山田貴美子

  • 2024.05.21

不気味なのになぜかハマる! 日本ホラー漫画家を代表する存在・伊藤潤二の大規模展 | ananweb – マガジンハウス

緻密なタッチでグロテスクな世界を描くホラー漫画家・伊藤潤二。彼の作品は世界30の国と地域で翻訳され、漫画のアカデミー賞とも呼ばれる米アイズナー賞を4度受賞。2023年からNetflixでは彼の漫画をアニメ化した『マニアック』の配信もスタートするなど、今や日本ホラー漫画家を代表する存在だ。 世界が認めるホラー漫画家の不気味と滑稽の世界観に迫る。 そんな伊藤初の大規模展「伊藤潤二展 誘惑」が話題を呼んでいる。「当館には伊藤作品のファンもおり、念願の企画展が実現しました。伊藤作品にはホラー漫画という枠では語り尽くせない面白さがあります。怖さとユーモアを自在に行き来する展開、ユニークなキャラクター造形、何といっても美麗な作画に圧倒されます」(世田谷文学館学芸員・加藤信元さん) そんな魅力を伝えるため、会場では様々なアプローチで空間を演出。序章で伊藤の海外での輝かしい受賞歴に触れた後は、第1章に代表作「富江」を中心に美醜が共存した作品を、第2章では、「死びとの恋わずらい」「うずまき」「双一」「首吊り気球」など、ごくありふれた日常に存在している恐怖をテーマとした作品を取り上げる。第3章では「中古レコード」「アイスクリーム・バス」「血玉樹」などを中心に迫力ある扉絵を、最終章では「伊藤潤二の猫日記 よん&むー」「ノンノン親分」などの作品を通じて、5歳から楳図かずおや古賀新一らの怪奇漫画に熱中し、自らも怪奇漫画を描き始め、歯科技工士から漫画家へと転身した伊藤の幼少期から現在までを、愛用品なども含めて紹介する。 特に今回はメインビジュアル《富江・チークラブ》や《禍々しき桐絵》など描きおろしも多数。また「うずまき」をモチーフとした体験型メディアアートや、作品に登場する身長2m超えの激痩せファッションモデルの“淵さん”と遭遇できるコーナーもユニークだ。 不気味なのになぜかハマる伊藤作品。かつてない規模で開催される本展を見ればさらに、その特異性、唯一無二の世界観の虜になりそうだ。 精緻な画力を満喫できる代表作「富江」。入り口ではメインビジュアル《富江・チークラブ》がゲストを迎える。富江 ©ジェイアイ/朝日新聞出版 「富江」は美しい黒髪とホクロが印象的な妖艶な美女。彼女の魅力に狂った男たちは、異常な殺意を向けるが…。富江の世界 ©ジェイアイ/朝日新聞出版 級友の首吊り自殺後、突然自分そっくりな首の気球が迫ってくる。2023年Netflixでアニメ化された傑作。首吊り気球 ©ジェイアイ/朝日新聞出版 意味もなく謝罪する転校生が来た。彼が土下座するとなぜか脳が溶け出す生徒が続出。謝罪の真意とは…。溶解教室 ©伊藤潤二(秋田書店)2014 伊藤潤二展 誘惑 世田谷文学館 2階展示室 東京都世田谷区南烏山1‐10‐10 開催中~9月1日(日)10時~18時(入場は閉場の30分前まで) 月曜(7/15、8/12は開館)、7/16、8/13休 一般1000円ほか TEL:03・5374・9111 いとう・じゅんじ 1963年、岐阜県生まれ。ホラー漫画家。代表作の「富江」シリーズや「うずまき」など映像化された作品も多数。2023年、第50回アングレーム国際漫画祭で特別栄誉賞を、サンディエゴ・コミコンでインクポット賞を受賞。©東川哲也/朝日新聞出版 ※『anan』2024年5月22日号より。文・山田貴美子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/549131/ Source: ananweb

