コミック

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  • 2024.05.28

何がアートの価値を決めるのか? アート×マネーに迫る、新感覚コミック | ananweb – マガジンハウス

“何がアートの価値を決めるのか”をテーマに描いたマンガ『いつか死ぬなら絵を売ってから』について、作者のぱらりさんにお話を聞きました。 「アート×マネー」のスリリングな関係性を見つめる、新感覚コミック。 「絵画作品が高額で売れたというニュースが流れると『絵一枚にそこまでの価値があるのかわからない』と否定的な見方をされることがありますよね。私はアートが好きなので、そういう意見はつらいな、と。なので、絵画や芸術のすばらしさを、専門知識も噛み砕いてエンタメ的に面白く描けたら、みんなも興味を持ってくれるかなと思ったんです」 かくて生まれたのが、ぱらりさんの本作。普通の暮らしさえ望めない境遇にいた霧生一希(きりゅう・かずき)の唯一の慰めは絵を描くこと。アート界にパイプを持つ資産家の嵐山透(あらしやま・とおる)に才能を見出され、一希は半信半疑ながら、絵を売って人生を変えていくことに目覚めていく。ぱらりさんは“何がアートの価値を決めるのか”という、多くの人が知りたかったテーマに挑む。 それまではアートに触れたり学んだりする機会がなかった一希だが、透をはじめ、美大で教鞭を執る雲井(くもい)や売れっ子アーティストの凪森(なぎもり)らから刺激を受けて急成長。その変化にわくわくする。 「一希は描かずにはいられないという衝動でやってきた部分があるわけですが、それを市場に乗せていこうとすれば、売れる絵とは何かも考えていかなくてはならないわけです」 たとえば、一希の境遇も、“反骨の”とか“逆境から這い上がった”といった美辞麗句にすることはできるが、そう単純な話でもないだろう。 「考え方次第で武器にもできるかもしれませんが、一希自身は自分の過去を一方的に消費されたら傷つきますよね。その中でどうしても衝突や葛藤が起きてくるはず。もっともそういう課題は雲井や凪森も同じ。もちろん絵に限らず、マンガや音楽…何でもそうだと思いますが」 一希の絵の特徴を、雲井は〈パッと見で連想するのはヴァロットン〉〈「黒」にこだわってるのかな〉等々、瞬時に見抜く。実際、一希ほか誰がどんな絵を描くのかは本作のひとつのキモだ。 「アート系のマンガをやるなら、登場人物が描く絵はすごく大事だなと思っていて。なので、そこも来歴を含めて考えていきました。一希なら、アカデミックな美術教育は受けていないけれど、幼少期からずっとドローイングを続けてきた独特の描写力はあるだろうな、といったように」 3巻では、一希が意欲を見せていた、アート新施設のオープン記念企画展をめぐる、マーケティング戦略の話が動き出す。それぞれの願いの行方を見守りたい。 ぱらり『いつか死ぬなら絵を売ってから』3 養護施設育ちの一希がネットカフェ暮らしをしていたときに、アートへの愛情や審美眼を持つ透と出会う。ボーイ・ミーツ・ボーイの物語でもある。秋田書店 748円 ©ぱらり(秋田書店)2023 ぱらり マンガ家。京都府出身。2014年ごろからSNSや同人誌などで活動を始め、商業デビュー。他の著作に『ムギとペス ~モンスターズダイアリー~』など。 ※『anan』2024年5月29日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/550533/ Source: ananweb

