岩澤高雄

  • 2024.03.17

ヤーレンズ「昨日今日に出てきたけど、絶対に昨日今日に始めたわけではない」 | ananweb – マガジンハウス

昨年の『M‐1グランプリ』で準優勝し、今、世間の支持を集めるヤーレンズ。自分たちの考えるコンビの魅力や、芸人の世界における「魅了される人」などについて、話を伺いました。 ちゃんと積み重ねてきた魅力があるコンビです。 左・楢原真樹さん、右・出井隼之介さん。 ――まず、お二人が魅力的だと思う芸人さんを教えてください。 楢原真樹さん(以下、楢原):『ONE PIECE』のボア・ハンコックですね。 出井隼之介さん(以下、出井):たしかに魅力はあるけど、芸人じゃないですよ。 楢原:身長が1m90cmくらいある海外のモデルさんみたいなスタイルで。 出井:あの、ちゃんと答えてもらっていいですか? でも、確実に言えるのは、芸人は笑いを取らなきゃいけないということ。そして、芸人に愛される人は、キャリアや笑いの種類、笑いに向き合う姿勢など、表だけじゃなく裏の部分も含めてリスペクトを集めている人だと思う。ハリウッドザコシショウさんとかがそうですよ。 楢原:後輩のことを考えてだろうけど、賞レースの審査員とか、いろいろな仕事もされていて。みんなに好かれている自負があるからこそできることだと思うけど、そこもカッコいいですよ。 出井:よく見たら男前だし、体型も赤ちゃんみたいだよね。 楢原:ギャップがチャームになってる。でも、若い世代の芸人が尊敬するのはどんな人なのか、聞いてみたいよね。ネタが面白いという1点で評価をする印象があって、僕たちの世代とは少し違う気がするんだけど、何が変わったんだろう。時代? それとも政権? 出井:政権は変わりましたけど、またすぐ戻りましたからね。 楢原:じゃあ、年号? ――テレビに引っ張りだこの自分たちの今の状況をどう見ていますか。 楢原:『M‐1』の影響はやっぱりすごいと思いましたね。 出井:ただ、何か1つ世に出るきっかけがあれば忙しくなることはわかっていたし、そう信じていたからやっていたという気持ちもあります。ようやく思っていた感じになってきたのかな。 ――ご自身が思うヤーレンズの魅力はどんなところでしょうか。 出井:“積み重ねてきた魅力”だと思います。自分たちで言うのはあれですけど、『M‐1』でやった漫才は、漫才歴2~3年ではできないものですから。年齢の説得力も含めて、漫才や風貌、話す言葉から、ちゃんと積み重ねてきたコンビだと伝わっているのかなと。昨日今日に出てきたけど、絶対に昨日今日に始めたわけではないところが、興味を引いているように思います。 楢原:マイクを1本立てて、「何か面白いことを1時間やれ」と言われた時に、一番満足度が高いものができるコンビだと思っていますから。だからこそ、『M‐1』のチャンピオンになって箔を付けたいとも思っているんです。 ――これまでにコンビとして潮目が変わったと感じた瞬間はありましたか? 楢原:えー、なんでしょう。潮のことは漁師が知ってるんじゃないですか? 出井:金比羅丸船長のこと? 楢原:それは長野(誠)さんでしょ? 『SASUKE』の人でしょ? 毛ガニの人でしょ? 出井:元祖完全制覇の元毛ガニ漁師、秋山(和彦)さんとごっちゃになってますね。って、『SASUKE』の話じゃなくて潮目の話をしましょうよ。でも、コロナが一番大変だった時、それまで死ぬほどやっていたライブがなくなって、二人で公園に集まって喋っていたんです。普段はそんなに洗いざらい喋らないんですけど、不満も含めて本音を言い合い、相互理解が深まったことで関係性が良くなって、それが漫才に生きるようになったんです。