三浦天紗子

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  • 2024.05.28

何がアートの価値を決めるのか? アート×マネーに迫る、新感覚コミック | ananweb – マガジンハウス

“何がアートの価値を決めるのか”をテーマに描いたマンガ『いつか死ぬなら絵を売ってから』について、作者のぱらりさんにお話を聞きました。 「アート×マネー」のスリリングな関係性を見つめる、新感覚コミック。 「絵画作品が高額で売れたというニュースが流れると『絵一枚にそこまでの価値があるのかわからない』と否定的な見方をされることがありますよね。私はアートが好きなので、そういう意見はつらいな、と。なので、絵画や芸術のすばらしさを、専門知識も噛み砕いてエンタメ的に面白く描けたら、みんなも興味を持ってくれるかなと思ったんです」 かくて生まれたのが、ぱらりさんの本作。普通の暮らしさえ望めない境遇にいた霧生一希(きりゅう・かずき)の唯一の慰めは絵を描くこと。アート界にパイプを持つ資産家の嵐山透(あらしやま・とおる)に才能を見出され、一希は半信半疑ながら、絵を売って人生を変えていくことに目覚めていく。ぱらりさんは“何がアートの価値を決めるのか”という、多くの人が知りたかったテーマに挑む。 それまではアートに触れたり学んだりする機会がなかった一希だが、透をはじめ、美大で教鞭を執る雲井(くもい)や売れっ子アーティストの凪森(なぎもり)らから刺激を受けて急成長。その変化にわくわくする。 「一希は描かずにはいられないという衝動でやってきた部分があるわけですが、それを市場に乗せていこうとすれば、売れる絵とは何かも考えていかなくてはならないわけです」 たとえば、一希の境遇も、“反骨の”とか“逆境から這い上がった”といった美辞麗句にすることはできるが、そう単純な話でもないだろう。 「考え方次第で武器にもできるかもしれませんが、一希自身は自分の過去を一方的に消費されたら傷つきますよね。その中でどうしても衝突や葛藤が起きてくるはず。もっともそういう課題は雲井や凪森も同じ。もちろん絵に限らず、マンガや音楽…何でもそうだと思いますが」 一希の絵の特徴を、雲井は〈パッと見で連想するのはヴァロットン〉〈「黒」にこだわってるのかな〉等々、瞬時に見抜く。実際、一希ほか誰がどんな絵を描くのかは本作のひとつのキモだ。 「アート系のマンガをやるなら、登場人物が描く絵はすごく大事だなと思っていて。なので、そこも来歴を含めて考えていきました。一希なら、アカデミックな美術教育は受けていないけれど、幼少期からずっとドローイングを続けてきた独特の描写力はあるだろうな、といったように」 3巻では、一希が意欲を見せていた、アート新施設のオープン記念企画展をめぐる、マーケティング戦略の話が動き出す。それぞれの願いの行方を見守りたい。 ぱらり『いつか死ぬなら絵を売ってから』3 養護施設育ちの一希がネットカフェ暮らしをしていたときに、アートへの愛情や審美眼を持つ透と出会う。ボーイ・ミーツ・ボーイの物語でもある。秋田書店 748円 ©ぱらり(秋田書店)2023 ぱらり マンガ家。京都府出身。2014年ごろからSNSや同人誌などで活動を始め、商業デビュー。他の著作に『ムギとペス ~モンスターズダイアリー~』など。 ※『anan』2024年5月29日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/550533/ Source: ananweb

