小説

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  • 2024.05.14

推し活がはらむ闇も!? 推し活のリアルを描いた、少しホラーな物語『コレクターズ・ハイ』 | ananweb – マガジンハウス

昨年、「もぬけの考察」で群像新人文学賞に輝いた村雲菜月さん。受賞第1作となる『コレクターズ・ハイ』は、推し活のリアルを描いた物語だ。商品企画の仕事に就き、キャラグッズをはじめ漫画やアニメ、ソーシャルゲームに目がないという自身の体験がベースになっている。 執着が暴走した果てにあるものは!? 共感必至&少しホラーな推し活物語。 「推し活って、人によって価値観や熱量に差があるなと思っていて。自分が普通と思うことが傍から見たらおかしい、みたいなこともそうですし、当事者だから見えた気づきを小説にしたいと思いました」 主人公は人気キャラクター「なにゅなにゅ」の収集に励む会社員・三川。彼女は髪オタクの美容師・品田のもとに通い、縮毛矯正でストレートヘアに整えている。ある日、クレーンゲームオタクの森本さんと出会い、クレーンゲームでなにゅなにゅを取ってもらう代わりに髪を撫でさせることになり…。三者三様の執着が、次第に不穏さを帯びていく展開にぐいぐい引き込まれる。 「好きなものを集めたり対象に没入するのは楽しいけど、キラキラした面ばかりじゃない。例えば、つぎ込んだ金額やアイテムのレア度でマウントしたり嫉妬したり、あるいは自分自身が集められる対象だったらどうだろうとか、推し活がはらむ闇は一番書きたかったところです」 なにゅなにゅファンが集うポップアップショップでの三川の心情や人間観察の描写は、臨場感が鮮やか! 「実際、似たような場面で周りを観察したことがあるので、経験が生きたかなと。でもこんなふうに人を意地悪に見ていたんだと初めて自覚しました(笑)。書きながら自分を発見できるのは小説の面白さです」 終盤のあるできごとをきっかけに、三川は誰も自分を「見ていなかった」ことに気づいて愕然とする。そしてそれは、三川自身が品田や森本さんを「オタクの人」としか捉えていなかったことの裏返しでもある。 「自分が認識している自分と他人から見えている自分の乖離にすごく興味があるんです。今後も書いていきたいテーマのひとつですね」 入社3年目の三川が直面する仕事のジレンマや商品企画のプロセスも丁寧に描かれ、「推しごと&お仕事」小説としても読みどころたっぷり。 「働きながら推し活している女性は多いと思うので、自分ごととして共感してもらえたらうれしいです」 『コレクターズ・ハイ』 仕事で成果を出せない三川は、集めたなにゅなにゅに支えられて毎日を保っている。しかしコレクションする純粋な喜びは歪んでいき…。講談社 1485円 むらくも・なつき 1994年生まれ。会社員をしながら執筆を始め、「もぬけの考察」で第66回群像新人文学賞を受賞。ハイになる瞬間は「めちゃめちゃ課金したソシャゲで超レアカードが出た時!」。©林桂多 ※『anan』2024年5月8日‐15日合併号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・熊坂麻美 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/547657/ Source: ananweb

