小説

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  • 2023.12.06

一気読み必至! 大ヒット『犬を盗む』作者による、犬を題材にした最新サスペンス | ananweb – マガジンハウス

佐藤青南さんが昨年刊行した『犬を盗む』が大ヒット。資産家の女性が殺害され、愛犬が行方不明となる。その犬と、後ろ暗い過去を持つコンビニ店員が飼い始めた犬は何か関係がありそうで…という、犬を絡めたミステリーだった。最新作の『一億円の犬』もサスペンス感満載だ。 虚飾まみれのインフルエンサーによる、厄災と気づきとは。疾走感たっぷり。 「犬を題材にするのは編集さんから提案されたんですが、僕自身は最初は気が進まなかったんです。というのも、僕も犬を飼っていて、それをお金に換えることへの抵抗が拭えなくて。なので、書くなら、犬が絶対にひどい目に遭わないようにする、犬が最大限幸せになれるように配慮するという縛りを、自分の中に設けたんですね。それをクリアさせつつストーリーに波乱を持たせるので、結構頭を使いましたね」 本書の語り手は、携帯電話ショップの派遣社員として働く小筆梨沙(こふで・りさ)。愛犬さくらとの日常をマンガにしてSNSに投稿し、なかなかの人気だ。そんな折、編集者の寺本直樹が書籍化の話を持ってきた。〈百万部、目指しましょう!〉という威勢の良さに心が動かされたが、実は梨沙は犬を飼ってさえいなかった…。 「どんな物語にするかなかなか決まらなかったですね。『いっそ“犬はいない”で始めたらどうか』と浮かんだのが出発点です」 梨沙がSNSに載せている写真は、海外のアカウントからの無断盗用だ。似た犬を飼わなければ書籍化はおじゃんになるだろう。犬探しに必死の梨沙に、不測の事態が! 「梨沙はセレブアピールして編集者やファンを欺いています。本当は埼玉県の木造アパートでひとり暮らしをしているのに、現実を隠そうとして、とんでもない事態に陥ってしまう。僕はむしろ、殺人事件のような深刻な状況に置かれても、お腹もすくし、笑ってしまうような行動もするのが、人としてのリアリティだと思っているんですよね」 予測不能さとスラップスティックが掛け合わされ、一気読み必至だ。 「とある作家さんに『あなたの書く小説はヤバい人ばかり出てくる』と評されたことがあります。ヤバいかどうかはともかく(笑)、イマドキの読者が関心のありそうなトピックや現象を意図的に織り込んだらこうなりました。犬が好きな人、飼っている人はもちろん、そうじゃない人にも楽しんでもらいたいです」 『一億円の犬』 梨沙の架空の愛犬さくらは、保護犬だったという設定のため、保護団体から譲り受けようとするが…。愛犬家たちの一家言も興味深い。実業之日本社 1870円 さとう・せいなん 1975年、長崎県生まれ。作家。2011年に『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞した『ある少女にまつわる殺人の告白』でデビュー。著書多数。 ※『anan』2023年12月6日号より。写真・土佐麻理子(佐藤さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/519145/ Source: ananweb

  • 2023.11.24

「ダル絡みおじさん」だった藤原道長。お茶目、和歌が上手…紫式部から見た“意外な素顔”

 2024年大河ドラマ「光る君へ」の主人公は紫式部。彼女の「生涯のソウルメイト」として藤原道長が登場するということで、近年の男性主人公が続いた流れとは異色の大河作品になりそうです。  藤原道長といえば、「この世をば わが […] Source: 女子SPA!

