兵藤育子

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  • 2024.05.22

妹をサブスク!? SNSで話題を呼んだ、不気味な衝撃作『妹・サブスクリプション』 | ananweb – マガジンハウス

橋本ライドンさんによる、コミック『妹・サブスクリプション』をご紹介します。 サブスクなしでは生きられない! 姉の歪んだ愛情が行き着く先は? 定額料金でさまざまなサービスを受けられる、サブスクリプション。 「私が使っている絵を描くソフトもサブスクですが、提供している会社の経営次第で、すべて失われる可能性もあるわけです。いまや生活に欠かせないものなのに、この危うさは怖いなあという思いがありました」 橋本ライドンさんのこの物語も、絵柄のかわいさとゆるさに和んでいると、思わぬ怖さが待っていたりする。まずもって、「妹」と「サブスクリプション」という言葉の組み合わせが謎なのだが…。 「指摘されて改めて気づいたのですが、私は執着とか愛の話を描くのが好きみたいで。もうひとつ、姉妹という関係にも惹かれていたので、姉が妹を追い求める話にしようと思いました。自分はきょうだいがいないので憧れもあるのですが、“血を分けた限りなく近い他人”という存在に、ロマンを感じてしまうのです」 4コマ形式で進んでいく本作。1話目では、会社から帰宅した姉のみゆきを妹の今日子が無邪気に迎えている。その後も仲良し姉妹のやり取りが描かれるのだが、今日子はちょっとした衝撃やケガでピタリと動きが止まってしまい、そのたびにみゆきは落胆する。動かない妹はやがて業者によって回収され、何事もなかったように元気な姿で戻ってくる。どうやら妹はサブスク商品らしいのだが、なぜみゆきがそんなことをしているのか、読者にはなかなか見えてこない不気味さがある。 「何かひとつのものを守ろうとして凶暴になる瞬間って、誰しもあると思うのです。みゆきは、会社ではしっかり者で通っていますが、そのギャップを描きたかったんです。彼女は妹と穏やかな暮らしを続けられさえすればいいと思っているけれども、周りがそうさせてくれない。袋小路に追い詰められたらどうなるのか、私自身も見てみたいと思いました」 妹をサブスクするSF的設定とサスペンス的な不穏さ、多様な価値観や倫理観が交錯する社会派ドラマの一面など、さまざまな要素を内包しながら、姉妹はどこへ向かうのか。 「いつもは一対一の関係性を描くことが多いのですが、今回はいろんな人の目線を意識しました。どの目線にもそれぞれに正義があって、どれも完全に正しいとは言い切れないけど、間違っているわけでもない。みゆきも普通に傷つく子だし、自分が正しいという絶対の感情だけで動いているわけではないのだと、描きながら理解できるようになりました」 『妹・サブスクリプション』 しっかり者のみゆきは、妹の今日子をひそかにサブスクしている。一体なぜ? 本物の今日子は? SNSで話題を呼んだ衝撃作。描き下ろし番外編も収録。講談社 1100円 ©橋本ライドン/講談社 ※『anan』2024年5月22日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/548976/ Source: ananweb