  • 2024.05.22

妹をサブスク!? SNSで話題を呼んだ、不気味な衝撃作『妹・サブスクリプション』 | ananweb – マガジンハウス

橋本ライドンさんによる、コミック『妹・サブスクリプション』をご紹介します。 サブスクなしでは生きられない! 姉の歪んだ愛情が行き着く先は? 定額料金でさまざまなサービスを受けられる、サブスクリプション。 「私が使っている絵を描くソフトもサブスクですが、提供している会社の経営次第で、すべて失われる可能性もあるわけです。いまや生活に欠かせないものなのに、この危うさは怖いなあという思いがありました」 橋本ライドンさんのこの物語も、絵柄のかわいさとゆるさに和んでいると、思わぬ怖さが待っていたりする。まずもって、「妹」と「サブスクリプション」という言葉の組み合わせが謎なのだが…。 「指摘されて改めて気づいたのですが、私は執着とか愛の話を描くのが好きみたいで。もうひとつ、姉妹という関係にも惹かれていたので、姉が妹を追い求める話にしようと思いました。自分はきょうだいがいないので憧れもあるのですが、“血を分けた限りなく近い他人”という存在に、ロマンを感じてしまうのです」 4コマ形式で進んでいく本作。1話目では、会社から帰宅した姉のみゆきを妹の今日子が無邪気に迎えている。その後も仲良し姉妹のやり取りが描かれるのだが、今日子はちょっとした衝撃やケガでピタリと動きが止まってしまい、そのたびにみゆきは落胆する。動かない妹はやがて業者によって回収され、何事もなかったように元気な姿で戻ってくる。どうやら妹はサブスク商品らしいのだが、なぜみゆきがそんなことをしているのか、読者にはなかなか見えてこない不気味さがある。 「何かひとつのものを守ろうとして凶暴になる瞬間って、誰しもあると思うのです。みゆきは、会社ではしっかり者で通っていますが、そのギャップを描きたかったんです。彼女は妹と穏やかな暮らしを続けられさえすればいいと思っているけれども、周りがそうさせてくれない。袋小路に追い詰められたらどうなるのか、私自身も見てみたいと思いました」 妹をサブスクするSF的設定とサスペンス的な不穏さ、多様な価値観や倫理観が交錯する社会派ドラマの一面など、さまざまな要素を内包しながら、姉妹はどこへ向かうのか。 「いつもは一対一の関係性を描くことが多いのですが、今回はいろんな人の目線を意識しました。どの目線にもそれぞれに正義があって、どれも完全に正しいとは言い切れないけど、間違っているわけでもない。みゆきも普通に傷つく子だし、自分が正しいという絶対の感情だけで動いているわけではないのだと、描きながら理解できるようになりました」 『妹・サブスクリプション』 しっかり者のみゆきは、妹の今日子をひそかにサブスクしている。一体なぜ? 本物の今日子は? SNSで話題を呼んだ衝撃作。描き下ろし番外編も収録。講談社 1100円 ©橋本ライドン/講談社 ※『anan』2024年5月22日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/548976/ Source: ananweb

  • 2024.04.02

プロの仕事ぶりを堪能! 校閲の奥深い世界にスポットを当てたコミック | ananweb – マガジンハウス

昨今の辞書ブームや、校閲者が主人公の作品などが人気を博し、校閲という仕事が広く知られるようになってきた。本書『くらべて、けみして 校閲部の九重さん』もまた、そんな校閲の世界にスポットを当てた楽しいコミック。著者のこいしゆうかさんは、取材に1年ほどかけたそうで、現在も文芸誌『小説新潮』で連載中。 校閲の世界の奥深さに触れるコミック。タイトルの意味がわかると、痺れる! 「こういうミスがあった、こういうやりとりがあったなど、作家さんと校閲者さんとの間で起きた実際のエピソードを交えながら、ストーリーの部分は、校閲者さんたちの日常や、ひとりひとりが持つ校閲の哲学のようなものをどうやったら織り込めるかなと考えていきました」 舞台は、老舗出版社〈新頂社〉の校閲部文芸班。社歴10年目の九重(くじゅう)心さんを中心に、新入社員の瑞垣さん、校閲部OGのとっとこちゃんこと月山さん、ストイックな丹沢さん、校閲部のレジェンドと呼ばれる矢彦さんなど、個性的な面々揃い。彼女たちが実直に語り合う言葉が、どれも興味深い。 「九重さんをはじめ、ほとんどのキャラはお会いした校閲部の方の印象をミックスしています。最初は、比較的もの静かな方が多いなと思っていたのですが、ちょっとしたこだわりなどに触れると話が止まらないこともあり、そういう人間らしさも参考にしています。瑞垣さんには、仕事のあり方についてシロウト感覚で質問していく、いわば読者目線に近い役割をしてもらいました。矢彦さんだけは実在の人物を描いています。校閲への哲学や考え方が明確で、そのまま漫画に出したいと思ったんです」 校閲者がゲラ(校正紙)を読んでいて疑問に感じた部分などを指摘することを「鉛筆を入れる」「鉛筆書き」などと言うのだが、そこにも個性が出る。 誤植を見つけたり、ファクトチェックしたりするのは、もちろん仕事として求められる部分ではあるのだが、同時に、文芸の校閲には、実は「これという正解がない」といわれているのが驚きだ。 「校閲者さんはみな作家さんの気持ちや意図を汲むのですが、それゆえに葛藤します。鉛筆の入れ方を経験を積みながら学び、九重さんの言うように、〈百年後に残す一冊を作っていくという意志〉で、さらに次の世代へ技術を引き継いでいく。まさに職人仕事なんだなと。校閲者さんは編集者さんとは違うけれど、作品をより良くするために親身になって一緒に考えてくださっているし、私自身も一著者として、自分が考えた世界について誰よりも真剣に考えてくれる人が一人でも多いのはありがたい。編集さんだけではなく校閲者さんも味方なんだなと思うと、心強いです」 プロの仕事ぶりを堪能されたし。 『くらべて、けみして 校閲部の九重さん』 新潮社校閲部および編集者(OB含む)が全面協力。実際に校閲部に所属する方々のミニコラムも収録。続刊では、フリーの校閲者にもスポットを当てる予定。新潮社 1265円 ©こいしゆうか/新潮社 こいしゆうか 漫画家、キャンプコーディネーター。ゆるいタッチで難しいことをわかりやすく伝える漫画を得意とする。主な書籍に『ゆるっと始める キャンプ読本』など。 ※『anan』2024年4月3日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/540203/ Source: ananweb