  • 2024.04.02

プロの仕事ぶりを堪能! 校閲の奥深い世界にスポットを当てたコミック | ananweb – マガジンハウス

昨今の辞書ブームや、校閲者が主人公の作品などが人気を博し、校閲という仕事が広く知られるようになってきた。本書『くらべて、けみして 校閲部の九重さん』もまた、そんな校閲の世界にスポットを当てた楽しいコミック。著者のこいしゆうかさんは、取材に1年ほどかけたそうで、現在も文芸誌『小説新潮』で連載中。 校閲の世界の奥深さに触れるコミック。タイトルの意味がわかると、痺れる! 「こういうミスがあった、こういうやりとりがあったなど、作家さんと校閲者さんとの間で起きた実際のエピソードを交えながら、ストーリーの部分は、校閲者さんたちの日常や、ひとりひとりが持つ校閲の哲学のようなものをどうやったら織り込めるかなと考えていきました」 舞台は、老舗出版社〈新頂社〉の校閲部文芸班。社歴10年目の九重(くじゅう)心さんを中心に、新入社員の瑞垣さん、校閲部OGのとっとこちゃんこと月山さん、ストイックな丹沢さん、校閲部のレジェンドと呼ばれる矢彦さんなど、個性的な面々揃い。彼女たちが実直に語り合う言葉が、どれも興味深い。 「九重さんをはじめ、ほとんどのキャラはお会いした校閲部の方の印象をミックスしています。最初は、比較的もの静かな方が多いなと思っていたのですが、ちょっとしたこだわりなどに触れると話が止まらないこともあり、そういう人間らしさも参考にしています。瑞垣さんには、仕事のあり方についてシロウト感覚で質問していく、いわば読者目線に近い役割をしてもらいました。矢彦さんだけは実在の人物を描いています。校閲への哲学や考え方が明確で、そのまま漫画に出したいと思ったんです」 校閲者がゲラ(校正紙)を読んでいて疑問に感じた部分などを指摘することを「鉛筆を入れる」「鉛筆書き」などと言うのだが、そこにも個性が出る。 誤植を見つけたり、ファクトチェックしたりするのは、もちろん仕事として求められる部分ではあるのだが、同時に、文芸の校閲には、実は「これという正解がない」といわれているのが驚きだ。 「校閲者さんはみな作家さんの気持ちや意図を汲むのですが、それゆえに葛藤します。鉛筆の入れ方を経験を積みながら学び、九重さんの言うように、〈百年後に残す一冊を作っていくという意志〉で、さらに次の世代へ技術を引き継いでいく。まさに職人仕事なんだなと。校閲者さんは編集者さんとは違うけれど、作品をより良くするために親身になって一緒に考えてくださっているし、私自身も一著者として、自分が考えた世界について誰よりも真剣に考えてくれる人が一人でも多いのはありがたい。編集さんだけではなく校閲者さんも味方なんだなと思うと、心強いです」 プロの仕事ぶりを堪能されたし。 『くらべて、けみして 校閲部の九重さん』 新潮社校閲部および編集者(OB含む)が全面協力。実際に校閲部に所属する方々のミニコラムも収録。続刊では、フリーの校閲者にもスポットを当てる予定。新潮社 1265円 ©こいしゆうか/新潮社 こいしゆうか 漫画家、キャンプコーディネーター。ゆるいタッチで難しいことをわかりやすく伝える漫画を得意とする。主な書籍に『ゆるっと始める キャンプ読本』など。 ※『anan』2024年4月3日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/540203/ Source: ananweb