  • 2024.04.24

辻村深月「言葉の選び方は大人向けのエッセイ以上に時間をかけました」 子どもと本音で向き合ったエッセイ集 | ananweb – マガジンハウス

子どもたち、つまり、かつての私たちが主人公の小説をたくさん書いてきた辻村深月さん。最新エッセイ集『あなたの言葉を』は、そういった物語を読んだ子どもからたびたび寄せられる「大人なのにどうして子どもの気持ちがわかるんですか?」という問いがきっかけになっている。 「自分の言葉」ってそもそも何? 子どもと本音で向き合うエッセイ。 「言われるたびに嬉しい半面、『仲間だよ!』と寂しい気持ちにもなりました。その質問が出てくるには、『大人は自分たちの気持ちがわからなくて当然』という思いがあるはずなので。だとしたら、子どもの頃の悔しかったこと、もやもやしたことなどを覚えているのが私の強みなので、大人の中の子どものスパイとして頑張ってみようと思ったのです」 毎日小学生新聞に連載されたこのエッセイ。言語化や自身の言葉で話すことが尊ばれる昨今、「自分の言葉がある」とはどういうことなのか、辻村さんの子どもの頃の経験や時事問題、読者からの投稿を交えながら深めていく試みでもある。 「大人が思う子どもらしい言葉ではなく、自分の感情や本音の部分を言語化すること。それを表に発さないとしても、心に保つことの大切さについて書きたいと思い、このタイトルにしました。そしてある程度記事が溜まってきて、これは同調圧力に屈しないことについての連載だったのだと、しみじみ思いました」 たとえば、遠足のお弁当の時間、よく知らない子の陰口が始まって、「そうなんだ」と相づちを打ったエピソード。大人の世界でもよくあるシチュエーションといえるが、一緒にいた女の子のとった行動に小学生の辻村さんはハッとさせられる。 「周りに流されず、思ったことはどんどん出したほうがいいとか、大人の思う正しさで語られることが多いけれど、表明することだけが向き合い方ではないと思うんです。子どもに伝えようと思うと表現はよりストレートになるのですが、だからこそ言葉の選び方は大人向けのエッセイ以上に時間をかけました」 迷いが生じたときに本を開きたくなるような、辻村さんが子どもというひとりの人間と真摯に向き合った優しい言葉がちりばめられている。 「作家としていろんな方の言葉や文章に触れる機会が増えてくると、本音で書いてあるものに勝る強さはないと感じます。そのことが、全体を通して伝わったら嬉しいですね」 『あなたの言葉を』 学校生活、出会いと別れ、読むこと、書くこと。かつての子どもたちにも響くエッセイ集。朝倉世界一さんの挿絵が文章に寄り添う。毎日新聞出版 1540円 つじむら・みづき 作家。2004年デビュー。本誌で連載された『ハケンアニメ!』は、舞台・映画・ウェブトゥーン化された。近著『この夏の星を見る』はコロナ禍でつながる中高生の青春物語。 ※『anan』2024年4月24日号より。写真・土佐麻理子(辻村さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/544373/ Source: ananweb

  • 2024.02.27

陰謀論と恋心を絡めた前代未聞のラブコメ!? 大ヒット『チ。』作者の新作に注目 | ananweb – マガジンハウス

アニメ化が決定している大ヒット作『チ。―地球の運動について―』では、異端とされた地動説の証明に命を賭けた人々を描いた、魚豊さん。最新作『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』のテーマは陰謀論なのだが、世界を揺るがしたふたつの出来事が創作のきっかけになっている。 深読みしすぎて迷宮入り!? 恋と陰謀論が行き着く先とは。 「ひとつは、2021年にアメリカで起きた議事堂襲撃事件。あまりにもセンセーショナルで驚いたのと同時に、陰謀論にまつわるこれほど大きな事件は、今後起こりようがないだろうと思いました。だけど翌年に、ロシアとウクライナの戦争が始まって。ほぼリアルタイムで送られてくる戦地の映像に対して、SNSなどでは『これは陰謀で、ウクライナではそれほど人は死んでいない』なんてコメントを見かけたりする。戦争という大惨事すら呑み込んでしまうくらい、陰謀論は大きな事象になっていて、なくなるどころか、もはや人間がずっと付き合っていかなければならないものだと思ったんです」 そもそも、陰謀論にハマりやすいと自覚している人なんていないはず。主人公の渡辺も例外ではなく、食肉の冷凍倉庫で積み下ろしのアルバイトをしながら、人生を好転させようと自己啓発セミナーに参加していたものの、まんまと騙されてしまう。失意のどん底にいた彼を救うのが、飯山さんという女性だった。 「陰謀論に陥る人は、物事を深読みしがちなところがあるらしいんです。その情報の奥に本当のことがあるのではないかと必要以上に疑ってしまう心理は、恋愛に置き換えてみると意外と身に覚えがあったりしますよね。陰謀論を信じる人の気持ちはイメージしにくいけど、恋と絡めれば身近なこととして描けるかもしれない。この発見は大きかったです」 裕福な家庭に育った大学生の飯山さんは、世の中を良くしたいという高い志を持っている。フリーターの渡辺とは、いわば住む世界が違うのだが、“恋は盲目”状態の彼にはそれさえも燃料になってしまう。 「経済的・文化的格差は、残酷な現実としてあらゆる場面に存在していますが、心だけは平等だと思うのです。渡辺と飯山さんのようにたとえ格差があったとしても、通じ合うことはできるっていうのも、描きたかったことのひとつだったりします」 恋心が暴走して渡辺はやがて謎の組織と接触するのだが、1巻は序章としてもたっぷりの読みごたえ。 「よくわからない存在として陰謀論者を切り捨てるのではなく、共感できなくても認知はするというような、エンパシーが今の時代は大事だと思うんです。3作目にこのテーマで作品を描くチャンスを頂けたことを誇らしく思います」 魚豊『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』1 「人生が始まってる気がしない」19歳青年が、意識の高い女子大学生を好きになり、世界を揺るがす陰謀論と出合う、前代未聞のラブコメ。3月12日に2巻発売予定。小学館 715円 ©魚豊/小学館 うおと マンガ家。2018年「ひゃくえむ。」で連載デビュー。『チ。―地球の運動について―』で第26 回手塚治虫文化賞マンガ大賞など数々の賞を受賞。 ※『anan』2024年2月28日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/534079/ Source: ananweb