  • 2024.04.24

辻村深月「言葉の選び方は大人向けのエッセイ以上に時間をかけました」 子どもと本音で向き合ったエッセイ集 | ananweb – マガジンハウス

子どもたち、つまり、かつての私たちが主人公の小説をたくさん書いてきた辻村深月さん。最新エッセイ集『あなたの言葉を』は、そういった物語を読んだ子どもからたびたび寄せられる「大人なのにどうして子どもの気持ちがわかるんですか?」という問いがきっかけになっている。 「自分の言葉」ってそもそも何? 子どもと本音で向き合うエッセイ。 「言われるたびに嬉しい半面、『仲間だよ!』と寂しい気持ちにもなりました。その質問が出てくるには、『大人は自分たちの気持ちがわからなくて当然』という思いがあるはずなので。だとしたら、子どもの頃の悔しかったこと、もやもやしたことなどを覚えているのが私の強みなので、大人の中の子どものスパイとして頑張ってみようと思ったのです」 毎日小学生新聞に連載されたこのエッセイ。言語化や自身の言葉で話すことが尊ばれる昨今、「自分の言葉がある」とはどういうことなのか、辻村さんの子どもの頃の経験や時事問題、読者からの投稿を交えながら深めていく試みでもある。 「大人が思う子どもらしい言葉ではなく、自分の感情や本音の部分を言語化すること。それを表に発さないとしても、心に保つことの大切さについて書きたいと思い、このタイトルにしました。そしてある程度記事が溜まってきて、これは同調圧力に屈しないことについての連載だったのだと、しみじみ思いました」 たとえば、遠足のお弁当の時間、よく知らない子の陰口が始まって、「そうなんだ」と相づちを打ったエピソード。大人の世界でもよくあるシチュエーションといえるが、一緒にいた女の子のとった行動に小学生の辻村さんはハッとさせられる。 「周りに流されず、思ったことはどんどん出したほうがいいとか、大人の思う正しさで語られることが多いけれど、表明することだけが向き合い方ではないと思うんです。子どもに伝えようと思うと表現はよりストレートになるのですが、だからこそ言葉の選び方は大人向けのエッセイ以上に時間をかけました」 迷いが生じたときに本を開きたくなるような、辻村さんが子どもというひとりの人間と真摯に向き合った優しい言葉がちりばめられている。 「作家としていろんな方の言葉や文章に触れる機会が増えてくると、本音で書いてあるものに勝る強さはないと感じます。そのことが、全体を通して伝わったら嬉しいですね」 『あなたの言葉を』 学校生活、出会いと別れ、読むこと、書くこと。かつての子どもたちにも響くエッセイ集。朝倉世界一さんの挿絵が文章に寄り添う。毎日新聞出版 1540円 つじむら・みづき 作家。2004年デビュー。本誌で連載された『ハケンアニメ!』は、舞台・映画・ウェブトゥーン化された。近著『この夏の星を見る』はコロナ禍でつながる中高生の青春物語。 ※『anan』2024年4月24日号より。写真・土佐麻理子(辻村さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・兵藤育子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/544373/ Source: ananweb

  • 2024.04.03

スカッとした気持ちになりたい時に! 柚木麻子の新作は“読めば元気が出る短編集” | ananweb – マガジンハウス

柚木麻子さんの新作『あいにくあんたのためじゃない』は、読めば元気が出る短編集。 困った状況からの起死回生。絶対へこたれない全6編。 「その時どきで一編ずつ書いていったので、全体を通してのコンセプトは特に決めていなかったんです。本にまとめる時に編集者に“タイトルはどうしますか”と聞かれて。ちょうどその頃、モーニング娘。’23の『Wake‐up Call』があまりにいい曲で歌いまくっていたんですが、歌詞にある“生憎あんたのためじゃない”がこの本の内容にぴったりだなと思って。ハロプロにも許可をいただいてタイトルにしました」 他人に惑わされることなく、自分のために生きていこう。そんな気持ちになれる全6編。意外なことに、ほとんどがご自身や周囲の実体験に基づいているのだとか。たとえば、中庭で子供が騒いでもOKというルールのあるマンションが舞台の「パティオ8」。緊急事態宣言のさなか、リモートワークの男性から苦情がきて中庭が使用できなくなる。 「これは知人の実話がもとになっています。子供を外に出せなくなったことが原因で引っ越していった家庭もあったそうです。その話を聞いて、なんとかハッピーエンドにできないかな、と思って、住民たちが一計を案じる話を作ってみました」 一方「トリアージ2020」は、「私の友達が主人公と同じように、コロナ禍に妊娠中のシングルマザーだったんです。彼女の家の近所に私の母が住んでいたので、母に食べ物を届けさせようかと思ったことから思いついた話です」 また、「めんや 評論家おことわり」は、仕事を干された傲慢なラーメン評論家が、入店を断られ続けてきた人気店にようやく足を踏み入れることができて…という話。 「前に、雑誌の特集で、ホモソーシャルな世界として、厳しいルールがあったり、女性や子連れが入りにくいラーメン店について書くことになったんです。まず自分で作ってみようと思って専門書を読み漁り、映画『タンポポ』を繰り返し観て調理の極意をメモして、自分でラーメンを作ってママ友たちに振る舞ったら、かつてない熱狂で受け入れられました。ちやほやされて調子に乗ってラーメン作りを追究しているうちに、腕組みして友人がスープを味わっている顔をじっと観察するという、漫画に出てくるラーメン店店主みたいになってしまって。気づけば自分自身がホモソーシャルな世界に染まっていたんです。自分が敵認定しがちな人のことを、好きにはなれないけれど、ちょっと分かったことはよかったです」 そんな経験からできたこの短編、意外な結末が待っている。他に、地方都市に転勤した女性が年下の女の子の夢を叶えようと先走る「BAKESHOP MIREY’S」、起死回生をはかる元アイドルの男が動画がバズり中の女性を探す「スター誕生」など、どれも軽快でアイロニカルな短編ばかり。スカッとした気持ちになりたい時に、ぜひ。 『あいにくあんたのためじゃない』 過去の記事が炎上、謝罪文を出したラーメン評論家の佐橋に、出禁だった人気店から声がかかり――「めんや 評論家おことわり」ほか5編。新潮社 1760円 ゆずき・あさこ 2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞、同作を含む『終点のあの子』で単行本デビュー。’15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞受賞。 ※『anan』2024年4月3日号より。写真・土佐麻理子(柚木さん) インタビュー、文・瀧井朝世 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/540217/ Source: ananweb