  • 2023.11.07

探偵役は小学生! 少年少女がオカルトめいた謎解きに挑む、今村昌弘『でぃすぺる』 | ananweb – マガジンハウス

猟奇的な事件を扱う本格ミステリー〈屍人荘の殺人〉シリーズとは違う、暗いものを突破するようなエネルギーに満ちた小説を書いてみたいと思った、と語る今村昌弘さん。できあがったのが小学6年生の少年少女が探偵団的な役割を果たし、オカルトめいた謎に挑んでいく『でぃすぺる』だ。子ども時代の懐かしい記憶をくすぐられる無二の面白さがある。 マリ姉の死の謎を、“掲示係”になった少年少女は解き明かせるか。 「本格ミステリーで大事にしているロジックは誰にでも等しく扱える力のはずで、極端に力を持たない存在である小学生でも同じようにロジックで事件を解き明かすことはできるのではないか。また、小学生だからこそオカルトに対してもはなから否定せず、思い切った発想ができるのではないかと思ったのです」 夏休み明けの新学期、壁新聞を作る掲示係になったユースケ、サツキ、ミナ。サツキは、1年前の地域の大祭〈奥神祭り〉の前日に亡くなった従姉のマリ姉の死の真相が〈奥郷町の七不思議〉と関わっているのではないかと考えていた。マリ姉の死と彼女のパソコンに遺されていた6つの怪談話には、どんなつながりがあるのか。7つめを知ると死ぬという噂は本当なのか。3人は壁新聞記事のために調べ始めるが、少しずつ、町を覆う重苦しい秘密が見えてきて…。探偵役は子どもといえども、謎解き部分の難易度は極めて高い。 「ユースケを視点人物に据えたことで、子どもが見える範囲、できる範囲のバランスを塩梅しなければいけなかったのは難しかったですね。今回は怪談と謎解きを一つ一つ進めていく形にしたので、序盤でこういう伏線を張っておくべきだったとか、最後のほうになると悩む場面が増えてきたんですね。6つのホラーに対して、ユースケがオカルト的な、サツキが論理的な、それぞれの推理を展開し、欠点をミナが指摘する。ミナはミステリー好きで、推理小説のルールや約束事を解説する立場も担っています。6×3のロジックに加えてさらに全体の種明かしのロジックも用意しなくてはいけなかったので、非常に燃費の悪い作品になりました(笑)」 だが、本書で忘れてならないのは、子どもたちが謎解きのために行動し、考え、気づきを得て大きく成長していく描写が活き活きとしている点。ジュブナイルとしての完成度も圧巻で、長く読まれてほしい一冊だ。 今村昌弘『でぃすぺる』 ザ・小学生男子的なユースケ、優等生のサツキ、シングルファーザーに育てられている転校生のミナ。3人の絆や運動会の場面は感動的だ。文藝春秋 1980円 いまむら・まさひろ 作家。1985年、長崎県生まれ。2017年、鮎川哲也賞受賞デビュー作『屍人荘の殺人』が各ミステリーランキングを総なめし、大ブームを巻き起こす。同作は’19年に映画化も。©文藝春秋 ※『anan』2023年11月8日号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/514033/ Source: ananweb

  • 2023.10.09

無傷で生きていくなんて誰にもできない…公園の古びたカバの遊具がつなぐ物語 | ananweb – マガジンハウス

青山美智子さんの新刊『リカバリー・カバヒコ』は、新築分譲マンション〈アドヴァンス・ヒル〉に住まう人たちの群像劇だ。 公園の古ぼけたカバの遊具がつなぐ、傷ついた人たちの回復と絆の連鎖。 マンションそばの日の出公園には〈リカバリー・カバヒコ〉と呼ばれる古びたカバの遊具があり、その地域では「ケガや病気でつらい箇所やコンプレックスに思う何かなど、自分の治したい部分に触れると回復する」というまことしやかな噂が信じられていた。 「どこか悪くなるとみな、お医者さんにかかったり、『効く』といわれたことを試したり、いろいろしますよね。その中にはお参りするというのもある。たとえば東京・巣鴨のとげぬき地蔵は有名ですが、物質的にはお地蔵さんってただの石ですよね。なのに、信じる人も、実際に治る人もいる。真摯な願いが人や状況をどう変えるのか。そんな思いの部分を書きたいと思ったんです」 物語は、視点人物が変わる5つの連作スタイルで進む。進学した先で成績不振に悩む男子高校生の奏斗、幼稚園に通う娘のママ友グループに違和感がある紗羽、ストレスで休職中のウェディングプランナー・ちはる、駅伝がイヤで足をケガしたふりをした小学生の勇哉、老いた母親との不和に悩む50代の雑誌編集者。 「共通しているのは、うまくいっていたつもりでいたのに、変化についていけなくてつまずいたり、それまでと勝手が違って戸惑ったり、ある地点で足踏みしている人たちだということ。無傷で生きていくなんて誰にもできないからこそ、そのときにカバヒコみたいな存在は必要だろうなと。悩みを聞き出そうと水を向けたりしないし、アドバイスもくれない。けれど、カバヒコにあれこれ打ち明けるうちに、結局は自分自身で折り合いをつけていかなくてはいけないことに気づく。私の小説には狂言回し的な存在がよく登場するのですが、カバヒコくらい何もしないキーパーソンって初めてかも」 実際、塗装もはげていてどこかとぼけた表情のこの遊具は、登場人物から頼りにされる。読者にとっても、どんどん愛おしくなってくる。 「裏テーマのひとつが“触れる”です。コロナ禍の数年、身体接触はタブーでしたが、触れることでもらえるエネルギーやパワーは侮れないと思うんですよね。この本も多くの人に読んでもらって、たくさん撫でてもらえたらうれしいですね(笑)」 あおやま・みちこ 作家。1970年生まれ、愛知県出身。2017年、『木曜日にはココアを』で小説家デビュー。『お探し物は図書室まで』『赤と青とエスキース』が2年連続で本屋大賞2位に。著書多数。 『リカバリー・カバヒコ』 既出作との人物&設定リンクあり。『赤と青とエスキース』に続き、本書にも登場したマンガ「ブラック・マンホール」はコミック化が進行中。光文社 1760円 ※『anan』2023年10月11日号より。インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/508777/ Source: ananweb