  • 2024.01.24

演奏の難しさと喜びを生き生きと表現! 吹奏楽青春譚『宇宙の音楽』 | ananweb – マガジンハウス

“息が合う”ことの難しさと喜びを描く、吹奏楽青春譚。山本誠志さんによる『宇宙の音楽』をご紹介します。 本作のタイトルになっているのは、吹奏楽の超難曲とされる曲。宇宙(たかおき)零はこの曲を聴くと、病室と消毒液の匂いを思い出す。有望視されるトランペット奏者だった彼は、持病のぜん息で夢を阻まれてしまったのだ。 「吹奏楽の本質は“息を合わせる”ことですが、それができない主人公にしようと思いました。僕も小さいときに軽いぜん息を経験しているので、感情を込めて描けるかなという思いもあったんです」と、著者の山本誠志さん。零はあえて吹奏楽部がないはずの高校に進学するが、創部したての吹奏楽部と、部長で独特の感性を持つ星野水音(みお)と出会い、彼女の導きで指揮者を志すことに。 「音楽はひとりでできると思っていた零が、ほかの奏者がいないと成立しない指揮者になる。その過程を通して、人と共にいる喜びを知る姿を描こうと意識していました」 挫折を味わっているものの、音楽の才能に溢れる零は生意気で理屈くさく、社交的なタイプではない。そんな彼が1年生ながら、創部して日が浅いチームを指揮者としてまとめようとしても、もちろんそう簡単にはいかないのだが、それぞれの巻で見せ場となるのが演奏シーン。読み手も呼吸を重ねながらページをめくっていく高揚感を味わえる。 「海外では吹奏楽をウィンドバンドと呼んだりするのですが、息が集まって風が吹き抜けるような爽やかさや力強さを表現したかったんです。マンガの大前提として音を出すことができないので、音以外の周辺の部分を丁寧に描くことを心がけていました。それこそ音楽以外の場面で、たとえばマンガを描いていても編集さんと息が合う瞬間があったりするので、そういう感覚も後半のほうでは特に大事にしていましたね」 演奏の難しさと喜びが生き生きと表現されているのは、山本さん自身が吹奏楽経験者であることも大きいだろう。本作が連載デビューになるのだが、これまでも一貫して吹奏楽を題材にしたマンガを描いてきた。 「『アイシールド21』や『SLAM DUNK』のようなスポーツマンガに対する憧れと、中学で始めた吹奏楽に夢中になる気持ちが重なって、好きなマンガで、好きな吹奏楽を広めたいと思ったのがきっかけです」 そんな山本さんにとっても指揮者は未知の部分が多い存在で、チャレンジングな設定だったようだ。 「スポーツでいったら監督的な立場なので、高校生だと学生が指揮棒を振ること自体が少ないんです。でも責任が重いぶん、最も成長できるポジションなのかなとも描きながら思ったので、この作品を機に指揮に興味を持つ人が増えたらいいですね」 山本誠志『宇宙の音楽』3 音楽と孤独に向き合っていた少年が、再び皆で奏でる喜びを味わう青春物語。コンクールを控え練習に励むなか、最大のピンチに遭遇する最終巻を見届けよう。講談社 836円 ©山本誠志/講談社 やまもと・まさし マンガ家。「先輩とクラリネット」で月刊少年マガジン新人賞準入選。最新作は「ホルンは後ろに鳴く」。自身もクラリネット奏者。 ※『anan』2024年1月24日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/527679/ Source: ananweb