  • 2024.03.28

今の社会で生きていくために必要なことは? 生きる方法を模索する若い男女を描く『K+ICO』 | ananweb – マガジンハウス

法律や英語を学び、カフカの『城』の朗読を聴きながらウーバーイーツの配達をする男子大学生、K。将来を見据えて颯爽と自転車を漕ぐ彼を描く第一章〈K〉から始まるのが、上田岳弘さんの『K+ICO』(ケープラスイコ)だ。 生きる方法を模索する若い二人。現代のボーイミーツガール物語。 「最初は単発の短編として〈K〉を書きました。散歩中、ウーバーイーツの配達員が転んでいるのを2回ほど見かけたことがあって。前に配達員を見下したととられたある方のSNSの投稿がボヤを起こした出来事と重なり、今の社会の負担が彼らにかかっていると感じました。それで、書くべき対象だと思ったんです」 Kというイニシャルについては、「カフカが小説で描いた不条理な世界と現代社会とが重なる感触があります。不条理に適応しながら生きている人物を書く際、カフカも主人公の名前によく使っていたKにすると意図が伝わりやすい気がしました」 第二章〈ICO〉は、TikTokで学費と生活費を稼ぐ女子大学生ICOが主人公。配信では顔を隠しているが、身バレの危険を感じ、そろそろ活動をやめようと考えている。 「〈K〉を書いた後、対比すべき人物がいると感じて浮かんだのがICOでした。今、SNSが生活の手段になっている人は多い。そこに承認欲求は薄くて、有名になって生活がきらびやかになることに昔ほど意味を見出していない印象です」 ICOはウーバーイーツの配達員を見下しているが、ある日配達に来たKに引け目を感じ、動揺する。やがて彼らは再会して……。 彼らより上の世代の人物も活写して現代の行き詰まり感を浮かび上がらせつつ、Kの行動力とICOの変化に光を感じさせる本作。 「今の世の中ってシステムがほぼ出来上がっていて、新たに何かを立ち上げるにしてもスモールビジネスしかできない。システムに労働力として使われる中で、人は自由や自分の領域、生きている実感をどう得ていくのか。それを追求したらKという人物に収斂されていった感があります。他人からの評価にとらわれすぎている現代人へのカウンターとなる人物としても書きました。今の社会で生きていくには、彼のように自分で自分の尺度を決め、培い続けることが一番必要だと思う。もし20代の若い人が読んでくれて、そんなことをちょっとでも思ってくれたら、書いた価値があったなと思えます」 『K+ICO』 ウーバーイーツの配達員K、TikTokerのICO。同世代の大学生ながら異なる生き方、価値観を持った二人の偶然の出会いと、その後とは。文藝春秋 1760円 うえだ・たかひろ 2013年「太陽」で新潮新人賞を受賞しデビュー。’15年「私の恋人」で三島由紀夫賞、’19年「ニムロッド」で芥川龍之介賞、’22年「旅のない」で川端康成文学賞を受賞。 ※『anan』2024年3月27日号より。写真・土佐麻理子(上田さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/538900/ Source: ananweb