  • 2024.05.01

矢部太郎「気軽にOKしたのですが… (笑) 」 初の大規模展覧会のために約100点描き下ろし! | ananweb – マガジンハウス

お笑い芸人としての活動はもちろん、平安時代を舞台にした大河ドラマ『光る君へ』の出演や、週刊漫画雑誌での連載「楽屋のトナくん」など、以前にも増して活躍の場を広げているお笑い芸人・矢部太郎さん。そんな彼の新境地ともいえる初の大規模展覧会が、ついに始まった。 大切な人とのふたりの時間を思い起こす展覧会になれば。 「実は展覧会なんて考えたこともなかったんです。オファーをいただき、今まで僕が描いた漫画をまた違った形で紹介するというコンセプトだったので、じゃあ僕が何かすることはなさそうだなと。あ、いいですねと気軽にOKしたのですが…(笑)」 東京・新宿区の外れにある一軒家で暮らす、矢部さんと大家のおばあさんとの交流を描いた漫画『大家さんと僕』。会場には物語の名場面とともに、矢部さんが同展のためにアクリル絵の具で制作した約100点の描き下ろしイラストが展示される。 「冗談で100枚くらい描き下ろします? と言ったら、ぜひやりましょうと即決されてしまって(笑)。でもデジタルで描くのと違って、絵の具で描くのは手を動かすのが楽しすぎて、アドレナリンが出ちゃってもう眠れなくなるほど。きっと紙だから失敗できない緊張感があるんでしょうね。だから毎日早起きして絵を描いて、その後、平安時代(大河ドラマの現場)に行っていました」 また会場では、漫画の中にある「ライトとおやき」の紙芝居が上映されるほか、「空飛ぶふたり」も映像化されるなど、作品をあらゆる方法で体感できるインスタレーションがそこここに。もちろんこの中には、矢部さん発案のプランもあるという。 「僕が大家さんとよく行った蕎麦屋にあった、10円玉を入れて使う昔の公衆電話。これが会場に設置されていて、来場者はその電話を取ると受話器からランダムに僕からのお礼の言葉が聞こえてくる仕掛けです。他にも大家さんの家に設置されていた、思い出の感知ライトも登場します」 と、来場者は作品の名場面を追体験できる演出に。漫画を読んだことがない人でも楽しめる内容だ。 矢部さんが絵を好きになったのは、絵本作家である父・やべみつのり氏の影響が大きい。そこで本展では、彼の作品『ぼくのお父さん』に関するコーナーも展開。父による家族絵日記「たろうノート」や、幼い矢部さんが父の勧めで始めた「たろう新聞」の現物が初公開され、当時住んでいた東京・東村山市での暮らしぶりを体感できる映像インスタレーションも設置。ユニークな矢部さんの生い立ちも知ることができる。 そんな矢部さんの創作意欲をかき立てるものとは一体何なのだろう? 「創作の源は? と聞かれれば、やっぱり大切な人のことが思い浮かびます。例えば大家さんには大家さんなりの人生があって、彼女が大切にしているものがあった。それは世間の価値観とは少し違うかもしれないけれど、すごく素敵だなと僕には思えた。もしかすると、単身で高齢のおばあさんと売れない芸人の話は幸せではないと捉えられることもあるかもしれないけれど、そこには本人が実感している幸せがある。こういったことこそ、描く価値があることなんじゃないかと思うんです」 漫画家になりたかったのではなく、心温まる人との思い出を自分なりの方法で伝えようと思った。そんな思いから絵を描き始めて早7年。そのアプローチは画業のみならず、お笑いや俳優業とも共通していると語る。 「出来上がったものを見てもらう以上に、僕は純粋に創作の過程が面白いタイプ。それはお芝居も同様で、稽古が一番楽しい、みたいな。この展覧会でも初めての経験ができて、一番楽しい思いをしているのは僕なんじゃないかな。観てもらう人には申し訳ないけど(笑)。『ふたり』というタイトルは、僕が漫画を描く時に一番大切にしているキーワード。大家さんやお父さんのように、僕の大切な人との二人の思い出を描いた漫画なので、観る人にとっても、大切な人との二人の時間を思い出すきっかけになれば嬉しいですね」 『大家さんと僕』(新潮社)2017年「おかえりなさい」より 『マンガ ぼけ日和』(かんき出版)2023年「お金盗ったでしょう?」より ふたり 矢部太郎展 PLAY!MUSEUM 東京都立川市緑町3‐1 GREEN SPRINGS W3 2F 開催中~7月7日(日)10時~17時(土・日・祝日~18時、入場は閉館の30 分前まで) 会期中無休 一般1800円ほか TEL:042・518・625 ©Taro Yabe やべ・たろう 1977年生まれ、東京都出身。芸人、漫画家。’97年に「カラテカ」を結成。処女作『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。新刊『プレゼントでできている』(新潮社)も好評発売中。 ※『anan』2024年5月1日号より。写真・土佐麻理子 取材、文・山田貴美子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/546204/ Source: ananweb