  • 2024.01.17

江戸時代から現代まで…『大奥』『きのう何食べた?』作者による、連作オムニバス『環と周』 | ananweb – マガジンハウス

『大奥』『きのう何食べた?』など近年は長編作品が続いていた、よしながふみさん。『環と周』は1巻完結の連作オムニバスだが、構想自体は16~17年ほど前からあったのだそう。 時代も関係性も異なる環と周のかけがえのない巡り会い。 「最初の現代の話と最後の江戸時代の話は、大まかに考えていました」 しかし先述の2作の連載が予定以上に長引いて、このタイミングに。 「当初は恋愛関係の男女を描くイメージでしたが、環(たまき)と周(あまね)の性別が時代によって入れ替わったりして、より幅広い関係性になったのは、今だからこその変化といえますね」 現代編では、中学生の娘と同級生の女の子のキス現場を目撃する妻と、それを報告される夫の反応が描かれる。誰にも打ち明けていないものの、夫の初恋相手も実は同性で……。明治時代編では女学校で出会い、結婚後も文通を続ける2人の女性が。’70年代編は余命わずかの中年女性と、同じアパートに住む少年の交流が。戦後編では、帰還したかつての上官と部下が闇市で助け合って生きる姿が。江戸時代編では、仇討ちのために再会する幼馴染みの男女が登場。 「それぞれの時代の人にとっての普通の感覚を意識しました。たとえば明治時代の女性は、親の決めた相手との結婚に疑問すら持たなかったかもしれませんが、女学校という今までなかった世界でお友達を作ることが可能になるわけです。不自由さだけに目を向けず、できることが増えていたのだと想像して描きました」 環と周、同名の人物が出てくることと、“好き”を描いていることだけが共通項に思える各話が、どうつながるのか。大恋愛のようにドラマティックでなくとも、どんな人生もかけがえのない出会いに溢れていると思わせてくれる読後感が心地よい。 「あのときあの人に出会わなかったら、今の自分はなかったと思えるような出会いって、たくさんあると思うのです。たとえ悲しい別れ方だとしても、どの話もこの人に会えてよかったという喜びを前面に出そうと思いました。冒頭の現代の夫婦が一番平凡なんですけど、彼らは平凡だからいいのかなという気がします。そう考えると自分の隣にいる職場の人や同級生なども、実はすごくご縁のある人かもしれないですよね」 久しぶりに短編を描いたことについては「楽しかった」と振り返る。 「5つの短編で見えている景色がすべて違うので、描き手としてもいい経験ができてありがたかったです」 よしながさんの短編を、読み手としても久々に堪能できる喜びを! よしながふみ『環と周』 家族、恋人、友人などさまざまな関係性で綴られる、“好き”のかたち。どんな時代にもあったはずの、かけがえのない出会いと喜びに光を当てた連作オムニバス。集英社 748円 ©よしながふみ/集英社 よしながふみ マンガ家。1994年デビュー。昨年後半は『大奥』『きのう何食べた?』のドラマも放送。2024年より芸能界を舞台とした新連載を『ココハナ』で開始予定。 ※『anan』2024年1月17日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/526402/ Source: ananweb