  • 2024.03.20

カタルシスをお約束! 読者も翻弄される、華麗なサスペンス心理劇『キスに煙』 | ananweb – マガジンハウス

ある脅迫状から始まる、おぞましき真相と真実。暴くことが必ずしも正義や善意にならない人間心理の深淵を描き、話題をさらった織守きょうやさんの『花束は毒』。『キスに煙』は、またも誰かに強く焦がれること――を軸に描く、ミステリアスな一作だ。 フィギュアスケート、才能の輝き、秘めた恋…華麗なサスペンス心理劇。 元フィギュアスケーターで引退後にデザインの仕事に就いているシオこと塩澤詩生(しおざわ・しお)と、いまもトップスケーターとして活躍する志藤聖(しどう・ひじり)。ふたりは無二のライバルであり、尊敬し合う友でもある。だが、シオは密かに志藤を愛していた。 「今回は、私の中でしっかり、彼らのキャラクターを決めてから書いたんですね。なので、シオだったらこう言うし、志藤だったらこう返すなというやりとりを、彼らを理解して書けた手応えはありました。編集さんに指摘されて腑に落ちたんですが、繊細にあれこれ考えてしまうシオは芸術家肌だし、できるかできないかわからないものは試してみようという志藤は、アスリートの思考。ミステリーを書いていると、物語を進めるための装置としてキャラクターを使わざるを得ないこともあるので、ちゃんと違いが際立ったのならよかったなとほっとしました」 冒頭で、入念にシャワーを浴びるシーンが描写される。誰とは書かれていないが、〈彼の痕跡〉を必死に洗い流す様子から、ただならぬことが起きたのはわかる。そして、もたらされるフィギュアスケートのコーチ、ミラーが転落死したというニュース。 シオは一時期ミラーと付き合っていた過去がある。一方、志藤はミラーとの間に真相不明の因縁があり、彼を徹底的に嫌っていた。そのため、ミラーの訃報に触れたシオと志藤は、「彼が関わったのではないか」と、互いに疑心暗鬼になり…。交互の視点で綴られる迫真の内面描写に、読者もまた翻弄される。 「もうひとつ書きたかったのは、才能についてです。私も天才の話が好きですし、天才を見上げる人の複雑な気持ちや、誰に評価されるのが大事かなど、答えのない世界だから面白い。本作は人が死んでいる話なのですが、主人公たちにとってその出来事がどれほどの意味を持つのか。真相がわかったとき、シオと志藤とミラーの関係における温度差や残酷さが際立つと思うんですね。そこを感じてもらえたらうれしいです」 織守きょうや『キスに煙』 濃密な恋愛模様も本書の魅力。性的マイノリティであるシオの思いはどこへ向かい、志藤はどんなふうに応えるのか。カタルシスをお約束。文藝春秋 1870円 おりがみ・きょうや 作家。1980年、ロンドン生まれ。2012年、「霊感検定」で第14回講談社BOX新人賞を受賞し、’13年に同作でデビュー。映像化もされた「記憶屋」シリーズほか、著書多数。 ※『anan』2024年3月20日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/537832/ Source: ananweb

  • 2024.02.18

ついにきた、大人の恋愛小説! 「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」選考委員たちがうなった作品とは? | ananweb – マガジンハウス