  • 2024.03.20

川島明「『ジョジョ』で一番好きなキャラ」 魅了されたマンガの主人公を明かす | ananweb – マガジンハウス

大のマンガ好きとして知られる麒麟・川島明さん。彼が惹かれるマンガの主人公とは? 『寄生獣』泉 新一 高校生の等身大の主人公を通していろいろ考えさせられる作品です。泉新一は、マンガ界において数多くいる“普通の少年”といわれる主人公の中でも、本当に一番なんでもない人物ではないでしょうか。だって、ほんまにただ寝ていただけの、できるだけ何もしたくない高校生が、寄生生物であるミギーに寄生されるところから物語がスタートしますから。でも、戦う使命が生まれたことやミギーの影響もあり、どんどんワイルドになり、周りの人から雰囲気が変わったと言われるくらい、すごい男になっていきます。本作には無駄な描写が一切なく、また、えげつないシーンもたくさん出てきます。“なぜ動物は食べるのに人間は食べないのか”という問いを寄生獣が投げかけてくるなど、世界や人が抱える問題を泉新一という等身大のキャラクターの目を通じて描いた、考えさせられる作品でもあります。メッセージ性は強いのに難しくなく読めるというバランスも、すごくいいんですよね。 『新装版 寄生獣』岩明 均突如、宇宙から地球に飛来した、人間の脳を乗っ取り他の人間を食い殺す寄生生物たち。その一つであるミギーと共存関係になった新一は、寄生生物と激しい戦闘を繰り広げることに。アフタヌーンKCDX 全10巻 各770円/講談社 ©岩明均/講談社 『ジョジョの奇妙な冒険 PART4 ダイヤモンドは砕けない』東方仗助(ひがしかた じょうすけ) 虹村億泰(にじむら おくやす) ヤンキーで未熟な二人ですけど、「ジョジョ」で一番好きなキャラ!「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズはどれも大好きなんですが、主役という意味ではPART4の東方仗助が一番ですね。『ビー・バップ・ハイスクール』のようなヤンキー漫画も読んでましたが、それを“ジョジョ風”に味付けすると、仗助や(虹村)億泰みたいになるんだろうなと。メルヘンチックでSF的な架空の街で巻き起こるスタンド使いの話に、非常に昭和なリーゼントと短ラン姿のやつがいる(!)というのは面白いですよね。 それに、リーゼントをけなされるとキレたり、妙な罠に簡単に引っかかってしまう仗助と億泰は、すごくかわいいんです。ダメで未熟な二人やからこそ力を合わせたらすごいというところも魅力的やし、僕は二人ともが主役やと思っています。亡くなったと思われた億泰が、空間を削り取るという強いスタンドである“ザ・ハンド”と共に登場するシーンなんて、しびれますから。 登場人物が全員いい! 「PART4の登場人物たちはみんな、個性豊かで魅力的。全員がいいんですよね」と川島さん。PART3の主人公であり、仗助に迫る危機を伝えるため杜王町にやってきた空条承太郎、真面目な広瀬康一と彼に想いを寄せる狂気的な山岸由花子などが登場。また、スピンオフが作られるほど人気を博すキャラクターである漫画家の岸辺露伴や、仗助とラストバトルを繰り広げることになる殺人鬼の吉良吉影など、クセの強い人物が揃っている。 『ジョジョの奇妙な冒険 PART4 ダイヤモンドは砕けない』荒木飛呂彦ジョースター一族の運命を綴る、壮大なスケールの物語。PART4は、スタンド使いが集まる杜王町と、そこに暮らす温厚な高校生である東方仗助に迫る危機を描くサスペンス。