  • 2024.03.20

カタルシスをお約束! 読者も翻弄される、華麗なサスペンス心理劇『キスに煙』 | ananweb – マガジンハウス

ある脅迫状から始まる、おぞましき真相と真実。暴くことが必ずしも正義や善意にならない人間心理の深淵を描き、話題をさらった織守きょうやさんの『花束は毒』。『キスに煙』は、またも誰かに強く焦がれること――を軸に描く、ミステリアスな一作だ。 フィギュアスケート、才能の輝き、秘めた恋…華麗なサスペンス心理劇。 元フィギュアスケーターで引退後にデザインの仕事に就いているシオこと塩澤詩生(しおざわ・しお)と、いまもトップスケーターとして活躍する志藤聖(しどう・ひじり)。ふたりは無二のライバルであり、尊敬し合う友でもある。だが、シオは密かに志藤を愛していた。 「今回は、私の中でしっかり、彼らのキャラクターを決めてから書いたんですね。なので、シオだったらこう言うし、志藤だったらこう返すなというやりとりを、彼らを理解して書けた手応えはありました。編集さんに指摘されて腑に落ちたんですが、繊細にあれこれ考えてしまうシオは芸術家肌だし、できるかできないかわからないものは試してみようという志藤は、アスリートの思考。ミステリーを書いていると、物語を進めるための装置としてキャラクターを使わざるを得ないこともあるので、ちゃんと違いが際立ったのならよかったなとほっとしました」 冒頭で、入念にシャワーを浴びるシーンが描写される。誰とは書かれていないが、〈彼の痕跡〉を必死に洗い流す様子から、ただならぬことが起きたのはわかる。そして、もたらされるフィギュアスケートのコーチ、ミラーが転落死したというニュース。 シオは一時期ミラーと付き合っていた過去がある。一方、志藤はミラーとの間に真相不明の因縁があり、彼を徹底的に嫌っていた。そのため、ミラーの訃報に触れたシオと志藤は、「彼が関わったのではないか」と、互いに疑心暗鬼になり…。交互の視点で綴られる迫真の内面描写に、読者もまた翻弄される。 「もうひとつ書きたかったのは、才能についてです。私も天才の話が好きですし、天才を見上げる人の複雑な気持ちや、誰に評価されるのが大事かなど、答えのない世界だから面白い。本作は人が死んでいる話なのですが、主人公たちにとってその出来事がどれほどの意味を持つのか。真相がわかったとき、シオと志藤とミラーの関係における温度差や残酷さが際立つと思うんですね。そこを感じてもらえたらうれしいです」 織守きょうや『キスに煙』 濃密な恋愛模様も本書の魅力。性的マイノリティであるシオの思いはどこへ向かい、志藤はどんなふうに応えるのか。カタルシスをお約束。文藝春秋 1870円 おりがみ・きょうや 作家。1980年、ロンドン生まれ。2012年、「霊感検定」で第14回講談社BOX新人賞を受賞し、’13年に同作でデビュー。映像化もされた「記憶屋」シリーズほか、著書多数。 ※『anan』2024年3月20日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/537832/ Source: ananweb

  • 2024.02.19

インスタで大バズり! 高校生のピュアで不器用な初恋に胸キュン必至の恋愛コミック | ananweb – マガジンハウス

同じクラスの前後の席になったことがきっかけで、少しずつ距離を縮め、はじめての彼女/彼氏の関係になった荻野美穂と村田くんの恋の行方を描く『きらきら、あおい』が大バズり中のitoさん。主人公と同じ世代はもちろん、初恋から遠くなった大人たちの心もくすぐる繊細な作品だ。 テーマははじめての恋愛。ふたりのピュアさや不器用さに胸キュン必至。 「前作『だけどやっぱり彼が好き!』の試し読みとしてふたりの短編をインスタに載せたところ、『続きが読みたい!』とのお声をたくさんいただいたんです。もともと高校生の恋愛物語を描きたい気持ちはボンヤリとあったのですが、フォロワーさんからの言葉がなければ描けていなかったかもしれません。感謝しています」 1巻で描かれるのは、はじめての告白、はじめての手つなぎ、はじめてのキス…ややスローに関係が深まっていくふたりの1年数か月。自分の体験と重ねて、あるいは憧れて、ドキドキしたりじれったかったり、読者にいろいろな思いを抱かせる。 「自分的には大勢が共感できるものをというよりも、超“主観”を意識しています。ふたりの恋愛模様を描いているのですが、物語の進行は美穂の一人称視点を徹底させました。等身大の素直な思いを描くことでリアリティが出たらいいなと」 水彩画のような柔らかなitoさんのタッチが、このみずみずしい初恋物語によく合っている。itoさんはイラストレーターとしても活躍しているが、マンガを描くときとどんな意識の違いがあるのだろう。 「大きく違うのは人物の表情ですかね。俳優とモデルの違いに近いのかなと個人的に思っているのですが…。漫画は人物の感情を伝えるために表情を描きますが、イラストは他の大切な情報を伝えるための補助の役割であることが多いので、最初に顔に目が行くような主張はしすぎないようにするのが重要かなと。意識としては真逆なのでとても難しいですが、奥が深くて楽しいです」 物語が進むにつれ、ふたりの恋愛に対するスタンスや価値観の違いなどが見え始め、ハラハラ感が加速。 「恋愛って最初のドキドキ期間が終わったら、どこまでも現実的な人間関係になっていくというか、あらゆる人づきあいにおいて根本的に大切なことは同じ。ありがとうやごめんなさいが言えるかとか。いわば人間力が試されるので、高校生のふたりには大きな試練。ふたりの成長を見守るつもりで描いています」 ito『きらきら、あおい』1 恋人とのありふれた情景がいかに忘れがたいものだったかを思い起こさせてくれる極上のコミック。Webコミックメディア「路草」にて連載中。トゥーヴァージンズ 979円 ©ito/トゥーヴァージンズ イト マンガ家。高知県生まれ。2017年からInstagramにマンガやイラストをアップするようになり、’19年に初単行本『だけどやっぱり彼が好き!』を刊行。 ※『anan』2024年2月21日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/532719/ Source: ananweb