昨年12月に第3回の受賞作が発表された、文芸誌『オール讀物』が主催する恋愛に特化した文学賞。現代を反映した恋物語の最前線は、ここにあります。 恋愛小説の最先端を読みたいなら、「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」受賞作がおすすめ。 かつてほど恋愛が重要視されない現代社会。実際文芸の世界でも、随分前から“恋愛小説は売れない”と言われているそう。 「もはや人は生きていく上で恋愛を必要としなくなったのか。でもそれは、古典的な恋愛観が更新されていないからなのかもしれない…。今も人が他者を求めるという切実な思いはあるわけで、それこそが新たな恋愛の形で、その思いを描く小説を待っている読者は多いのではないか…。そういった疑問を、読者の一番近くにいる書店員さんと考えてみたい、と思ったことが、賞設立のきっかけです」 と言うのは、文芸誌『オール讀物』編集部で、賞を担当している編集者。従来の価値観的な恋愛にこだわらず、“人と人との関係性に主軸をおいた小説全般”の中で、なおかつ大人が楽しめるもの、というように、候補作の間口を広くしているところもこの賞の特徴。受賞&候補作もバリエーションが豊かです。 「何を恋愛として捉えるかは、時代の変化や社会の動きと連動し、広がっています。同性同士の関係に加え、人と動物、人と無機物など…。大きな感情の揺れが発生する間柄はすべて“恋愛”になりうる。それが最近の恋愛小説を取り巻く状況だと思います」 大賞を受賞した田中兆子さんの『今日の花を摘む』は、選考委員たちに“ついにきた、大人の恋愛小説!”と言わしめた作品。 「主人公が自らの体と向き合い、老いや衰えを抱えながらも、前向きに、主体的に爽やかに生きる姿は、大変高く評価されました。20~30代の女性たちにもぜひ読んでいただきたいですし、その世代の方々がどんな感想を抱くのか、とても気になるところです。人の心が揺さぶられる理由や答えは、どれだけ人生経験を経てもわからないもの。文章は、わからないことを描くのに向いている。恋愛小説の名手と呼ばれる作家も、ただただ“わからない”思いを物語に託している、そんな気がします」 「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」とは? 大人がじっくり読める質の高い恋愛小説を選ぶことを目的として、2021年に創設された文学賞。昨年12月に発表された第3回受賞作は、2022年10月1日から2023年9月30日の間に刊行された単行本の中から、瀧井朝世、吉田大助、吉田伸子の3氏の推薦のもと候補作5作を選出し、5人の書店員が選考委員を務め、決定した。 【大賞】 日々を謳歌するように“花摘み”を。一見地味な51歳女性の性愛物語。 『今日の花を摘む』田中兆子 双葉社 2090円主人公は出版社の社員で茶道を嗜む51歳の独身女性・愉里子。趣味は男性としがらみのないセックスをすることで、彼女はそれを“花摘み”と呼ぶ。 「主人公の性愛の楽しみ方は独特で、選考会でも“全く感情移入できない”という意見もあり、また“愉里子が友達で、花摘みの趣味を告白されたら、昔なら『自分を大事に』と言ったと思うけれど、今は『やるじゃん』と答える”という意見もあった。恋愛の概念も多様に変化する今の時代に求められるのは、こういう作品なのでは」(編集部) 【候補作】 戦争へと加速する中国で、惹かれ合う2人の女性。 『楊花(ヤンファ)の歌』青波 杏 集英社 1760円舞台は1941年、日本占領下の中国・福建省廈門。カフェで女給として働きながら諜報活動をしていたリリーは、暗殺の実行者としてヤンファという女性を紹介される。ある夜をきっかけに二人は惹かれ合い…。「スリルとサスペンス、そして純愛!?」(有隣堂・加藤ルカさん)。「息をつかせない展開と、主人公女性2人の存在感が素晴らしい」(大盛堂書店・山本 亮さん) 記憶と手紙、不在と今…。著者初のリアリズム小説。 『最愛の』上田岳弘 集英社 2310円外資系通信機器メーカーで働く30代の久島は、情報も欲望もそつなく処理する“血も涙もない的確な現代人”。しかし彼の心には、学生時代に文通を始めいつしか関係が途絶えた最愛の人・望未の存在が…。「端正な文章に恋愛が絡んでいく、その描写が読ませます」(山本さん)。「男性に読んでもらいたい恋愛小説です」(加藤さん) 1000年という長い恋路、現代で決着は着くの?! 『愛されてんだと自覚しな』河野 裕 文藝春秋 1870円1000年前に神からの求婚を袖にし、愛する男とともに輪廻転生の呪いをかけられた女。その生まれ変わりである二人は、1000年分の記憶を持ちながら出会いと別れを繰り返し、現代でまた出会った! 「個性的な神々と人間が、時空を超えて戦ったり、追いかけ合ったり、求め合ったりすれ違ったり。楽しくてときめく一冊」(丸善丸の内本店・高頭佐和子さん) 離れていても一緒にいる。その気持ちを書ききった作品。 『光のとこにいてね』一穂ミチ 文藝春秋 1980円裕福な家に育つも肉親の愛情を感じたことがない結珠、子供に関心のないシングルマザーに育てられた果遠。古びた団地で出会った少女2人の四半世紀の物語。「特別な二人の関係性の美しさが魅力の物語」(蟹ブックス・花田菜々子さん)。「二人の気持ちを恋愛と呼ぶならば、これは最高レベルに純度の高い恋愛小説だと思います」(高頭さん) 選考委員を務める書店員が語る「選考の感想」 歳を重ねたから心に残る、それが大人の恋愛小説。 「選考をするにあたり、“大人の”というところを意識して読みました。私自身も、さまざまな経験をしたからこそ味わい深く思える、そんな小説に出合いたいし、それこそが大人の恋愛小説なのでは。自分の恋愛観や倫理観、価値観にとらわれることなく物語に没頭すると、恋愛小説はもっと面白く読めると思います」――高頭佐和子さん(丸善丸の内本店) 恋愛がマストではない、その時代に響く作品たち。 「私が思う大人の恋愛小説は、主人公がヒロイズムに溺れることなく主体的に人生を決めていく、そんな作品。大賞の『今日の花を摘む』にはその頼もしさがありました。心の美醜が最もあらわになるのが恋愛だと思うので、だからこそ恋愛小説は読み応えがある。知らない世界を覗く気持ちで、ぜひ読んでみてください」――花田菜々子さん(蟹ブックス) その恋を自ら経験している、そんな錯覚を楽しんで。 「現実世界では絶対ありえない恋も、読み進めるうちに自分ごとになってくる感覚が、恋愛小説を読む醍醐味。大賞の『今日の花を摘む』は、本の中の出来事が自分の周りで起こっているようなリアル感と、描かれる駆け引きが“大人”な一冊です。先入観を持たずに表紙を開くことが、恋愛小説をより楽しむコツなのでは」――加藤ルカさん(有隣堂) 大人になればなるほど、純粋な物語を欲するのでは。 「他の選考委員の方々の感想から、本に対して新たな気づきを得られるのが本当に楽しいです。登場人物の気持ちや行動に対し、共感に似た感情を抱くことこそ、恋愛小説を読む面白さ。以前作家の紗倉まなさんが“大人になるほど純粋な物語を求めるのでは”と言っていたのですが、まさにその通りだと思います」――山本 亮さん(大盛堂書店) ※『anan』2024年2月21日号より。写真・内山めぐみ (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/532693/ Source: ananweb