ジャンプコミックスDIGITAL 全12巻 各792円/集英社 ©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社 『機動警察パトレイバー』泉 野明(のあ) 運命のライバルと1対1で戦う主人公を応援したくなります。小学生の頃、兄貴がハマっていたのをきっかけに途中まで読んでいたのですが、40歳になってようやく全巻読み終えました。主人公の泉野明は、“レイバー(汎用人間型作業機械)”による犯罪を取り締まるために開発された“パトレイバー”の新人操縦士。仕事の面ではあまり優秀ではないけど、勝ち気で強い女の子です。彼女にはバドという敵というかライバルがいて、最後まで読むとわかるんですけど、本作を簡単に言うと二人の喧嘩の話なんですよね(笑)。ずーっと決着がつかない状態が根底にあるなかで、いろいろな出来事が起こるんですけど、最後は、野明vsバドの戦い、いわゆる武蔵と小次郎みたいな展開に。やっぱり、この戦いをやらなければいけなかったんやな…としびれます。最後までこの二人で走りきる勇気もすごいと思うし、ストーリー的には単純なんですけど、野明を応援したい気持ちになります。 ここが鳥肌シーン! 川島さんがめちゃくちゃ心を掴まれたという、野明と最強のライバルであるバドとのラストバトルがこちら。「特に最後の2巻は、すべてを取っ払った二人だけの戦いになるので必見です。しかも、取っ組み合いで終わるというところも、すごくいいんですよね」 『機動警察パトレイバー』ゆうきまさみレイバーが普及した近未来の東京。新たな社会的脅威となったレイバーの犯罪に対処するため、警視庁は特殊車輌二課を創設。そこの第2小隊に配属された警察官たちの活躍の物語。少年サンデーコミックス 全22巻 各528円/小学館 ©ゆうきまさみ/小学館 『ひらやすみ』生田ヒロト マイペースにゆったりと過ごすヒロトくんを見て癒されています。最近の作品ですごく好きなのが『ひらやすみ』です。周りに慌ただしくしている人が多いなかヒロトくんだけマイペースに過ごしているんです。ボーッと釣り堀で働いていたり、ちょっと気になる子ができたりと、ゆったりと日常を送る姿を見ているだけでホッとするし、癒されてます。また、真造圭伍先生だからこそ描ける、コマをぜいたくに使った画を見ていると、呼吸が整うというか、深呼吸ができるというか。それでもたまに、キュッと胸を締め付けてくるような表現や展開もあったりして。それも先生らしいなぁと思います。 このシーンが好き! マイペースに過ごすヒロトだが、過去に何かがあったことを匂わせるような描写も登場する。「芸能界にいて、とんでもないショックを受けたことがあるようです。これから明らかになるんでしょうけど気になります」 このコマ割りが好き! 読んでいて気持ちがいい構図やコマ割りにも癒されているという川島さん。「ヒロトくんが働く釣り堀のワンシーンを見開きで描くなど、ページをゆったりと使った、真造先生にしか描けない画が本当に素晴らしいです」 『ひらやすみ』真造圭伍人柄の良さだけで、近所に住むおばあちゃん・和田はなえから家を譲ってもらったヒロト。お気楽に暮らす彼と、その周りに集まってくる、生きづらさを抱えた人たちの物語。ビッグ コミックス 1~6巻 各715円/小学館 ©真造圭伍/小学館 かわしま・あきら 1979年2月3日生まれ、京都府出身。『ラヴィット!』『ベスコングルメ』(共にTBS系)、『川島・山内のマンガ沼』(読売テレビ系)などレギュラー番組多数。 ※『anan』2024年3月20日号より。写真・土佐麻理子 取材、文・重信 綾 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/537889/ Source: ananweb