  • 2023.10.09

訳者別の読み比べも楽しい! 古典文学愛好家が教える、『源氏物語』の魅力 | ananweb – マガジンハウス

多くの作品が親しみのある現代語に訳され、初心者でも読みやすくなっている古典文学。その魅力や楽しみ方について、古典文学愛好家である、書評家・三宅香帆さんと翻訳家・イザベラ・ディオニシオさんが語ります。 最初にハマる古典はやっぱり『源氏物語』。 三宅香帆(以下、三宅):私が古典に興味を持つきっかけとなったのは、実は氷室冴子先生の『なんて素敵にジャパネスク』という少女小説なんです。 イザベラ・ディオニシオ(以下、イザベラ):ライトノベルズや漫画は入り口にぴったりですよね! 三宅:平安時代が舞台の話ですごく面白かったんですが、未完で終わってしまって。その続きが読みたすぎて、あとがきに元ネタになっていると書かれていた『大鏡』や『源氏物語』に手を出して。大学では国文学を勉強して、がっつりと読むようになりました。 イザベラ:私は子供の頃からギリシャ神話に興味があって、それをテーマにした児童書を読んでいたんです。でも、だんだん原文で読みたくなって。高校はクラシック系の学校に入り、ラテン語や古代ギリシャ語を中心に勉強しました。 三宅:え~、すごい! イザベラ:イタリアの高校は、日本の専門学校に近い感じなんです。それで古典作品をいろいろ読み漁って、古代ギリシャやローマの日常生活とか恋愛事情を知りました。 三宅:それで、なぜ日本の古典に興味を持ったんですか? イザベラ:大学に入る時に、軽い気持ちで日本文学の講義をとったんですよね(笑)。でも、歴史から学んでいくうちに、どんどん古典文学にハマっていって。最初に読んだのは『源氏物語』でした。 『源氏物語』は女性キャラが魅力的。 三宅:やっぱり、日本最古の恋愛ロマンスですもんね! イザベラ:のめり込みましたね。登場人物を知り合いに例えたりして、友達と楽しんでいました。 三宅:『源氏物語』は盛り上がりますよね! 私も大学生の時に、ドラマ化するならこの役はあの俳優さんがいいとか、勝手に配役を妄想してました(笑)。 イザベラ:主人公の光源氏よりも、女性キャラクターの方が個性的だし、断然、色鮮やか。だから、想像力を掻き立てられるんですよね。 三宅:『源氏物語』って読む時の年齢によって感情移入するキャラが替わりませんか? 最初は自分がまだ子供だったということもあって、雲居の雁がかわいくて好きだったんですが、大人になった今は朧月夜のような主体的な女性に惹かれる。嫉妬深くて、生き霊を飛ばす六条御息所も、最初はただただ怖い! って思ったけれど、嫉妬しちゃいけないと思うからこそ、生き霊になってしまった気持ちも今なら少しはわかる。 イザベラ:確かに。「自分は身分も教養も容姿も申し分ないはずなのに、なぜ私じゃなくてあの子を選ぶわけ? なんで振り向いてくれないの?」って思ってしまうとか…ね。怨念で死に追いやってしまうのはどうかと思いますが(笑)。 三宅:そんな簡単なものじゃないんですよね、恋愛は(笑)。 イザベラ:恋愛はケミストリーだから、いくら高スペックな女性でも、必ずしも恋が上手くいくとは限らない。作者の紫式部は当時からそういうことをわかったうえで、確信的に書いていたんですよね。 三宅:最愛の妻とは子供ができず、若い愛人にサクッとできてしまう話もすごいなぁと思いました。現代の話だと言ってもまったく違和感ないし、なかなか深いですよね。 読み比べも楽しい。人気作家が手がける『源氏物語』 『源氏物語』1 角田光代 訳 2017年に満を持して出版された、最も新しい角田訳。原文に忠実ながらも非常に読みやすく、昔も今もつながる感情を重視し、小説としての面白さが存分に堪能できる。この秋、待望の文庫化。10/6発売。¥880/河出文庫 『全訳 源氏物語 新装版』1 与謝野晶子 訳 少女の頃から『源氏物語』を愛読してきた与謝野晶子が晩年に書いた54帖全訳の決定版。与謝野版の出版により、一般にも広く普及されるようになった。その現代語訳は格調高い筆致が特徴。¥836/角川文庫 『潤一郎訳 源氏物語』1 谷崎潤一郎 訳 文豪・谷崎潤一郎による現代語訳は、京都の女語りを意識した流麗な雅文体。原文の雰囲気を生かして、継ぎ目のない長文で主語も入らないため、初めて『源氏物語』を読んでみようと思う読者にはやや難しい。¥1,100/中公文庫 『新源氏物語』上 田辺聖子 著 もともと『週刊朝日』に連載されていたもので、男性にもわかりやすい物語を目指して、原書を大幅にリライト。田辺の創作が少し加えられているうえ、会話を多用しているので現代小説のように読める。¥990/新潮文庫 (写真・左)三宅香帆さん 書評家。1994年生まれ、高知県出身。京都大学大学院修士課程修了。著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』ほか多数。いつか『更科日記』を現代語訳することが夢。 (写真・右)イザベラ・ディオニシオさん 翻訳者、エッセイスト。イタリア出身。大学時代より日本文学に親しみ、2005年に来日。著書に『平安女子は、みんな必死で恋してた』『女を書けない文豪(オトコ)たち』『悩んでもがいて、作家になった彼女たち』。趣味はごろごろしながら本を読むこと。 ※『anan』2023年10月11日号より。写真・福森クニヒロ 黒川ひろみ 取材、文・野尻和代 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/508755/ Source: ananweb