  • 2024.01.31

高評価を得たデビュー作! 大正大阪を舞台にした、ホラーミステリー『をんごく』 | ananweb – マガジンハウス

丁寧なストーリー運びによって生まれた、胸を突く美しき怪異譚。北沢 陶さんによる『をんごく』をご紹介します。 「大正末期の大阪市はまわりの町村との統合が進み、関東大震災で人口も流入して、活気のある面白い時代だったと知りました。それが2018年ごろ。この作品を書き始めたのもそのころで、ストーリーやキャラクターより先に、大正大阪を書いてみたいというのが出発点でした」 数々のプロットや、3年にも及ぶ執筆のブランクなど、紆余曲折を経て完成した北沢陶さんの『をんごく』。2023年を飾るベストホラーミステリーのひとつとして、各方面から高い評価を得たデビュー作だ。 語り手を務める画家の古瀬壮一郎は、大阪・船場で代々続く呉服屋の倅。関東大震災のケガがもとで亡くなった新妻・倭子(しずこ)への未練から、密子という巫女に降霊してもらうのだが、巫女は不穏な警告をする。〈気をつけなはれな〉〈奥さんな、行んではらへんかもしれへん。なんや普通の霊と違てはる〉。やがて、壮一郎も倭子の気配に気づき始める。 死んだ妻が成仏できず、この世に留まっているのには理由があるはず。その謎を解くミステリーであり、その霊がもたらす厄災を防げるかというホラー要素も詰まっている。 「私も身の回りの人を亡くした経験があって、私自身はまだちょっと割り切れてないところもあるんです。ただ、作中の壮一郎の苦悩を無駄にしたくなかったので、再生の希望を持つまでの心理的な変化をどう描くかには腐心しました」 その面白さに拍車をかけるのが、〈エリマキ〉の存在だ。特定の顔がなく、だが、見る者の意識が転写された姿が顔となる不思議な生態を持ち、死を自覚していない霊を喰って腹を満たしている。そんなエリマキが壮一郎の相棒として、倭子の霊と対峙し、秘められた謎を追っていく。 「私自身が、エリマキに対して理解しきれていないというか、『あいつ、何なの?』て思ってます(笑)。怪物、化け物、あやかし、妖怪…どの呼び名もしっくりこなくて、〈何か〉としか言いようがないですし。でも赤い襟巻きをしているというイメージだけは最初から強烈に浮かんでいました。小説であっても映像的なところというか、たとえば映画『シャイニング』の双子の出てくる場面のように、読者に忘れがたいインパクトを残すシーンがあるのが理想形だと思っています。そんな物語をこれからも書いていきたいですね」 『をんごく』 影響を受けた作家は江戸川乱歩や澤村伊智だそう。選考委員の辻村深月さんも激賞した扇が並ぶ場面は、本書のクライマックスの一つ。KADOKAWA 1980円 きたざわ・とう 作家。大阪府出身。英国・ニューカッスル大学大学院英文学・英語研究科修士課程修了。2023年、本作で横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉〈読者賞〉〈カクヨム賞〉を総なめ。 ※『anan』2024年1月31日号より。写真・中島慶子(本) 取材、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/528889/ Source: ananweb