  • 2024.01.31

高評価を得たデビュー作! 大正大阪を舞台にした、ホラーミステリー『をんごく』 | ananweb – マガジンハウス

丁寧なストーリー運びによって生まれた、胸を突く美しき怪異譚。北沢 陶さんによる『をんごく』をご紹介します。 「大正末期の大阪市はまわりの町村との統合が進み、関東大震災で人口も流入して、活気のある面白い時代だったと知りました。それが2018年ごろ。この作品を書き始めたのもそのころで、ストーリーやキャラクターより先に、大正大阪を書いてみたいというのが出発点でした」 数々のプロットや、3年にも及ぶ執筆のブランクなど、紆余曲折を経て完成した北沢陶さんの『をんごく』。2023年を飾るベストホラーミステリーのひとつとして、各方面から高い評価を得たデビュー作だ。 語り手を務める画家の古瀬壮一郎は、大阪・船場で代々続く呉服屋の倅。関東大震災のケガがもとで亡くなった新妻・倭子(しずこ)への未練から、密子という巫女に降霊してもらうのだが、巫女は不穏な警告をする。〈気をつけなはれな〉〈奥さんな、行んではらへんかもしれへん。なんや普通の霊と違てはる〉。やがて、壮一郎も倭子の気配に気づき始める。 死んだ妻が成仏できず、この世に留まっているのには理由があるはず。その謎を解くミステリーであり、その霊がもたらす厄災を防げるかというホラー要素も詰まっている。 「私も身の回りの人を亡くした経験があって、私自身はまだちょっと割り切れてないところもあるんです。ただ、作中の壮一郎の苦悩を無駄にしたくなかったので、再生の希望を持つまでの心理的な変化をどう描くかには腐心しました」 その面白さに拍車をかけるのが、〈エリマキ〉の存在だ。特定の顔がなく、だが、見る者の意識が転写された姿が顔となる不思議な生態を持ち、死を自覚していない霊を喰って腹を満たしている。そんなエリマキが壮一郎の相棒として、倭子の霊と対峙し、秘められた謎を追っていく。 「私自身が、エリマキに対して理解しきれていないというか、『あいつ、何なの?』て思ってます(笑)。怪物、化け物、あやかし、妖怪…どの呼び名もしっくりこなくて、〈何か〉としか言いようがないですし。でも赤い襟巻きをしているというイメージだけは最初から強烈に浮かんでいました。小説であっても映像的なところというか、たとえば映画『シャイニング』の双子の出てくる場面のように、読者に忘れがたいインパクトを残すシーンがあるのが理想形だと思っています。そんな物語をこれからも書いていきたいですね」 『をんごく』 影響を受けた作家は江戸川乱歩や澤村伊智だそう。選考委員の辻村深月さんも激賞した扇が並ぶ場面は、本書のクライマックスの一つ。KADOKAWA 1980円 きたざわ・とう 作家。大阪府出身。英国・ニューカッスル大学大学院英文学・英語研究科修士課程修了。2023年、本作で横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉〈読者賞〉〈カクヨム賞〉を総なめ。 ※『anan』2024年1月31日号より。写真・中島慶子(本) 取材、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/528889/ Source: ananweb