  • 2023.09.19

時代に翻弄される、プログラミングの秀才少年2人の物語『ラウリ・クースクを探して』 | ananweb – マガジンハウス

かけがえのない少年2人の友情と、彼らを襲う過酷な運命。宮内悠介さんの新作『ラウリ・クースクを探して』はラストに胸が熱くなる物語だ。 プログラミングの秀才少年2人。時代に翻弄される友情のゆくえ。 「今回はストレートな友情の物語です。私は幼少期にアメリカにいたのですが、書きながら当時の友人の顔を思い浮かべることもありました」 1977年、ソ連占領下のエストニアに生まれたラウリは少年時代からコンピューター・プログラミングの才能を開花させる。モスクワの研究所入所を夢見て進学した学校で出会ったのは、レニングラードから来た秀才少年、イヴァンだ。 宮内さんも小学生の頃からプログラミングに夢中だったという。 「ラウリにモデルはなく、強いて言うなら自分です。彼らがMSXというコンピューターでゲームを作る様子は、自分の体験を重ねています。ただ、自分に近い年齢でも場所が変われば激動の歴史を生きることになってしまうのは不思議な思いです」 彼らが友情を深める様子がキラキラしていて眩しい。しかしソ連が崩壊、二人は離れ離れとなり、ラウリは夢も絶たれる。そして…。 ソ連にも自国にも肩入れできずに心揺れるラウリの心情がリアル。 「彼は何者でもない。誰もが勇敢に一貫した意見を言えるわけでもなく、誰もが正義や答えを出せるわけでもない。簡単な答えなどどこにもない。それでも人間は生きていける。そんな思いを込めました」 本作はエストニア、コンピューターの近現代史としても味わい深い。 「実はこの話の出発点はMSXです。私も小学生の頃使っていました。旧ソ連は輸出規制によって高精度のコンピューターを輸入できず、日本で作られた8ビットの低スペックのMSXを教育用に導入したのです」 エストニアは現在IT先進国としても有名で、その様子も描かれる。 「コンピューターとは人類にとって何なのかという問いを含ませました。現在のエストニアの姿は、未来の私たちの姿かもしれません」 ところで、作中ラウリが同級生たちのために教本を作る場面が印象的。 「私もアメリカの小学校に通っていた頃、授業で周りが分数の概念を理解できずにいたので、『ユウスケの分数の本』を作ったことがあります。好評で学校の図書館に一部寄贈されました。それが私の一つの成功体験になっています(笑)」 『ラウリ・クースクを探して』 幼少期にプログラミングの才能を開花させたものの、歴史に翻弄され、現在消息不明のラウリ・クースク。彼のたどった人生とは。朝日新聞出版 1760円 みやうち・ゆうすけ 2012年、単行本デビュー作『盤上の夜』で日本SF大賞、’17年『彼女がエスパーだったころ』で吉川英治文学新人賞、『カブールの園』で三島由紀夫賞受賞。ほか受賞作多数。 ※『anan』2023年9月20日号より。写真・土佐麻理子(宮内さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/505425/ Source: ananweb