  • 2023.12.04

天才芸術家だと勘違いされ、人生が激変!? 30代半ばの“あがき”を描くコミック | ananweb – マガジンハウス

梅サトさんによるコミック『人生最大の噓ついた』をご紹介します。 アートとは? 才能とは? 嘘から始まる、30代の自分探し。 タイトルで心がざわつくが、冒頭数ページでその内容が明かされると、間抜けで笑える半面、他人事ではないという思いも芽生えてくる。主人公の前田と同様、美術大学出身で油絵を描いていた著者の梅サトさんは、前田のついた嘘をこう説明する。 「テレビなどで、例えば小学生と有名アーティストの作品を並べて、どちらが“アート”か当てる企画がありますよね。美術を学んだ側からすると、美術史や鑑賞ルールを知らなかったら、判断が難しいのはしょうがないと思うのです。だけど美術の世界にいる張本人が、勘違いで評価されたものを否定せず、『これはアートです』と言ってしまうのは、ユーモラスに描いているものの、結構罪深いことだと私自身は思っていて。だからこそ前田は悩み、罪悪感に押しつぶされそうになるんです」 前田は30代半ばになっても画家として成功できないことに焦り、単身ニューヨークへ。相変わらず底辺でもがいていたが、とある行動が著名クリエイターの目に留まり、天才芸術家として一躍注目されるように。帰国後、母校で非常勤講師の職を得るが、メッキが剥がれる不安に襲われてしまう。そして彼の前に現れる、学食で働く同い年の津崎さんは、嘘で傷つけられた過去を持っていた。 「津崎さんは正直な人で、身の丈に合わない嘘をついた前田に、爽快な風を吹き込んでくれる女性というイメージです。前田の作品やその変化に対しても、新鮮な反応をしてくれる鑑賞者の役割も担っています」 手のひらを返すように変わった、前田への評価を通して思うのは、才能のある・なしは誰がどう決めるのかということ。直接は描かれていないが、誰もがバズることのできるSNS社会の功罪も透けて見える。 「才能っていうのは自分に向ける言葉ではなく、他者が使う言葉だと私は思っています。これまで『才能がある』と言われてこなかった前田が才能を追い求めるときは、自信を追い求めるときでもあるんですよね」 美大を舞台にした作品は、それこそ若き才能と情熱がほとばしるようなものが多いが、本作は30代半ばの惑いを描いているのも興味深い。 「それなりの選択をしてきた20代があるぶん、後悔したり焦ったり、でも何かを悟ってしまうにはまだ早い年齢ですよね。私としても、美術は今だから向き合えるテーマ。そういう意味でも前田と伴走できることが嬉しいですし、この人のあがきをちゃんと伝えなきゃと思っています」 『人生最大の噓ついた』1 世界中に天才芸術家だと勘違いされる前田。嘘が嫌いな津崎さん、真のアーティスト・泉など、激変した人生を同世代の存在が揺さぶる、自分探しラブコメ。小学館 715円 ©梅サト/小学館 うめ・さと マンガ家。2013年『増刊flowers』掲載の「竜巻の日」でデビュー。主な作品は、『緑の罪代』『お兄ちゃんは今日も少し浮いてる』など。 ※『anan』2023年12月6日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/519135/ Source: ananweb