  • 2024.01.30

夏目漱石が女子高生ライフを堪能!? 漱石マニアが描く転生モノ『JK漱石』 | ananweb – マガジンハウス

デビュー作の『先生と僕~夏目漱石を囲む人々~』や『漱石とはずがたり』など、漱石やその弟子たちを描くコミックなどを多く手がけてきた香日ゆらさん。最新作『JK漱石』は、漱石が没後100年の現代に、なぜか女子として生まれ変わってしまったという転生モノ。朝日奈璃音(りおん)という名で、女子校の人間関係に右往左往したり、友だちと一緒にお茶をしたりと、女子高生ライフを堪能している。 文豪が現代に生まれ変わったら? 女子高生になった夏目漱石の運命は。 「漱石については人物史からこぼれ話までだいぶ描いたので、これ以上は難しいかなと思っていたのですが、漱石であって漱石でない人物としてなら、また一から漱石を知ってもらうために描けるかなと。また、漱石や文学に興味のない人にも読んでもらえるかも、と思ったんです」 文豪と女子高生。一見、真逆の存在だが、香日さん曰く、「資料などを見てもわかるんですが、結構身だしなみなどに気を遣うし、身のこなしも上品な方だったようです。なので案外、ギャップや違和感はなかった」そうだ。キャラデザは、漱石は天然パーマでタレ目なので、璃音はストレートヘアでつり目にするなど、漱石の特徴をキャッチアップして反転させて作り上げた。 「とはいえ、璃音の地は漱石なので、顔の造作が違っても漱石の表情をさせる。そういうのがポイントかなと。苦虫を噛みつぶしたような表情をさせたり(笑)」 ストーリーは基本的に1話完結。毎回、流行のスイーツを友だちと食べたり、推し話をしたりと、女子あるあるの出来事を軸に展開する。 「今回は漱石の作品よりも、談話や評論などをネームに活かしています。実在の人物を元にしているので、絶対ひっくり返してはいけないポイントがあって、その点をどう結ぶか、璃音や彼女の周辺の女の子たちの日常をどう絡めていくか、という点を工夫しました」 2巻では、漱石が可愛がっていた若き芥川龍之介とのエピソードなども登場。マジメな文学談義がある一方で、漱石と璃音がオーバーラップすることで醸し出されるコメディパートも楽しい。 「漱石は同時代に生きていた人にも後世の人にもすごく影響を与えた、まさに文豪です。私もファンになったことでマンガ家になる人生なんて想定していなかったのになってしまって、メンタルのみならず物理的に人生が変わったんです。あらためてすごい存在だなと思いますね」 『JK漱石』2 自他ともに認める漱石マニアの香日さん。膨大な資料と深い読解で作り上げた独特の漱石ワールドが、本作でも軽やかに炸裂。今年中に3巻を刊行予定。KADOKAWA 682円 ©香日ゆら/KADOKAWA こうひ・ゆら マンガ家。青森県出身。同人活動で細々と漱石をめぐるマンガを描いていたところ、編集者から声を掛けられ、2009年に商業誌デビュー。 ※『anan』2024年1月31日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/528885/ Source: ananweb