  • 2024.03.20

川島明「『あしたのジョー』がなければ、芸人になっていなかったかもしれない」 | ananweb – マガジンハウス

大のマンガ好き芸人として有名な、麒麟・川島明さん。好きな作品は「今でも読み返しますね」と言う川島さんに、今も魅了され続けるバイブル的な名作の主人公を教えていただきました! 大のマンガ好きとして知られる麒麟・川島明さん。今や朝の顔にもなり多くの人を魅了している彼が惹かれるマンガの主人公とは? 「『あしたのジョー』の矢吹丈や『ピンポン』のペコなど、どんなにすごい人間でもスランプやエアポケットがあり、それを乗り越えて初めてヒーローになれると教えてもらえる主人公が好きです。圧倒的に強すぎる人もいいんですけど、絶対的エースじゃないからこそ応援したくなるし、欠点やコンプレックスなどの人間味が、ファンが魅了される部分になると思うんです。僕自身、そうした主役の“欠片(かけら)”を持ちながら、日々、頑張っている感じがしています」 『あしたのジョー』矢吹 丈 背中を押してくれるジョーはずっと一番好きな主人公です。小学生の時に出合った矢吹丈が、原点というか、いまだに一番好きですね。ジョーは特殊能力で悪を懲らしめるような絶対的主人公ではなく、人道に反する少年で未熟なところから始まるけれど、強くなりたいというピュアな思いがあり、また、力石徹やカーロス・リベラなどとの出会いを通じて負けられない理由もできる。そんな成長物語を読むのが初めてで、こんな主人公もいるんだと衝撃を受けました。力石と戦い、彼が亡くなって生きる目標を失い、長いスランプ期間に陥りますが、その長さや行動の描写はめちゃくちゃリアル。一度どん底まで落ちたことで、カーロス・リベラと戦って野性を取り戻すというその後の展開がよりドラマティックになるし、深みも増すんですよね。 本作がなければ芸人になっていなかったかもしれないと思うくらい背中を押してくれた作品で、自分がブレていると思った時に読み返します。 『あしたのジョー』原作/高森朝雄 漫画/ちばてつや矢吹丈が、力石徹やホセ・メンドーサなどの強敵と戦い、葛藤しながらも成長する様を描く。魅力あふれる登場人物、名台詞や名場面がめじろ押しの、ボクシング漫画の金字塔。講談社コミックス 全20巻 各385円/講談社 ©高森朝雄・ちばてつや/講談社 『ピンポン』ペコとスマイル 復活をとげたペコと幼馴染みのスマイルの決勝戦に胸打たれます。主人公のペコは天才でありながら、次第に、どんどん潰れていきます。彼がいなくても卓球界は当たり前に回り続けるけれど、彼を意識しているドラゴンやアクマなどの選手たちみんなが、ヒーローの戻りを待望し続け、復活するというストーリーがすごくいい。そして最後に、幼馴染みのスマイルとやり合うという展開も胸を打つ。単純にスポーツ漫画とはいえない素晴らしい作品です。 卓球って、描くには結構スピード感が求められる展開が続くんですけど、一枚一枚の絵が素晴らしくて画集のようだし、躍動感もある。NSC時代に出合い、マンガの概念を覆されました。当時、自分たちでネタを作って先生に見せていましたが、発表前日の夜に本作を読んだせいで“もっとちゃんと深く描かないとダメだと”思い、作ったネタを一回捨てたことも(笑)。あれだけクオリティの高い作品を読むと、背筋が伸びますよね。 このキャラも好き! 川島さんが「お気に入りのキャラです」と名前を挙げたのが、ペコとスマイルの前に立ちはだかる強豪校の主将であり、卓球に人生を捧げてきたドラゴン(風間竜一)。最後の大会でスランプを克服したペコと戦うことに。 この表紙が好き! 川島さんが所有するビッグ コミックス版の表紙は、1巻はスマイルで、5巻にペコが登場する。「最終巻にようやくヒーローであるペコが出るところも、物語と同じ“おまたせ”感があって好きです。松本先生が計算していそうです」 『ピンポン』松本大洋卓球に絶対的な自信と愛を持つペコ(星野裕)と、暇つぶしだというスマイル(月本誠)はじめ、卓球に打ち込む5人の高校生を描いた青春ドラマ。ビッグ コミックス全5巻 961円~、小学館文庫 全3巻 各734円/小学館 ©松本大洋/小学館 『BLUE GIANT SUPREME』宮本 大(だい) 夢に向かってピュアに走る大は、令和の時代にこそ必要な人です。本当に真っすぐな意味で大好きなのが「BLUE GIANT」シリーズ。今は第4部が連載中ですけど、どれも最高でしかないです。主人公の宮本大は“久しぶりに昭和のど真ん中の気持ちいいやつが出てきたな”と思いました。勢いと努力だけで夢に向かって突き進んでいく彼は、何かを諦めていた周りの人をも引っ張っていく。根拠のない“大丈夫”という言葉がなかなか言いづらくなった令和の時代に、すごく必要な人なんだろうなと思わされました。とにかくピュアに走り続ける姿も“これぞ主役”という感じだし、ある種、『ドラゴンボール』の孫悟空みたいともいえる存在です。 そして、大を見て心が熱くならないなんて嘘やろ! と思うくらい、見ているだけで何かを始めたくなるカンフル剤みたいな人物でもあって。僕自身、初めて読んだ時は思わず走り出しましたし、なんならサックスも始めましたから(笑)。 このキャラも好き! 大が単身で乗り込んだドイツで出会った、ウッドベーシストのハンナが好きだと川島さん。「女がジャズをやるな、体が小さいから向いてないなどいろいろ言われながらも、努力を重ねる姿に感銘を受けます。ぶつかり合うけど最終的に大と組んだバンドがうまくいってよかった」 『BLUE GIANT SUPREME』石塚真一ジャズに魅了されサックスプレイヤーになった宮本大の挑戦の物語。川島さんが特に好きという第2部にあたる本作は、ドイツはじめヨーロッパが舞台となっている。ビッグ コミックス スペシャル 全11巻 各770円/小学館 ©石塚真一・NUMBER 8/小学館 かわしま・あきら 1979年2月3日生まれ、京都府出身。『ラヴィット!』『ベスコングルメ』(共にTBS系)、『川島・山内のマンガ沼』(読売テレビ系)などレギュラー番組多数。 ※『anan』2024年3月20日号より。写真・土佐麻理子 取材、文・重信 綾 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/537875/ Source: ananweb