  • 2024.01.22

綿矢りさ「中国の“今”がわかるガイドブックみたいな小説が書けたらいいなと思ったんです」 | ananweb – マガジンハウス

作家の綿矢りささんが、中国・北京を舞台にした、とびきり痛快な小説『パッキパキ北京』を上梓。なぜ北京? と思うかもしれないが、それには理由がある。 「2022年の冬から翌年の春にかけて、夫の仕事の関係で北京に滞在することになったんです。今から10年ほど前に、映画『さらば、わが愛/覇王別姫』を観て北京に興味を持っていたので、行けるならいいタイミングだなと。実際に行ってみると、歴史的建造物も素晴らしくはありましたが、それより若い女性たちの暮らしぶりを知ることのほうが私にとっては新鮮で。何が流行っていて、何を着て、どんなものを食べているのか…。そんな中国の“今”がわかるガイドブックみたいな小説が書けたらいいなと思ったんです」 主人公は、東京でのリッチな暮らしを気ままに楽しむ菖蒲(アヤメ)。ところが、コロナ禍の北京に駐在中の夫から、傍にいてほしいと請われて渡航を決意。北京での菖蒲は、夫が圧倒されるほどの逞しさで、羊の脳みそや激辛フードなどを食べまくり、さらには現地の人たちのファッションや生態など、あらゆることに好奇心を張り巡らせてつぶさに観察。その様子が活写されているが、これらは綿矢さんが体験したことなのだろうか。 「ほとんど実体験ですが、私は用心深く暮らしていたので、菖蒲のように派手に出歩くことはなく、1日1個新しい経験をするかしないかくらいでした。ただ、北京を舞台にした小説を書くなら、外向的ではじけた主人公のほうが面白いのではと思ったんです。北京の人たちは、あまり人目を気にせず堂々としている。そういう風土が、菖蒲の自由なキャラクターに繋がったように思います」 この物語は、菖蒲の個性がとにかく強烈。一般的に共感できるタイプではないかもしれないが、極端な言動には彼女なりの哲学が。 「“はっちゃけてる女性”を書くようになったのは、コロナ禍の抑圧みたいなものが関係しているのかもしれません。みんなと価値観を合わせているだけでは、ともすると自分を見失ってしまう。一方で菖蒲のように好き勝手に生きている人は、その善悪はさて置き、周りに流されない強さを持っている。小説なら、こんなふうに生きるのも楽しそう! 私はフーテンの寅さんが好きなんですが、菖蒲は女性版寅次郎みたいなイメージです」 『パッキパキ北京』 夫の要請でしぶしぶ北京に渡った菖蒲だが、文化や言語の違いにも臆せず、面白そうなことに飛び込んでいく。彼女が辿り着く“悟り”とは? 集英社 1595円 わたや・りさ 1984年2月1日生まれ、京都府出身。2004年、『蹴りたい背中』(河出書房新社)で芥川龍之介賞を受賞。近著は『嫌いなら呼ぶなよ』(同社刊)、『オーラの発表会』(集英社)など。 ※『anan』2024年1月24日号より。写真・土佐麻理子(綿矢さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・保手濱奈美 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/527638/ Source: ananweb

  • 2024.01.17

別々の場所でコロナ禍を過ごす3人の男女…柴崎友香が描く、2年間の日常と心情の変化 | ananweb – マガジンハウス

東京や滋賀といった別々の場所でコロナ禍を過ごす3人の2年間。柴崎友香さんの新作『続きと始まり』は、2022年から’23年にかけて雑誌に連載した長編小説だ。 別々の場所であの時期を過ごす、3人の男女の日常と、心情の変化。 「自分を含め世界中が同時に影響を受けた出来事なので、その状況自体を書こうと思いました。人によって受けた影響は違うので、住む場所も仕事も家族環境も違う3人の視点を選びました。自分が書けるのは世界の一部分だけだけど、そこから何をどう想像していけるかを考えたかった。連載当初は、2年経てば落ち着くと思っていましたがそうはならなかったので、書いているうちに、小説自体が影響を受けて、書くものも変わっていきました」 大阪出身で一時期は東京に住み、今は結婚して滋賀県で暮らす30代の優子。東京で妻と幼い子供を育てているものの勤務先の飲食店が休業状態の30代の圭太郎。フリーの写真家の40代のれい。彼らの日常が交互に2か月おきに語られていく。 「3人の人生で何歳の時に何があったか一覧表にして考えていきました。コロナ禍で今までとは違う状況になって、彼らもこれまでの経験や今の生活について考え直さざるを得なくなっていく」 緊急事態宣言などで、どういう影響を受けたのかはそれぞれだが、 「あの時期は、いろんなことが標準とされる家族を想定して決められていた。でも人の関係性や在り方は様々だし、家族であっても個々の事情は違う。それに家族というと、恋愛、結婚、出産の3つがセットになりすぎているしんどさもあるなと感じていて。愛し合って結婚しました、というだけではない家族も書きたかったです」 日々を過ごす中、過去の震災のことや個人的な苦い思い出も彼らの胸を去来していく。 「2011年に震災でいろんな問題が出てきた時、“震災があって問題が起こるのではなく、今まであった問題がこういう災害があると拡大するだけだ”という声があって、そうだなと思って。コロナ禍もそうだし、社会の出来事にしても個人的なことにしても、過去のいろんなことが今の自分に影響しているんですよね」 昔の出来事を振り返り、迷ったり新しい気づきを得たりしながら進む3人に、読者も励まされる。 「たとえば以前だったら、何かができなかった時に“本人の努力が足りなかったからだ”と個人の問題にされがちでしたが、今は社会の構造という個人の努力や選択とは別の影響があると捉え直されるようになりました。それは大きいと思います」 過去からの連続の中で、自分の今ここがあると実感させる本作。 「未来のことを考えた過去の人が作ったものの中で、今自分は生きている。自分の今の行動の先に、未来を生きる人がいる。世の中にあった過去の出来事を考えることは、未来を考えることなんだなと感じます」 柴崎友香『続きと始まり』 コロナ禍の2年間、別々の場所で暮らす3人の男女の日常を細やかに描き出す。ポーランドの詩人シンボルスカの詩が引用されるのも印象的。集英社 1980円 しばさき・ともか 1999年に短編「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」でデビュー。2010年『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、’14年「春の庭」で芥川賞受賞。ほか受賞作多数。 ※『anan』2024年1月17日号より。写真・土佐麻理子(柴崎さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/526423/ Source: ananweb