  • 2024.04.01

限定のレアグッズも販売! 誕生55周年記念『セサミストリート』の企画展 | ananweb – マガジンハウス

1969年にアメリカ発の子供向けテレビ教育番組として制作された『セサミストリート』。ニューヨーク・マンハッタンにある架空の通りを舞台に、個性豊かなモンスターと様々な人間たちが繰り広げるこの番組は、子供たちに笑いと学びを届けている。放送開始以来、世界150以上の国と地域でオンエアされ、今では絵本やグッズ、新作アニメーションやYouTubeなども展開。現在でも各地に熱烈なファンを持つ長寿番組だ。 世界150か国以上で愛される長寿番組の世界観に浸る。 その誕生55周年を記念し、世界観と魅力を体感できる企画展「誕生55周年記念 Hello! セサミストリートの世界展」が始まった。会場では、放送開始当時の映像から最新の映像はもちろん、実物のパペット、普段見ることができない舞台裏や貴重な資料などを数多く織り込んだ体感型展覧会となっている。 展示は7つのテーマで構成。例えば、資料や写真、映像で歴史を振り返る「セサミストリートを識る」、番組音楽に注目した「セサミストリートを聴く」、パペットを動かす舞台裏にフォーカスを当てた「セサミストリートの裏側を覗く」のコーナーなど。なかでも注目は、日本初展示となるクッキーモンスターのキッチンカー。これはモンスターお料理隊であるクッキーモンスター&ゴンガーのパペットを乗せたキッチンカーが、特撮用街並み映像の中に登場した立体展示で、本展のアイコンともいえる存在だ。また、住民たちを名場面とともに紹介する「セサミストリートに出会う」では、生後13か月の赤ちゃん時代のかわいいベビーエルモのパペットも日本初展示。現在は3歳半とプロフィールで紹介されているから、これを見れば、キャラクターも番組の中で成長を遂げていることがよくわかるはずだ。 セサミストリートの住人たちは容姿も性格も様々。例えば2017年から番組に新キャラクターとして登場したジュリア。自閉症の特性がある女の子だ。彼女のパペットを操演しているのが、実際に自閉症の息子がいるステイシー・ゴードンであることも話題になった。番組は、様々なバックグラウンドを抱えたキャラクターたちが共存することで、人間とはそれぞれに違っていること、多様な人々からなる社会で、お互いを尊重して生きることの大切さを子供に伝えている。この番組がこれほど長く愛されているのは、そのメッセージが子供だけではなく、実は大人の心にも深く刺さるからかもしれない。 クッキーモンスターのキッチンカー 体感型展覧会の主役ともいえるのがクッキーモンスターのキッチンカー。これを受けてショップでは日本初となるオフィシャル移動物販車「セサミストリートトラック」にてオリジナルグッズも販売。 「セサミストリートを識る」のコーナーでは、キャラクターのスケッチやスタンプ、当時のプロダクトなど様々な資料や写真、映像からセサミストリートの歴史を振り返る。左・スタンプ(切手)原版 1999年右・ジュリアをデザインしたディレクターのクッキーモンスターのスケッチ/Louis Henry Mitchell キャラクタードローイング複製画 看板キャラクター・エルモ。彼は当初は名前もない小さなモンスターだったが、’85年ごろから個性を発揮し始め今では世界的に愛される存在に。クッキーモンスターやビッグバードなど世代を超えてファンが多いキャラの往年の姿にも注目して。 会場内ではエルモやオスカーのぬいぐるみやマグカップをはじめ、多彩なキャラクターのグッズも販売。本展でしか入手できないレアアイテムも揃っているので要チェック。Sesame Street(R) and associated characters, trademarks and design elements are owned and licensed by Sesame Workshop. ©2024 Sesame Workshop. All rights reserved. Season15 1983‐1984年 制作スタッフ 1969年当時の番組制作者たちはテレビを通して子供を教育するアイデアを思いつく。これまでに1000以上の研究で番組が子供の識字率や計算能力、自己表現などに良い効果を与えた事実が示されている。 誕生55周年記念 Hello! セサミストリートの世界展 松屋銀座 8階イベントスクエア 東京都中央区銀座3‐6‐1 開催中~4月8日(月)11時~20時(3/31、4/7は~19時30分、4/8は~17時。入場は閉場の30分前まで) 会期中無休 一般 1800円ほか 松屋銀座 TEL:03・3567・1211(大代表) ※『anan』2024年4月3日号より。文・山田貴美子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/540566/ Source: ananweb