  • 2023.10.31

「きっといる」と思わせてくれる怪しさと魅力アリ! 怪異を巡る、二人の男の見聞録 | ananweb – マガジンハウス

怪異を引き寄せる男と、追う男、日常の隣に潜む不思議を巡る物語『となりの百怪見聞録(ひゃっかいけんぶんろく)』。 「昔から怪談やホラーなど不思議な話が好きで、いつか描きたいと思っていました。私自身はだいぶ怖がりなのですが(笑)」 四季折々のスープと人間模様を描いた『オリオリスープ』の著者、綿貫芳子さんが満を持して挑んだテーマが、怪異。最新巻に収録されている「遠野物語」をモチーフにした短編「まよひが異聞譚」から、イメージを膨らませて連載化したのがこの作品だ。装丁家でゲイの片桐甚八は、“オバケ先生”と呼ばれる高名な日本画家の原田織座(おりざ)に、なくした財布をとある方法で取り戻す手助けをしてもらう。織座に惚れてしまった甚八は、なぜか怪異に好かれ不思議な現象に遭遇しやすいようで、“あちら”の世界に魅せられている織座の道楽に振り回されることに。 「ふたりとも『オリオリ~』に登場しているキャラクターで、具体的に触れる機会はなかったものの、結構細かく設定を考えていたんです。自分でも忘れていたことを思い出したり、実はこういう人だったのかと気づいたりしながら描いています」 あちら側への入り口となるのは、古本にあった見知らぬ人の書き込みや、不意にポスティングされる情報の少ない移動販売のチラシ、いつも釣り銭が置き去りにされている古い自動販売機など、誰もが日常で身に覚えがありそうなことばかり。 「描きたい物語があるからネタを探すというより、“気になることノート”が発端になることが多いですね。たとえば母から聞いた思い出話や、街中で見つけた変な風景、お風呂に入っていて唐突に浮かんだ単語などをメモしておくんです。それ自体は全然怖くなかったりするのですが、違和感や妙なギャップのある、座りが悪い事象をホラーの土俵に持っていく作業をしている感じです」 彼らは遭遇した怪異をドラマティックに祓ったりはしない。常識的にはあり得ない体験をしながらも、現実の隣に存在する世界だと認識して、また日常に戻る。その描き方に好感が持てるし、「きっといる」と思わせてくれる怪しさと魅力がある。 「いかにもモンスターっぽい佇まいだと、インパクトがあっても隣にいそうにないので、いつもそのせめぎ合いに苦戦してます。イメージは、街の角を曲がったらいそうな存在。ホラーや怪談といっても本当にさまざまですし、怪異が出てこなくても怖いこともたくさんある。そこに可能性があると思っているので、いろんな波で描けたらいいですね」 『となりの百怪見聞録(ひゃっかいけんぶんろく)』2 怪異に好かれる男・片桐甚八と、好事家の原田織座。不思議と恐怖、そして好奇心のバランスが絶妙な見聞録。Web「となりのヤングジャンプ」で連載中。集英社 715円 ©綿貫芳子/集英社 わたぬき・よしこ マンガ家。第64回ちばてつや賞一般部門にて「ヘミスフィア」で佳作受賞。著書に『オリオリスープ』(全4巻)、『真夏のデルタ』。 ※『anan』2023年11月1日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/512788/ Source: ananweb

  • 2023.10.10

亀、蛇、ワニ…特殊なペットの病院とは? “エキゾ獣医”の奮闘を描く『珍獣のお医者さん』 | ananweb – マガジンハウス

飼う人がいれば診る人も必要。特殊なペットの病院とは? 二宮香乃さんによる『珍獣のお医者さん』をご紹介します。 世の中には、驚くべき職業がまだまだあるものだ。 「お仕事マンガを描こうと思って、浮かんだ案のひとつが爬虫類の医者でした。そして調べてみようと手に取ったのが、監修をしてくださっている田向健一先生の本だったのですが、とにかく面白くて、知識としても新鮮だったんですよね」 エキゾチックアニマル、略してエキゾとは、犬・猫以外の動物を指す獣医学用語。一般的な動物病院に就職したものの、犬アレルギーを発症したうえ、ミスを連発してクビになった神無望(かんな・のぞみ)は、まったく興味のなかったエキゾ専門の動物病院の門を叩く。そして敏腕エキゾ獣医、月光先生の下で働くことに。神無が最初に遭遇するのが、甲羅の割れた亀の治療なのだが、ラップでぐるぐる巻きにしたり、パテで割れた部分をつないだりして、クラフト感満載。 「亀はエキゾの中でも比較的身近な動物ですが、先生に取材をすると、マンションの5階から落ちて無事だった子もいるみたいなインパクトのある話ばかりで、本当に不思議な生き物なんですよね」 ほかにもトカゲ、蛇、ワニ、ウサギなどが登場するが、新米獣医の最初の難関が、検査や診療のために動物の体を一時的に動けなくする「保定」という行為。飼い主の前で蛇に噛まれても平静を装いながら実践を積む、涙ぐましい努力が描かれる。 「獣医のみなさんは大抵、手が傷だらけだったりして、大変な仕事だなと思います。しかもエキゾ獣医はニッチなので、前例も少ないし、情報を共有しながら道を切り拓いていくしかない。その感じもかっこよく描けたらいいなと思っています」 爬虫類などは特に、好き嫌いが分かれる生き物といえるが、二宮香乃さんの描くエキゾたちは、気持ちを理解したいという獣医側の心理の表れなのか、愛情を感じられる。 「描いたことのない生き物ばかりなので、毎回苦労しているのですが、みんな顔がかわいいんですよね。爬虫類は正面から見るとちょっと間抜けだったり、ワニもそばにいたら死ぬほど怖いだろうけど、目とか短い手足とかがかわいいので(笑)」 ペットブームなどで飼われる動物も多様化し、エキゾ獣医の需要は高まっている。本作は治療の現場を興味深く描きながら、ペットと人間のあり方も考えさせてくれる。 「ペットを飼う際、病気になったときのことまで考える人はなかなかいませんよね。だけど動物病院で起こっていることを先に知るのも、ありなのかもしれない。その辺を楽しく描けたら人間だけでなく、エキゾの役にも立てるかも、と思うのです」 二宮香乃『珍獣のお医者さん』1 ほかの病院では断られるような特殊な動物と、クセの強めな飼い主が訪れる、エキゾチックアニマル専門の動物病院。見たことのないメディカルドラマ。KADOKAWA 792円 ©二宮香乃/KADOKAWA にのみや・かの マンガ家。第10回エンターブレインえんため大賞 コミック部門で佳作。過去作に『小学生ゾンビ・ロメ夫』。本作は『ハルタ』で連載中。 ※『anan』2023年10月11日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/508557/ Source: ananweb