  • 2023.12.06

一気読み必至! 大ヒット『犬を盗む』作者による、犬を題材にした最新サスペンス | ananweb – マガジンハウス

佐藤青南さんが昨年刊行した『犬を盗む』が大ヒット。資産家の女性が殺害され、愛犬が行方不明となる。その犬と、後ろ暗い過去を持つコンビニ店員が飼い始めた犬は何か関係がありそうで…という、犬を絡めたミステリーだった。最新作の『一億円の犬』もサスペンス感満載だ。 虚飾まみれのインフルエンサーによる、厄災と気づきとは。疾走感たっぷり。 「犬を題材にするのは編集さんから提案されたんですが、僕自身は最初は気が進まなかったんです。というのも、僕も犬を飼っていて、それをお金に換えることへの抵抗が拭えなくて。なので、書くなら、犬が絶対にひどい目に遭わないようにする、犬が最大限幸せになれるように配慮するという縛りを、自分の中に設けたんですね。それをクリアさせつつストーリーに波乱を持たせるので、結構頭を使いましたね」 本書の語り手は、携帯電話ショップの派遣社員として働く小筆梨沙(こふで・りさ)。愛犬さくらとの日常をマンガにしてSNSに投稿し、なかなかの人気だ。そんな折、編集者の寺本直樹が書籍化の話を持ってきた。〈百万部、目指しましょう!〉という威勢の良さに心が動かされたが、実は梨沙は犬を飼ってさえいなかった…。 「どんな物語にするかなかなか決まらなかったですね。『いっそ“犬はいない”で始めたらどうか』と浮かんだのが出発点です」 梨沙がSNSに載せている写真は、海外のアカウントからの無断盗用だ。似た犬を飼わなければ書籍化はおじゃんになるだろう。犬探しに必死の梨沙に、不測の事態が! 「梨沙はセレブアピールして編集者やファンを欺いています。本当は埼玉県の木造アパートでひとり暮らしをしているのに、現実を隠そうとして、とんでもない事態に陥ってしまう。僕はむしろ、殺人事件のような深刻な状況に置かれても、お腹もすくし、笑ってしまうような行動もするのが、人としてのリアリティだと思っているんですよね」 予測不能さとスラップスティックが掛け合わされ、一気読み必至だ。 「とある作家さんに『あなたの書く小説はヤバい人ばかり出てくる』と評されたことがあります。ヤバいかどうかはともかく(笑)、イマドキの読者が関心のありそうなトピックや現象を意図的に織り込んだらこうなりました。犬が好きな人、飼っている人はもちろん、そうじゃない人にも楽しんでもらいたいです」 『一億円の犬』 梨沙の架空の愛犬さくらは、保護犬だったという設定のため、保護団体から譲り受けようとするが…。愛犬家たちの一家言も興味深い。実業之日本社 1870円 さとう・せいなん 1975年、長崎県生まれ。作家。2011年に『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞した『ある少女にまつわる殺人の告白』でデビュー。著書多数。 ※『anan』2023年12月6日号より。写真・土佐麻理子(佐藤さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/519145/ Source: ananweb