  • 2024.02.28

巨匠画家マティス、本邦初公開となる大作も! 晩年の「切り紙絵」に注目した展覧会 | ananweb – マガジンハウス

「色彩の魔術師」と呼ばれた20世紀の巨匠画家アンリ・マティス。彼は20世紀初頭、原色を多用した強烈な色彩による絵画様式“フォーヴィスム(野獣派)”を生み出し、生涯にわたって色とフォルムによる造形美を模索し続けた。1941年、腹部のガンのため車椅子生活となり、絵が描けなくなった彼が精力的に取り組んだのが「切り紙絵」だった。 巨匠マティスの愛した手法「切り紙絵」にフォーカス。 本展「マティス 自由なフォルム」はマティスが晩年に取り組んだ切り紙絵に焦点を合わせた初の展覧会。切り紙絵作品を表紙にしたアートブック『ジャズ』や、《ブルー・ヌードIV》や《クレオールの踊り子》といった切り紙絵の代表作やテキスタイル、晩年に取り組んだヴァンスのロザリオ礼拝堂にまつわる作品など、約150点が一堂に集結。 なかでも見逃せないのは、本邦初公開となる切り紙絵の大作《花と果実》。縦4m・横8mに及ぶ大作だ。これは、もともと別荘の中庭に設置する巨大な装飾として考案されたものだったが、現在ではニース市マティス美術館のメインホールを飾る作品だ。それが本展のために修復を経て初来日したが、巨大かつ華やかな独特の存在感で、会場では早くも本展の象徴として親しまれている。 同様に注目してほしい作品が、マティスの集大成・南仏ヴァンスのロザリオ礼拝堂。この礼拝堂は壁面装飾がきわめてシンプルで、生命の木をモチーフにしたステンドグラスと、聖ドミニクスなどが描かれた3つの陶板壁画で構成されている。彼はこの礼拝堂の内装から典礼用の調度品、祭服に至るまで、ほとんどのデザインを自分で手掛けた。会場では、ステンドグラスや祭服など、ロザリオ礼拝堂にまつわる作品や資料を展示するほか、ステンドグラスの光の移り変わりを体感できるような、礼拝堂の実物大の体感型のインスタレーションも設置されている。 自然が大好きで、様々な花や観葉植物に囲まれた、まるで植物園のようなアトリエで制作を行っていたマティス。鳥も好きで、多い時には300羽も飼っていたこともあったとか。そんな環境が彼の創作の原点。自然のモチーフから生み出された作品は植物や動物を極限まで抽象化したフォルムと、そこからインスピレーションを得た極彩色が特徴。純度を極めた色づかいは、現代のグラフィックアートに繋がる。だからこそ時代を経ても褪せない美しさがある。 「切り紙絵では色彩の中でデッサンすることができる」という言葉を残しているマティス。生涯、色彩を愉しみフォルムと戯れた、豊かな人生をも垣間見られる内容だ。 アンリ・マティス《花と果実》1952‐1953年 切り紙絵 410×870cm ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse Photo:Francois Fernandez アンリ・マティス《ブルー・ヌード IV》1952年切り紙絵 103×74cm オルセー美術館蔵(ニース市マティス美術館寄託) ©Succession H. Matisse Photo:Francois Fernandez 画家として歩み始めた初期の作品。 第1・2章では法律事務所で働いていたマティスが画家に転身した初期の作品も紹介。その後、様々な画家たちとの出会いから彼は色彩に傾倒してゆく。 アンリ・マティス《マティス夫人の肖像》1905年 油彩/カンヴァス 46×38cm ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse Photo:Francois Fernandez アンリ・マティス《ロカイユ様式の肘掛け椅子》1946年 油彩/カンヴァス 92×73cm ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse Photo:Francois Fernandez 大型作品への取り組み。 1920年以降は絵画に限らずテキスタイルや衣装、壁面装飾など大型作品も手掛けたマティス。第3章では記念碑ともいえる大型作品誕生の原点を探る。 アンリ・マティス《パペーテ - タヒチ》1935年油彩/カンヴァス 225×172cm ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse Photo:Francois Fernandez ロザリオ礼拝堂に向けられた熱意。 晩年のマティスが4年もの歳月をかけ完成させた礼拝堂は、建築家やガラス、陶器職人などたくさんの人が関わって生まれた最高傑作。 アンリ・マティス《ステンドグラス、「生命の木」のための習作》1950年 ステンドグラス 62.3×91.5×2cm ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse Photo:Francois Fernandez ヴァンスのロザリオ礼拝堂(内観) ©Succession H. Matisse Photo:Francois Fernandez マティス 自由なフォルム 国立新美術館 企画展示室 2E 東京都港区六本木7‐22‐2 開催中~5月27日(月)10時~18時(金・土曜~20時、入場は閉館の30分前まで) 火曜休(4/30は開館) 一般2200円ほか TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル) ※『anan』2024年2月28日号より。文・山田貴美子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/534088/ Source: ananweb