  • 2024.02.27

陰謀論と恋心を絡めた前代未聞のラブコメ!? 大ヒット『チ。』作者の新作に注目 | ananweb – マガジンハウス

アニメ化が決定している大ヒット作『チ。―地球の運動について―』では、異端とされた地動説の証明に命を賭けた人々を描いた、魚豊さん。最新作『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』のテーマは陰謀論なのだが、世界を揺るがしたふたつの出来事が創作のきっかけになっている。 深読みしすぎて迷宮入り!? 恋と陰謀論が行き着く先とは。 「ひとつは、2021年にアメリカで起きた議事堂襲撃事件。あまりにもセンセーショナルで驚いたのと同時に、陰謀論にまつわるこれほど大きな事件は、今後起こりようがないだろうと思いました。だけど翌年に、ロシアとウクライナの戦争が始まって。ほぼリアルタイムで送られてくる戦地の映像に対して、SNSなどでは『これは陰謀で、ウクライナではそれほど人は死んでいない』なんてコメントを見かけたりする。戦争という大惨事すら呑み込んでしまうくらい、陰謀論は大きな事象になっていて、なくなるどころか、もはや人間がずっと付き合っていかなければならないものだと思ったんです」 そもそも、陰謀論にハマりやすいと自覚している人なんていないはず。主人公の渡辺も例外ではなく、食肉の冷凍倉庫で積み下ろしのアルバイトをしながら、人生を好転させようと自己啓発セミナーに参加していたものの、まんまと騙されてしまう。失意のどん底にいた彼を救うのが、飯山さんという女性だった。 「陰謀論に陥る人は、物事を深読みしがちなところがあるらしいんです。その情報の奥に本当のことがあるのではないかと必要以上に疑ってしまう心理は、恋愛に置き換えてみると意外と身に覚えがあったりしますよね。陰謀論を信じる人の気持ちはイメージしにくいけど、恋と絡めれば身近なこととして描けるかもしれない。この発見は大きかったです」 裕福な家庭に育った大学生の飯山さんは、世の中を良くしたいという高い志を持っている。フリーターの渡辺とは、いわば住む世界が違うのだが、“恋は盲目”状態の彼にはそれさえも燃料になってしまう。 「経済的・文化的格差は、残酷な現実としてあらゆる場面に存在していますが、心だけは平等だと思うのです。渡辺と飯山さんのようにたとえ格差があったとしても、通じ合うことはできるっていうのも、描きたかったことのひとつだったりします」 恋心が暴走して渡辺はやがて謎の組織と接触するのだが、1巻は序章としてもたっぷりの読みごたえ。 「よくわからない存在として陰謀論者を切り捨てるのではなく、共感できなくても認知はするというような、エンパシーが今の時代は大事だと思うんです。3作目にこのテーマで作品を描くチャンスを頂けたことを誇らしく思います」 魚豊『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』1 「人生が始まってる気がしない」19歳青年が、意識の高い女子大学生を好きになり、世界を揺るがす陰謀論と出合う、前代未聞のラブコメ。3月12日に2巻発売予定。小学館 715円 ©魚豊/小学館 うおと マンガ家。2018年「ひゃくえむ。」で連載デビュー。『チ。―地球の運動について―』で第26 回手塚治虫文化賞マンガ大賞など数々の賞を受賞。 ※『anan』2024年2月28日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/534079/ Source: ananweb

  • 2024.02.19

インスタで大バズり! 高校生のピュアで不器用な初恋に胸キュン必至の恋愛コミック | ananweb – マガジンハウス

同じクラスの前後の席になったことがきっかけで、少しずつ距離を縮め、はじめての彼女/彼氏の関係になった荻野美穂と村田くんの恋の行方を描く『きらきら、あおい』が大バズり中のitoさん。主人公と同じ世代はもちろん、初恋から遠くなった大人たちの心もくすぐる繊細な作品だ。 テーマははじめての恋愛。ふたりのピュアさや不器用さに胸キュン必至。 「前作『だけどやっぱり彼が好き!』の試し読みとしてふたりの短編をインスタに載せたところ、『続きが読みたい!』とのお声をたくさんいただいたんです。もともと高校生の恋愛物語を描きたい気持ちはボンヤリとあったのですが、フォロワーさんからの言葉がなければ描けていなかったかもしれません。感謝しています」 1巻で描かれるのは、はじめての告白、はじめての手つなぎ、はじめてのキス…ややスローに関係が深まっていくふたりの1年数か月。自分の体験と重ねて、あるいは憧れて、ドキドキしたりじれったかったり、読者にいろいろな思いを抱かせる。 「自分的には大勢が共感できるものをというよりも、超“主観”を意識しています。ふたりの恋愛模様を描いているのですが、物語の進行は美穂の一人称視点を徹底させました。等身大の素直な思いを描くことでリアリティが出たらいいなと」 水彩画のような柔らかなitoさんのタッチが、このみずみずしい初恋物語によく合っている。itoさんはイラストレーターとしても活躍しているが、マンガを描くときとどんな意識の違いがあるのだろう。 「大きく違うのは人物の表情ですかね。俳優とモデルの違いに近いのかなと個人的に思っているのですが…。漫画は人物の感情を伝えるために表情を描きますが、イラストは他の大切な情報を伝えるための補助の役割であることが多いので、最初に顔に目が行くような主張はしすぎないようにするのが重要かなと。意識としては真逆なのでとても難しいですが、奥が深くて楽しいです」 物語が進むにつれ、ふたりの恋愛に対するスタンスや価値観の違いなどが見え始め、ハラハラ感が加速。 「恋愛って最初のドキドキ期間が終わったら、どこまでも現実的な人間関係になっていくというか、あらゆる人づきあいにおいて根本的に大切なことは同じ。ありがとうやごめんなさいが言えるかとか。いわば人間力が試されるので、高校生のふたりには大きな試練。ふたりの成長を見守るつもりで描いています」 ito『きらきら、あおい』1 恋人とのありふれた情景がいかに忘れがたいものだったかを思い起こさせてくれる極上のコミック。Webコミックメディア「路草」にて連載中。トゥーヴァージンズ 979円 ©ito/トゥーヴァージンズ イト マンガ家。高知県生まれ。2017年からInstagramにマンガやイラストをアップするようになり、’19年に初単行本『だけどやっぱり彼が好き!』を刊行。 ※『anan』2024年2月21日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/532719/ Source: ananweb