そうして自分たちのキャリアや年齢、心境などの全部が2022年にバチッと重なった感じがあって、それから1段分厚く、ウケるようになりましたね。 ――人を魅了することに関して、テレビと劇場での違いはありますか? 楢原:どちらがいいとか悪いとかではなく、単純に笑いを取っている人数でいうと、テレビの収録スタジオにいる人より、劇場の人の方が多いなという感覚です。僕はやっぱり、笑いを取るために芸人をやっているので。 出井:劇場はウケないと話にならないですしね。難しいけどやりがいがあるし、それをやってこそ芸人というか。テレビがうまい人は凄腕そば職人と同じで、違うジャンルのリスペクトしている人、という感じです。 ――お互いの魅力を教えてください。 出井:真面目さと、継続する力が高いところですね。Tポイントが2万ポイント貯まっているし、やっていないゲームもログインボーナスだけはもらい続けていますから。でも、芸人にもかかわらず、笑いや“面白い”の判断基準が、自分ではなく圧倒的に外にあるところは変わっている人だと思う。その割にプライドや気難しさもあって、ややこしいんですよね。俺の魅力は? 楢原:ねぇ! 出井:いやいや、僕に憧れて生きているでしょ? 1秒でも長く僕といたい人だし、実際、いつもべったりです。 楢原:あー、うぬぼれがすごい! 常にポジティブなところが素晴らしい! 自己肯定感が高くて羨ましいな~。 出井:そう、僕は自己肯定感は高いけど、自己評価は普通くらい。でも相方は、自己評価は高いのに自己肯定感が低く、外からの評価がないとストレスに苦しみ、自分のことも嫌いになるんです。僕のことは好きっていうのもおこがましいくらい憧れてるはず。いいな、俺も憧れの人と漫才したいな~。 楢原:お笑いのことや適性を教えたのは僕ですよ? しかし、よく僕みたいなお笑いの化け物についてきたな! 出井:お前こそ、よく俺みたいなNo.1ツッコミをつかまえたよ! ――最後に、同じ企画に登場するモグライダーさんの魅力を教えてください。 楢原:僕は相方に対して“こういうことを言ってくるだろうな”という信頼があるけど、芝さんはともしげさんに対して、そういう信頼はないというか。 出井:“予想の範囲外のことをしてくるぞ”という信頼だからね。 楢原:ともしげさんも、実は自分で笑いを取ろうとしていて。「芝くんに感謝してる」と言いながら、芝さんの活躍を見て歯ぎしりをするような人間味があるんです。お互い何が起こるかわからないと思っているはず。 出井:原始的な漫才の形は、バカな方が大間違いを起こし、もう一人が訂正してツッコむというものですけど、モグライダーはまさに漫才の保守本流だと思います。芝さんは、「俺たちのことを誰も知らない漁村で漫才をやってもウケたいよ」と言っていたけど、モグライダーは可能だと思います。芝さんが思い描くレールに乗った時に取る笑いを何度も目の当たりにしていますが、どんだけウケんねん! って思うくらい、本当にすごいですから。 ヤーレンズ ボケとネタ作り担当・楢原真樹と、ツッコミ担当・出井隼之介のコンビ。2011年に結成、2度の改名を経てヤーレンズに。共にサザンオールスターズの大ファン。『ラヴィット!』(TBS系)不定期出演。『ヤーレンズのラジオの虎』が毎週木曜20時にGERAで配信中。 ※『anan』2024年3月20日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE) 取材、文・重信 綾 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/537866/ Source: ananweb