  • 2023.12.12

もふもふした子犬の姿に思わずきゅん! 若冲や土牛の作品も登場、癒やしの日本美術展 | ananweb – マガジンハウス

大胆な構図と斬新な作風で有名な日本絵画の鬼才・伊藤若冲(じゃくちゅう)や長沢芦雪(ろせつ)。そんな従来のイメージを一新する、ゆるくてユーモアあふれる作品を紹介しているのが、特別展『癒やしの日本美術―ほのぼの若冲・なごみの土牛―』。まるでゆるキャラのような若冲の《布袋図》や、もふもふの描写がたまらない芦雪の《菊花子犬図》など、希少な個人所有品も数多く登場する。 その可愛らしさに、きゅんとする。思わず笑みがこぼれる日本美術。 また奥村土牛(とぎゅう)の《兎》や竹内栖鳳(せいほう)の《鴨雛》といった、ふわふわの動物画、愛らしい子供画など、キュートなモチーフが集まっていて、日本画初心者も気軽に楽しめるはずだ。 伊藤若冲《伏見人形図》1799(寛政11)年 紙本・彩色 山種美術館伏見稲荷の土産物として知られる素朴な伏見人形は、若冲が長年好んで取り上げた絵のモチーフ。 伊藤若冲《布袋図》18世紀(江戸時代) 紙本・墨画 個人蔵特にふくよかな姿の布袋さん。吉祥画題でおなじみの、このテーマの作品も数多く残っている。 長沢芦雪《菊花子犬図》18世紀(江戸時代) 絹本・彩色 個人蔵子犬の絵でも有名な円山応挙の弟子・長沢芦雪。彼の犬の絵は師匠譲りで写実的だったが、次第にゆるくなり、キュートなフォルムの子犬画は江戸時代にも大ブレイクした。 特別展『癒やしの日本美術―ほのぼの若冲・なごみの土牛―』 山種美術館 東京都渋谷区広尾3‐12‐36 開催中~2024年2月4日(日)10時~17時(入場は閉館30分前まで) 月曜(1/8は開館)、12/29~1/2、1/9休 一般1400円ほか TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル) ※『anan』2023年12月13日号より。文・山田貴美子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/520438/ Source: ananweb