  • 2024.01.30

夏目漱石が女子高生ライフを堪能!? 漱石マニアが描く転生モノ『JK漱石』 | ananweb – マガジンハウス

デビュー作の『先生と僕~夏目漱石を囲む人々~』や『漱石とはずがたり』など、漱石やその弟子たちを描くコミックなどを多く手がけてきた香日ゆらさん。最新作『JK漱石』は、漱石が没後100年の現代に、なぜか女子として生まれ変わってしまったという転生モノ。朝日奈璃音(りおん)という名で、女子校の人間関係に右往左往したり、友だちと一緒にお茶をしたりと、女子高生ライフを堪能している。 文豪が現代に生まれ変わったら? 女子高生になった夏目漱石の運命は。 「漱石については人物史からこぼれ話までだいぶ描いたので、これ以上は難しいかなと思っていたのですが、漱石であって漱石でない人物としてなら、また一から漱石を知ってもらうために描けるかなと。また、漱石や文学に興味のない人にも読んでもらえるかも、と思ったんです」 文豪と女子高生。一見、真逆の存在だが、香日さん曰く、「資料などを見てもわかるんですが、結構身だしなみなどに気を遣うし、身のこなしも上品な方だったようです。なので案外、ギャップや違和感はなかった」そうだ。キャラデザは、漱石は天然パーマでタレ目なので、璃音はストレートヘアでつり目にするなど、漱石の特徴をキャッチアップして反転させて作り上げた。 「とはいえ、璃音の地は漱石なので、顔の造作が違っても漱石の表情をさせる。そういうのがポイントかなと。苦虫を噛みつぶしたような表情をさせたり(笑)」 ストーリーは基本的に1話完結。毎回、流行のスイーツを友だちと食べたり、推し話をしたりと、女子あるあるの出来事を軸に展開する。 「今回は漱石の作品よりも、談話や評論などをネームに活かしています。実在の人物を元にしているので、絶対ひっくり返してはいけないポイントがあって、その点をどう結ぶか、璃音や彼女の周辺の女の子たちの日常をどう絡めていくか、という点を工夫しました」 2巻では、漱石が可愛がっていた若き芥川龍之介とのエピソードなども登場。マジメな文学談義がある一方で、漱石と璃音がオーバーラップすることで醸し出されるコメディパートも楽しい。 「漱石は同時代に生きていた人にも後世の人にもすごく影響を与えた、まさに文豪です。私もファンになったことでマンガ家になる人生なんて想定していなかったのになってしまって、メンタルのみならず物理的に人生が変わったんです。あらためてすごい存在だなと思いますね」 『JK漱石』2 自他ともに認める漱石マニアの香日さん。膨大な資料と深い読解で作り上げた独特の漱石ワールドが、本作でも軽やかに炸裂。今年中に3巻を刊行予定。KADOKAWA 682円 ©香日ゆら/KADOKAWA こうひ・ゆら マンガ家。青森県出身。同人活動で細々と漱石をめぐるマンガを描いていたところ、編集者から声を掛けられ、2009年に商業誌デビュー。 ※『anan』2024年1月31日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/528885/ Source: ananweb