  • 2023.09.12

手の移植を介して初めて感じ取ったものとは…現役医師・朝比奈秋による最新小説 | ananweb – マガジンハウス

ハンガリーの大都市デブレツェンの病院で働く看護師のアサト。骨肉腫との診断で左手の切断手術を受けたが、のちに誤診であったとわかる。その病院には、手の移植手術の権威ゾルタン医師がいて、労働者階級のポーランド人の手の移植をした。だが、接合された左手には、消えない違和感と強烈な拒絶反応が起こり…。本書は、あまたの読書家から熱い視線を浴びる朝比奈秋さんの最新刊だ。 「手の移植をしたニュースを何かで見て衝撃を受けたんです。手の移植は世界的に見ても稀な手術で、そもそも教科書にも載っていない。前後してクリミア併合が起きて、領土が行ったり来たりするというのはどういうことなのかと、興味を持ちました。小さな院内で他人の手が意思に反してくっつけられる、個人のこぢんまりした話が、領土が勝手に分断されたり併合されたりする大きな問題と自然と結びつきました」 アサトは日本人で、妻のハンナはクリミアのウクライナ人だ。マイダン革命以後、街の雰囲気が変わると夫婦で脱出したこともある。ハンナは看護師でもあり、紛争地に乗り込んで取材をするジャーナリストでもあるが、彼女が夫の故郷の島国をうらやましく思う感覚を、アサトは手の移植を介して初めて感じ取る。 「常に戦争のリスクと隣り合わせで国境を維持してきたヨーロッパの人から見たら、日本はなんて恵まれた国かと思うでしょう。一方で、文化や宗教も含め他国を受け入れているようで、本当の意味では受け入れていないというのも、島国の特殊性なのかもしれません」 物語はかなり進行するまで誰とわからない一人称語りで始まり、アサトの現在と過去が入り交じって進む。ゾルタンの視点も挟まれる。練られた構成に見えるが、朝比奈さん曰く、物語に対しては“受け身”。 「僕が物語を考えているのではなく、思い浮かんだ映像を何とか理解して書いているだけ。なので、書く上で物語に対して干渉はしません。ただ書き終わるまでその映像が居座って離れないし、逆に言えば、物語とつながってる最中はアサトやハンナの苦しさや怒りの感覚が自ずと伝わってきて、自分の腹も背骨も震えます。そうやって、登場人物と一緒に苦しんで進んでいく書き方しかできないので、小説を書くのは僕にとっては業に近いです」 写真:石渡 朋 あさひな・あき 1981年、京都府生まれ。2021年、「塩の道」が林芙美子文学賞に輝き、翌年、同作を収録した『私の盲端』でデビュー。今年『植物少女』で三島由紀夫賞を受賞。現役の医師でもある。 朝比奈 秋『あなたの燃える左手で』 医療人ならではの知識と、医師自身や患者、患者家族の思い、それを俯瞰する作家の目から生まれてくる言葉とイメージに揺さぶられる。河出書房新社 1760円 ※『anan』2023年9月13日号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/504211/ Source: ananweb

  • 2023.06.02

朝鮮王族と結婚した日本の女性皇族。その数奇な運命をたどって見えてくるもの

世界史でも日本史でも教科書を開けば、そこに出てくる名前はほとんどが男性のものである。多くの国で長らく政治や経済、文化といった“表舞台”は男性中心の世界だった。同じ時代を生きた女性たちの存在は“ないこと”にされているも同然 […] Source: 女子SPA!