  • 2023.11.21

色褪せることのない名作を数多く残した、伝説のデザイナー・倉俣史朗に迫る展覧会 | ananweb – マガジンハウス

1960年代以降のデザイン界で、世界的に高い評価を受けたデザイナー倉俣史朗。彼は当時、一世を風靡した飲食店や服飾店の店舗デザインを手がけ、独創的な家具も発表。その作品は日本以上に、ヨーロッパで広く注目された。しかしキャリアの絶頂期だった’91年に、56歳の若さで、心不全により突如亡くなってしまう。その早すぎる死のため「伝説のデザイナー」とも呼ばれた彼の、作品と人物像に迫る展覧会が始まる。 倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙 倉俣は、父の勤務先である本郷の理化学研究所内の社宅で9歳まで育つ。当時の理研は研究棟から工場、テニスコートも完備されたひとつの街で、建物内には当時珍しかった洋式トイレや大理石のエントランスホールがあり、実験用のガラス瓶や金属も身近だった。倉俣と聞いてアクリルやガラスなどの素材を思い浮かべる人も多いが、それには幼少時代が大きく影響していると考えられる。 本展では独立前のアパレル会社「三愛」時代の仕事に始まり、後の年代を4パートに区切り、彼の仕事をテーマごとに紹介する。なかには「倉俣史朗の私空間」として、愛蔵の書籍やレコードなども展示。エピローグでは、イメージ・スケッチとあまり公開されてこなかった夢日記や言葉をまとめて紹介し、倉俣史朗のデザインとその神髄を検証する。 デザイン黎明期の日本にあって、なぜ倉俣は色褪せることのない名作をこれほど数多く残せたのだろうか。本展を見れば、その頭の中も覗くことができるかもしれない。 倉俣史朗 イメージスケッチ「ミス・ブランチ」 1980年代 クラマタデザイン事務所蔵 ©Kuramata Design Office 倉俣史朗 スケッチブック「言葉 夢 記憶」より 1980年代 クラマタデザイン事務所蔵 ©Kuramata Design Office 貴重なスケッチ画も。上は〈ミス・ブランチ〉構想中のスケッチ。下は夢の記憶が記されたもの。ポエティックな文章も魅力的。 倉俣史朗《引出しの家具》1967年 富山県美術館蔵 ©Kuramata Design Office椅子か収納かを問う「引出しの家具」シリーズの1作目。 倉俣史朗 ショップ「スパイラル」 1990年 撮影:淺川敏 ©Kuramata Design Office六本木のAXISビルにあったインテリア店もこの内装で有名に。 倉俣史朗《ミス・ブランチ》1988年 富山県美術館蔵 撮影:柳原良平 ©Kuramata Design Office映画『欲望という名の電車』のミス・ブランチへのオマージュとして作った倉俣の代表作。 倉俣史朗のデザイン―記憶のなかの小宇宙 世田谷美術館 1階展示室 東京都世田谷区砧公園1‐2 11月18日(土)~2024年1月28日(日)10時~18時(入場は閉館の30分前まで) 月曜(1/8は開館)12/29~1/3、1/9休 一般1200円ほか TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル) ※『anan』2023年11月22日号より。文・山田貴美子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/516786/ Source: ananweb