  • 2023.12.13

傷つけられるのに100%嫌いにはなれない“毒友”…作者の経験をもとにした青春小説 | ananweb – マガジンハウス

自分に親愛の情を見せながらも悪意をちらつかせていたあの子。砂村かいりさんがそんな幼馴染みについてSNSでつぶやいたのは2年ほど前のことだ。 友達だけど自分を傷つけるあの子。“毒友”との関係を描く青春小説。 「あれは“毒友”だったと思う、ということを書いたら、編集者さんに、小説に書いてみませんかと言っていただいたんです」 そして書き上げたのが、新作長編『苺飴には毒がある』だ。主人公は高校生の寿美子。彼女にはれいちゃんという幼馴染みのクラスメイトがいる。悪口と噂話が好きな彼女の言動に傷つけられることも多いが、一緒にいて楽しい時間があるのも確かで、100%嫌いにはなれずにいる。 「真面目な子ほど自分の感情を後回しにして、他人の屈折した感情に振り回されて傷つく傾向があると感じています。私も今なら、れいちゃんのように悪意と好意の両面を見せて相手を支配するのはある種のハラスメントだなと分かります。でも当時はそれを言語化できずにいました」 ある時寿美子は、れいちゃんが他の友達と一緒に自分の悪口を言っているという証拠をつかんでしまう。 「私にも同じことがありましたが、その時、妙にほっとした自分がいました。これからの関係性を考えていく手がかりになったんです」 寿美子の高校生活は少しずつ変化していく。れいちゃんとは別の親友や所属する文芸部の仲間、家族との関係の変化や、進学に関する不安、恋の予感なども実に繊細に描かれ、そのどれもが読み応えたっぷり。 「中学や高校の3年の間でも、人間関係はどんどん変わっていく。だから今悩んでいる人も、どうにか乗り切ってほしい。学校生活がすべてではないこと、自分の感情に嘘をつく必要はないんだよってことは、地道に伝えていきたいです」 木の枝を剪定するように人間関係にも剪定は必要、と砂村さん。物語の後半、れいちゃんからもらった手紙を読んだ寿美子が下す決断に、励まされる人も多いのでは。 「いただいた感想に“私自身がれいちゃんだったかもしれない”とあって、はっとしました。別の方からは、“御守りのような一冊になりました”という言葉もいただいて。ああ、自分はこのためにこれを書いたんだなと思えました」 読めばきっと、新たな気づきを与えてくれるはず。必読です。 『苺飴には毒がある』 高校生の寿美子には陰口好きな幼馴染みがいる。寿美子に対して意地悪な時も優しい時もある彼女に、感情を振り回されていたのだが…。ポプラ社 1870円 すなむら・かいり 2020年、第5回カクヨムWeb小説コンテスト恋愛部門“特別賞”を「炭酸水と犬」「アパートたまゆら」で2作同時受賞し、翌年デビュー。他の著書に『黒蝶貝のピアス』がある。 ※『anan』2023年12月13日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/520480/ Source: ananweb