  • 2023.09.23

「東東京」を一緒に歩いているような気分に!? 『東東京区区』で街の魅力を再発見 | ananweb – マガジンハウス

東京という地名から思い浮かべるのは、どんな景色だろう。葛飾区出身のかつしかけいたさんによる『東東京区区(ひがしとうきょうまちまち)』は、「東東京」を一緒に歩いているような気分になれる一冊だ。 他者の視点が自分の視点を豊かにする、再発見の街歩き。 「もともと街歩きが好きで、いつかそれをテーマにしたマンガを描いてみたいと思っていました。しかもここ数年、葛飾区在住のエチオピアの方やムスリムの方と交流する機会が多く、マンガにするならそういった人のことも描きたかったのです」 インドネシア人の父と日本人の母を持ち、大学で社会学を専攻するサラは、立石の商店街にあるエチオピア人が営むカフェで、8歳の少女・セラムと出会う。そして店を空けられない母の代わりに、セラムに付き添って墨田区にある父の仕事場に忘れ物を届けることに。方向音痴のサラが悪戦苦闘していると、街歩きが趣味の中学生・春太がやってくる。 「普通の人とは少し違うところのある3人で、世代もバラバラですが、トリオだと立体的なバランスで面白くなりそうな気がしました」 3人が歩くのは東京スカイツリーのある押上や、『男はつらいよ』の舞台となった柴又、駅前の再開発が進む立石など。歩きながら、その土地の歴史や文化だけでなく、思わぬ本音などいろんな会話が飛び交う。 「場所を決めたら実際に歩いてみて、地域の図書館などで調べ物をして、3人だったらどんなふうに動くのか想像しながらストーリーを組み立てます。マンガを描くのと同じくらい、調べる時間も好きなんですよね」 観光地然とした風景はほとんど出てこないのも特徴で、スカイツリーのようなランドマークも、なじみのある風景のひとつとして描かれる。 「3人はルーツは違うものの東東京出身なのですが、ここで育った人が改めて街を見るという視点を大事にしました。よその地域から来るほうが、発見や驚きを表現しやすいのかもしれないですけど、暮らす人の視点で描く街歩きがあってもいいんじゃないかなと感じていたので。東東京は下町情緒溢れるエリアとしてメディアで紹介されがちですが、もっと生活者のリアリティに寄せれば、ある種のステレオタイプとは違うものが描けるはずだと思いました」 たとえ知らない土地のマニアックな知識だとしても、好奇心をくすぐられるのは、街やそこを歩く3人が魅力的に描かれているからこそ。 「読んでくれた人が、自分の地元をちょっと歩いてみようと思うきっかけになったら、うれしいですね」 かつしかけいた『東東京区区(ひがしとうきょうまちまち)』1 ムスリムの大学生、エチオピア人の小学生、不登校の中学生。世間の普通とはちょっと違う区区(まちまち)な3人が、東東京の魅力を再発見。トゥーヴァージンズ 1210円 ©かつしかけいた/トゥーヴァージンズ かつしかけいた マンガ家、イラストレーター。2010年頃より地元葛飾周辺の風景を描いたマンガ作品を発表。雑誌や書籍の挿画なども手がけている。本作が初の連載作品。 ※『anan』2023年9月27日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/506483/ Source: ananweb