  • 2023.09.05

101歳の現役染色家・柚木沙弥郎の作品展。創作に影響を与えた“仲間”にもフォーカス | ananweb – マガジンハウス

今年で101歳を迎える今もなお、染色家として多くの作品を作り続ける柚木沙弥郎(ゆのき・さみろう)。染色家、工芸家、絵本作家とマルチに活躍し続けてきた彼の作品は、どれも愛らしい。そんな彼の創作を語る上で欠かせないのが、同時代を共に歩んできた仲間たちの存在。『柚木沙弥郎と仲間たち』では、柚木の染色作品を中心に、一緒に切磋琢磨してきた陶芸家・武内晴二郎や舩木研兒(ふなき・けんじ)、工芸家・鈴木繁男らの作品も展示。柚木の師である染色家・芹沢銈介(けいすけ)を中心に結成された染色家の団体「萌木会」の仲間たちも取り上げる。 仲間がいたから極められた、作る楽しみと生きる喜び。 東京帝国大学(現・東京大学)で美術史を学んだ柚木は、倉敷にある大原美術館の売店で目にした芹沢の型染カレンダーに感銘を受け、染色に関心を持つように。日本民藝館の創設者・柳宗悦(むねよし)の紹介で芹沢に弟子入りした柚木は、彼に勧められ静岡県由比の染物屋・正雪紺屋(しょうせつこうや)で住み込みの修業を始める。厳しい修業時代にも交流を重ねたのが陶芸家の武内だ。彼とは初対面の日から急速に親しくなり、生涯の友に。同じく陶芸家の舩木は島根県松江市にある布志名(ふじな)焼舩木窯の5代目で、柚木と親交を深めたひとり。英国の伝統的な技法に倣った舩木の動物文様の作品は、スポイトを使って描かれることでも有名。また柳宗悦唯一の内弟子であった工芸家の鈴木は、柚木に民藝の本意を伝え、それは柚木の創作に大きな影響を与えた。 誰にとっても想いを分かち合える仲間の存在は大きい。柚木はその後、師匠が主宰した「萌木会」の活動にも精力的に取り組むように。萌木会が制作した浴衣は「萌木浴衣」と呼ばれ広く支持を集めた。芹沢は当時人気を博していたテキスタイルデザインに負けるな、とメンバーを叱咤激励したとか。彼らはそんな固い結束力のチームでもあった。 そんな彼らが切磋琢磨して作り上げた作品は、どれも創作を楽しんでいる様子が伝わる名作ばかり。改めて「成長する人の陰に、いいライバルあり」は事実だと納得させられる。 切磋琢磨した仲間たちとの日々。 芹沢に弟子入りする契機となった型染カレンダーに、武内晴二郎や舩木研兒、鈴木繁男の作品も紹介。民藝作家の個性にも注目したい。 《注染水玉文布》柚木沙弥郎 1950年代 510.0×91.0cm(部分)日本民藝館蔵 《黄釉鳥文鉢》舩木研兒 1952年頃 11.5×40.0cm 日本民藝館蔵 生活を彩る柚木作品。 量産化できる注染という技法で作られた柚木の布は、洋服や帯だけでなく服地やカーテン、タペストリーなど様々な用途に用いられた。 写真右《型染爪文帯地》柚木沙弥郎 1991年(部分)日本民藝館蔵 写真左《型染飾布「メキシコ人物」》柚木沙弥郎 1970年代(部分)日本民藝館蔵 協業で広まる、萌木会の活動。 師匠の芹沢が主宰した萌木会は個人ではできない幅広い仕事の場。カレンダーやカードなど布以外の制作も、萌木会として行った。 《沖縄笠団扇文着物》芹沢銈介 1960年頃 日本民藝館蔵 柚木沙弥郎と仲間たち 日本橋髙島屋S.C.本館8階ホール 東京都中央区日本橋2‐4‐1 9月6日(水)~25日(月)10時30分~19時30分(最終日は~18時。入場は閉場の30分前まで) 会期中無休 一般1200円ほか TEL:03・3211・4111(代) 柚木沙弥郎 1922年東京生まれ。染色家。型染による染布、染絵などの作品を制作し、国内外で数多くの個展を開催。絵本の仕事や立体作品、グラフィックの仕事にも取り組む。女子美術大学名誉教授。2021毎日デザイン賞受賞。 ※『anan』2023年9月6日号より。文・山田貴美子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/502819/ Source: ananweb