  • 2023.11.27

ヤマザキマリの人生観や生き方の源! 国際色・個性豊かな人々との出会いのエッセイ集 | ananweb – マガジンハウス

『扉の向う側』はヤマザキマリさんが出会ってきた、忘れがたい人々との関わりを綴ったエッセイ集だ。 思い通りにならない同士が共生する。美しくノスタルジックなエッセイ集。 「14歳のときに初めてひとり旅。ブリュッセルからパリへ向かう列車の中でマルコ爺さんと知り合わなければ、そもそも17歳でイタリア留学していないかもしれないし、彼の孫と結婚していないかもしれない。私の人生観や生き方は、偶然知り合ったりすれ違ったりしてきた人たちとの関わりによってできたと言ってもおかしくないです」 親切で実直なカメオ職人とその夫人、90歳を越えてなおアグレッシブにつばぜり合いをする夫の父方・母方の両祖母、日本行きの飛行機で知り合ったブラジル移民一世の老人、ナポリ愛をとうとうと語った子だくさんのタクシー運転手等々、ヤマザキさんの記憶に深く刻み込まれている人々はみな国際色も個性も豊か。本書は地球人カタログのようだ。 「ボランティアで訪ねたキューバで15人家族の家に居候した話も書きました。お金が一銭も動いてないのにこんなに幸せになれるんだというのは、そこで知ったことです。常々、私の本は全部“縁があった人の観察事典みたいなもの”だと言っていますが、実際、観察学的視点で書くのが私のエッセイのパターンになっていますね。意識しているわけではなくて、自然とそうなってしまう。実はかなりの人見知りなんですが、こういう人と会いたくないとか、これは私に必要ないとか、そういうのはまったくなかった。袖振り合った人とは、絶対に何か縁がある、意味がある、と思う質(たち)で」 また、多くの日本人が安易にイメージするイタリア人――恋愛と美食を楽しむ国民性とは違う、彼らの地に足がついたさまも興味深い。 「須賀敦子さんがお書きになられてきた世界に少し近いものがあるように思っています。不条理な世界と向き合う中で深い思索を重ね研ぎ澄まされた知性を持つ、穏やかで静かなイタリア人もいるのです」 微笑ましかったり、ユーモラスだったりする各回の挿絵もすべて、ヤマザキさんの手による。それらに命を吹き込むのはやはり人との縁だ。 「私の絵って実は人格主張がないというか(笑)、ストーリーに合わせた絵を描くんです。忘れられず、ずっと私を幸せな気持ちにさせてくれる人ってやっぱり人生の財産だなと」 ヤマザキマリ『扉の向う側』 エジプト、シリア、ポルトガル、米国と移り住みながら、再びイタリアと日本に拠点を置くヤマザキさんの記憶に刻まれた人々。マガジンハウス 1760円 ヤマザキマリ 漫画家、文筆家、画家、東京造形大学客員教授。1967年、東京都生まれ。17歳でイタリアに渡る。『テルマエ・ロマエ』『プリニウス』ほか著書多数。2016年、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。 ※『anan』2023年11月29日号より。写真・山崎デルス(ヤマザキさん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/517958/ Source: ananweb

  • 2023.11.21

一枚の下着との出合いがきっかけに…自分を大切にする一歩になる『ランジェリー・ブルース』 | ananweb – マガジンハウス

働き方への不満や、ずるずるつきあっている恋人との関係に、日々閉塞感を感じていた34歳の派遣社員、深津ケイ。ある日、ランジェリーのセレクトショップで味わった運命的な体験が、ケイの人生を変えていく。人と下着との出合いを軸に描かれるコミック『ランジェリー・ブルース』がSNSでも大反響。その著者がツルリンゴスターさんだ。 自分にフィットする下着と出合い、生き方も見直していく女性の成長。 「伊勢丹新宿店『マ・ランジェリー』の初代ボディコンシェルジュ、松原満恵さんが下着について語った記事を読んで、私が描きたい女性の生き方にも通じるものを感じたんです。フィッティングしていただいたときに、ノンパテッド(パッドを使わず、レースでバストを包む)のブラを初めて着けたら、自重で涙型になり、バスト本来の形にキレイに整えてくれる感覚があって。寄せて上げてのブラとあまりに違う。作中でケイが伝説のフィッター・柳真智さんにフィッティングしてもらったときの気持ちをはじめ、お客様の心情は、私自身と重なるものも多いです」 そんな本書のいちばんの魅力は、「ステキなランジェリーを身に着けたら気持ちがアガった」で終わらず、生き方を見直したり、自己肯定にもつながっていく大きな物語になっているところだ。 「下着を選ぶなんてささいなことに見えるけれど、小さな選択ができるその先でしか、大きな選択もできる自分になれないと思うんです。ボディポジティブという言葉がありますが、実際問題、コンプレックスも自己否定も感じながら“自分の体をありのままに愛そう”と言われてもハードルが高いというか。むしろ、作中でケイの元派遣仲間の田﨑さんが言う〈自分の体を許す〉くらいの意味が女性たちへのエールになるのではないか、と思っています」 たくさんのランジェリーが登場するので、「絵にする難しさはひとしおだった」とツルリンゴスターさん。 「肌が透ける感じや、レースのデザインの繊細さ…。美大時代のデッサンスキルをフルに使っても大変でした(笑)。モデルさんではなくふつうの女性が着るわけですから、どこの肉がはみ出すとリアルかとか、ちゃんとフィッティングしたときの肌になじんだ感じとか、毎回冷や汗モノでした(笑)。ただ、『なんとなく買っていたけど、この本を読んで自分の買える範囲でちゃんと選んでみようかな』と思ってもらえたなら、本当にうれしい。自分を大切にする一歩にしてほしいですね」 『ランジェリー・ブルース』 年を重ねてからの体型コンプレックス、子育てに押されて自分を後回しにしてしまうジレンマ、男性や思春期にもある下着の悩みなど、扱うテーマは幅広い。KADOKAWA 1485円 ©ツルリンゴスター/KADOKAWA ツルリンゴスター イラストレーター、マンガ家。1985年生まれ、関西在住。2018年からSNSにマンガ投稿を始め、商業デビュー。他の著書に『君の心に火がついて』など。 ※『anan』2023年11月22日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/516815/ Source: ananweb