  • 2023.09.18

恋に友情、家族愛…でも登場するのは全員モンスター!? “優しい世界”を描いたコミック | ananweb – マガジンハウス

誰かに淡い恋心を抱いたり、友情を育んだり、家族と過ごす時間を大切にしたり。描かれているのはどこにでもありそうな日常だが、登場するのはすべてモンスターの本作、『月出づる街の人々』。 「こうありたい」が詰まった、モンスターたちのユートピア。 「プロトタイプの短編を描いたのは約10年前。コミティア(自主制作漫画誌展示即売会)で発表しましたが、今、はるみの弟として出てくる飛べないドラキュラが主人公でした」 酢豚ゆうきさんは当時、『宇宙兄弟』の小山宙哉さんのもとでアシスタントをしながら、マンガ家を目指していた。しかしながらプロになるのを断念し、一度は企業に就職。 「それでも趣味で二次創作などをしていたのですが、久しぶりにオリジナルに挑戦しようと思って、現在の第1話を描いたのが2019年。社会人として大変なこともいろいろ経験したので、優しい世界であってほしいなっていう僕自身の願望が、表れているのかもしれません」 モンスターが暮らすのは、ヨーロッパのような石造りの建物と、日本のノスタルジックな雰囲気がミックスされたような街。透明人間のはるみはさっぱりした性格で、同学年の狼男の毛づくろいに癒されている。フランケンのもち子はおっとりしているものの、怪力の持ち主。クールだけど優しいメドゥーサのユイは、頭の蛇たちをいつも気にかけている。家族構成も学校のクラスも、異なる種族が入り交じっているのだが、それぞれの特性を当たり前のように認め合い、他者の困りごとも理解している関係性は、理想郷ともいえる。 「モンスターのキャラクターに関しては、自分が入り込めるかどうかを大事にしています。たとえば巨大な一つ目モンスターとかだと、いきなり感情移入するのは難しかったりしますよね。一見人間っぽいけど造形的にちょっと不思議だったり、日々の悩みは僕たちと大して変わらなかったりなど、モンスター感と身近さを同時に出せればと思っています」 3人の女子高生モンスターを中心に、さまざまなキャラクターが登場するオムニバスなのだが、2巻では新キャラも続々出てくる。ミノタウロスの男子がもち子の筋トレ姿にほれぼれしたり、女子3人でクリスマスマーケットに繰り出したり、はるみが赤ちゃんのとき、ほとんど透明の状態で、子育てに苦労したというほのぼのエピソードも。 「この作品を機に、いろんな国の神話を調べるようになったのですが、モンスターには昔の人たちの考え方などが反映されていることを知り、ますます興味が湧いています。3人のキャラクターを中心に掘り下げつつ、彼らが住む街の様子もより立体的に描いていきたいですね」 『月出づる街の人々』2 透明人間、狼男、フランケン、ドラキュラ、メドゥーサ。種族を超えて心を通わせるモンスターたちの温かな日常を描いた8編のオムニバス。おまけマンガも! 双葉社 726円 ©酢豚ゆうき/双葉社 すぶた・ゆうき マンガ家。2010年頃からコミティアなどで活動を始める。本作で商業誌デビュー。『月刊アクション』(双葉社)で連載中。 ※『anan』2023年9月20日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/505420/ Source: ananweb