  • 2024.01.24

演奏の難しさと喜びを生き生きと表現! 吹奏楽青春譚『宇宙の音楽』 | ananweb – マガジンハウス

“息が合う”ことの難しさと喜びを描く、吹奏楽青春譚。山本誠志さんによる『宇宙の音楽』をご紹介します。 本作のタイトルになっているのは、吹奏楽の超難曲とされる曲。宇宙(たかおき)零はこの曲を聴くと、病室と消毒液の匂いを思い出す。有望視されるトランペット奏者だった彼は、持病のぜん息で夢を阻まれてしまったのだ。 「吹奏楽の本質は“息を合わせる”ことですが、それができない主人公にしようと思いました。僕も小さいときに軽いぜん息を経験しているので、感情を込めて描けるかなという思いもあったんです」と、著者の山本誠志さん。零はあえて吹奏楽部がないはずの高校に進学するが、創部したての吹奏楽部と、部長で独特の感性を持つ星野水音(みお)と出会い、彼女の導きで指揮者を志すことに。 「音楽はひとりでできると思っていた零が、ほかの奏者がいないと成立しない指揮者になる。その過程を通して、人と共にいる喜びを知る姿を描こうと意識していました」 挫折を味わっているものの、音楽の才能に溢れる零は生意気で理屈くさく、社交的なタイプではない。そんな彼が1年生ながら、創部して日が浅いチームを指揮者としてまとめようとしても、もちろんそう簡単にはいかないのだが、それぞれの巻で見せ場となるのが演奏シーン。読み手も呼吸を重ねながらページをめくっていく高揚感を味わえる。 「海外では吹奏楽をウィンドバンドと呼んだりするのですが、息が集まって風が吹き抜けるような爽やかさや力強さを表現したかったんです。マンガの大前提として音を出すことができないので、音以外の周辺の部分を丁寧に描くことを心がけていました。それこそ音楽以外の場面で、たとえばマンガを描いていても編集さんと息が合う瞬間があったりするので、そういう感覚も後半のほうでは特に大事にしていましたね」 演奏の難しさと喜びが生き生きと表現されているのは、山本さん自身が吹奏楽経験者であることも大きいだろう。本作が連載デビューになるのだが、これまでも一貫して吹奏楽を題材にしたマンガを描いてきた。 「『アイシールド21』や『SLAM DUNK』のようなスポーツマンガに対する憧れと、中学で始めた吹奏楽に夢中になる気持ちが重なって、好きなマンガで、好きな吹奏楽を広めたいと思ったのがきっかけです」 そんな山本さんにとっても指揮者は未知の部分が多い存在で、チャレンジングな設定だったようだ。 「スポーツでいったら監督的な立場なので、高校生だと学生が指揮棒を振ること自体が少ないんです。でも責任が重いぶん、最も成長できるポジションなのかなとも描きながら思ったので、この作品を機に指揮に興味を持つ人が増えたらいいですね」 山本誠志『宇宙の音楽』3 音楽と孤独に向き合っていた少年が、再び皆で奏でる喜びを味わう青春物語。コンクールを控え練習に励むなか、最大のピンチに遭遇する最終巻を見届けよう。講談社 836円 ©山本誠志/講談社 やまもと・まさし マンガ家。「先輩とクラリネット」で月刊少年マガジン新人賞準入選。最新作は「ホルンは後ろに鳴く」。自身もクラリネット奏者。 ※『anan』2024年1月24日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/527679/ Source: ananweb

  • 2024.01.17

江戸時代から現代まで…『大奥』『きのう何食べた?』作者による、連作オムニバス『環と周』 | ananweb – マガジンハウス

『大奥』『きのう何食べた?』など近年は長編作品が続いていた、よしながふみさん。『環と周』は1巻完結の連作オムニバスだが、構想自体は16~17年ほど前からあったのだそう。 時代も関係性も異なる環と周のかけがえのない巡り会い。 「最初の現代の話と最後の江戸時代の話は、大まかに考えていました」 しかし先述の2作の連載が予定以上に長引いて、このタイミングに。 「当初は恋愛関係の男女を描くイメージでしたが、環(たまき)と周(あまね)の性別が時代によって入れ替わったりして、より幅広い関係性になったのは、今だからこその変化といえますね」 現代編では、中学生の娘と同級生の女の子のキス現場を目撃する妻と、それを報告される夫の反応が描かれる。誰にも打ち明けていないものの、夫の初恋相手も実は同性で……。明治時代編では女学校で出会い、結婚後も文通を続ける2人の女性が。’70年代編は余命わずかの中年女性と、同じアパートに住む少年の交流が。戦後編では、帰還したかつての上官と部下が闇市で助け合って生きる姿が。江戸時代編では、仇討ちのために再会する幼馴染みの男女が登場。 「それぞれの時代の人にとっての普通の感覚を意識しました。たとえば明治時代の女性は、親の決めた相手との結婚に疑問すら持たなかったかもしれませんが、女学校という今までなかった世界でお友達を作ることが可能になるわけです。不自由さだけに目を向けず、できることが増えていたのだと想像して描きました」 環と周、同名の人物が出てくることと、“好き”を描いていることだけが共通項に思える各話が、どうつながるのか。大恋愛のようにドラマティックでなくとも、どんな人生もかけがえのない出会いに溢れていると思わせてくれる読後感が心地よい。 「あのときあの人に出会わなかったら、今の自分はなかったと思えるような出会いって、たくさんあると思うのです。たとえ悲しい別れ方だとしても、どの話もこの人に会えてよかったという喜びを前面に出そうと思いました。冒頭の現代の夫婦が一番平凡なんですけど、彼らは平凡だからいいのかなという気がします。そう考えると自分の隣にいる職場の人や同級生なども、実はすごくご縁のある人かもしれないですよね」 久しぶりに短編を描いたことについては「楽しかった」と振り返る。 「5つの短編で見えている景色がすべて違うので、描き手としてもいい経験ができてありがたかったです」 よしながさんの短編を、読み手としても久々に堪能できる喜びを! よしながふみ『環と周』 家族、恋人、友人などさまざまな関係性で綴られる、“好き”のかたち。どんな時代にもあったはずの、かけがえのない出会いと喜びに光を当てた連作オムニバス。集英社 748円 ©よしながふみ/集英社 よしながふみ マンガ家。1994年デビュー。昨年後半は『大奥』『きのう何食べた?』のドラマも放送。2024年より芸能界を舞台とした新連載を『ココハナ』で開始予定。 ※『anan』2024年1月17日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/526402/ Source: ananweb

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