尾さん。 「描かずにいられなかったんだろうと思わせる、己が出ている作品が好きですね。わかりやすいものを描いたら負けだなと思って(笑)」 ただ、意識しているのは「どこか可愛げのある絵」。ポップな色調の自画像や屏風のようなものなど、作品もバラエティに富んでいる。また、本展では作品ごとにポエムのような小さな文章を添えるらしい。 「読み物としても楽しんでもらえたらと、図録にも全て収録します。めちゃくちゃ大変でしたが、自分はやっぱり言葉の人間でもあるのだなと思いました」 豪華ゲストを迎えたトークセッションのほかに、映像や立体作品なども展示する。自ら台本を書き、吉田羊さんとのかけ合いで構成する本人による音声ガイドは必聴だ。タイミングが合えば、会場で松尾さん本人に会えるかも? 人を楽しませることにこだわってきた松尾さんらしいart showになる予感。 「花とおじさん」アクリル/キャンバスボード 横240mm×縦300mm 「トゲくちびる・発射」アクリル/画用紙 横242mm×縦350mm まつお・すずき 1962年、福岡県生まれ。作家、演出家、俳優。’88年に大人計画を旗揚げ。2020年よりBunkamuraシアターコクーン芸術監督、’23年より京都芸術大学舞台芸術研究センター教授に就任。著書に『人生の謎について』『矢印』『ツダマンの世界』など。 「生誕60周年記念art show『松尾スズキの芸術ぽぽぽい』」 絵と作品に添えた文章、音声ガイドの情報から想像を膨らませて、立体的に楽しんでほしい、と松尾さん。作家の脳内探索ができるような展示を目指している。作品の複製画(ジグレー)、銅版画(エッチング)をサイン入りで販売するほか、Tシャツやクリアファイル、豆皿などグッズ展開もある。スパイラルホール(スパイラル3F) 東京都港区南青山5‐6‐23 12月8日(金)~15日(金)11時~17時(8日は13時~20時、9・10日は11時~20時)。日時指定予約制。前売り1900円ほか。松尾スズキさん本人による音声ガイド付き入場券も。当日券あり。大人計画 TEL:03・3327・4312(平日11時~19時) ※『anan』2023年12月6日号より。写真・小笠原真紀 インタビュー、文・黒瀬朋子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/519129/ Source: ananweb