  • 2023.11.07

探偵役は小学生! 少年少女がオカルトめいた謎解きに挑む、今村昌弘『でぃすぺる』 | ananweb – マガジンハウス

猟奇的な事件を扱う本格ミステリー〈屍人荘の殺人〉シリーズとは違う、暗いものを突破するようなエネルギーに満ちた小説を書いてみたいと思った、と語る今村昌弘さん。できあがったのが小学6年生の少年少女が探偵団的な役割を果たし、オカルトめいた謎に挑んでいく『でぃすぺる』だ。子ども時代の懐かしい記憶をくすぐられる無二の面白さがある。 マリ姉の死の謎を、“掲示係”になった少年少女は解き明かせるか。 「本格ミステリーで大事にしているロジックは誰にでも等しく扱える力のはずで、極端に力を持たない存在である小学生でも同じようにロジックで事件を解き明かすことはできるのではないか。また、小学生だからこそオカルトに対してもはなから否定せず、思い切った発想ができるのではないかと思ったのです」 夏休み明けの新学期、壁新聞を作る掲示係になったユースケ、サツキ、ミナ。サツキは、1年前の地域の大祭〈奥神祭り〉の前日に亡くなった従姉のマリ姉の死の真相が〈奥郷町の七不思議〉と関わっているのではないかと考えていた。マリ姉の死と彼女のパソコンに遺されていた6つの怪談話には、どんなつながりがあるのか。7つめを知ると死ぬという噂は本当なのか。3人は壁新聞記事のために調べ始めるが、少しずつ、町を覆う重苦しい秘密が見えてきて…。探偵役は子どもといえども、謎解き部分の難易度は極めて高い。 「ユースケを視点人物に据えたことで、子どもが見える範囲、できる範囲のバランスを塩梅しなければいけなかったのは難しかったですね。今回は怪談と謎解きを一つ一つ進めていく形にしたので、序盤でこういう伏線を張っておくべきだったとか、最後のほうになると悩む場面が増えてきたんですね。6つのホラーに対して、ユースケがオカルト的な、サツキが論理的な、それぞれの推理を展開し、欠点をミナが指摘する。ミナはミステリー好きで、推理小説のルールや約束事を解説する立場も担っています。6×3のロジックに加えてさらに全体の種明かしのロジックも用意しなくてはいけなかったので、非常に燃費の悪い作品になりました(笑)」 だが、本書で忘れてならないのは、子どもたちが謎解きのために行動し、考え、気づきを得て大きく成長していく描写が活き活きとしている点。ジュブナイルとしての完成度も圧巻で、長く読まれてほしい一冊だ。 今村昌弘『でぃすぺる』 ザ・小学生男子的なユースケ、優等生のサツキ、シングルファーザーに育てられている転校生のミナ。3人の絆や運動会の場面は感動的だ。文藝春秋 1980円 いまむら・まさひろ 作家。1985年、長崎県生まれ。2017年、鮎川哲也賞受賞デビュー作『屍人荘の殺人』が各ミステリーランキングを総なめし、大ブームを巻き起こす。同作は’19年に映画化も。©文藝春秋 ※『anan』2023年11月8日号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/514033/ Source: ananweb