  • 2024.02.20

ねぐせ。「少女漫画を読んでいるような感覚に」 ほぼ恋愛ソングの1stフルアルバム | ananweb – マガジンハウス

ねぐせ。の1stフルアルバム『ファンタジーな祝日を!!!』は失恋ソングとしてTikTok等でロングヒットした「日常革命」を含め、ほとんどが恋愛ソングだ。 みんな恋しているので、恋愛ソングが一番共感できる。 「みんな恋しているので、恋愛ソングが一番共感できる。作っていて楽しいですし、悲しい恋愛だったとしても、曲に昇華しないとむずむずしてくるんです(笑)。僕は恋愛体質ですし、人に情が湧きやすくて、仲良くなればその子を題材に曲が書けますし、バンドメンバーのことを書いた曲もあります」(りょたち・Gt&Vo) 「特に『愛してみてよ減るもんじゃないし』に共感します。“みんなもっと自由な恋愛をしようよ”って思いました」(なおと・Dr) 「『猫背と癖』は歌詞だけ読むと照れちゃうんですけど、りょたちの優しい歌声で歌われるとすごくほんわかして、少女漫画を読んでいるような感覚になります」(なおや・Gt) 「なよなよしている歌詞だよね(笑)。それが俺っぽい」(りょたち) 「〈染み付いた癖と服の汚れをとるのには君かコインランドリーか〉って改めて見るとすごい歌詞だな。この時期のりょたちは特になよなよしてたよね(笑)。恋愛に対して自信がなくて不安がってた」(なおと) ねぐせ。史上一番テンポが速い新曲の「あの娘の胸に飛びこんで!」はクラスのマドンナへの憧れが綴られている。初めてフィクションに挑戦した曲だ。 「ほぼ男子校みたいな高校に通っていたので、“こういう青春したかったな”と思って書きました」(りょたち) 「僕は男子校出身なので、すごく共感しますね」(しょうと・Ba) 「屋上で告白してみたかった」(りょたち) 「ライブでは音源よりテンポを速くして演奏しています」(なおと) 「ライブ中はアドレナリンが出ているので大丈夫だけど、リハはすごく疲れる(笑)」(しょうと) 「なおとはライブでこの曲を演奏した後、袖に行ってそのまま倒れこんでたよな(笑)」(なおや) 結成から4年、6月には初の日本武道館単独公演を開催する。 「いろいろな場所でライブをして身につけてきたものがあるので、武道館だからといってねぐせ。らしさを変えず、レベルアップした姿を見せたいです。観に来てくれた人と一緒になって楽しみたい」(なおと) 「僕たちは張り切りすぎずにいつも通りやらないとダメだと思うんです。僕たちが硬かったらお客さんも硬くなっちゃう」(しょうと) 「殻を破れたらこっちのもんだよね」(りょたち) 1stフルアルバム『ファンタジーな祝日を!!!』。TikTok9億回再生の「グッドな音楽を」、MV1500万再生超の「日常革命」など全10曲。【通常盤(CD)】¥3,300 【初回生産限定盤(CD+DVD)】¥5,500(Ki/oon Music) 左上から時計回りに、なおや(Gt)、しょうと(Ba)、りょたち(Gt&Vo)、なおと(Dr)。2020年、名古屋で結成。’22年、「グッドな音楽を」が「TikTok流行語大賞2022」30選にノミネート。6月13日には、初の日本武道館単独公演を開催予定。 ※『anan』2024年2月21日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE) インタビュー、文・小松香里 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/532737/ Source: ananweb

  • 2024.01.16

2024年の福男芸人・リリー「10年以上前から続けています」 運を掴むためのルーティーン | ananweb – マガジンハウス

“運も実力のうち”といわれるお笑い界、今年最も引きの強い“福男”は誰!? TBS特番『お笑いアカデミー賞』の“とにかく芸人としての運のみを競う”戦いに勝利した強運の持ち主が、本誌登場です! “持ってる”芸人が残る運頼みのガチ勝負。 ランダムで落ちてくる金ダライ、予測不能なダイビングマシン、福引き…。運のみが試される「福男ゲーム」により「最優秀福男芸人」を選ぶ企画が、年イチのTBS特番『お笑いアカデミー賞』内で開催! ’21年から始まったこの企画、過去の放送で決勝戦に勝ち残ったのはオードリー・春日俊彰、パンサー・尾形貴弘、コットン・西村真二、ニューヨーク・屋敷裕政…と、不思議と人気者ばかり。この「福男ゲーム」の結果から、今後さらに飛躍する芸人が分かるというウワサも…!? すでに人気者の芸人たちの中でも、さらに強い運の持ち主が「福男」ということで、その引きの強さを目撃しに、収録現場を取材しました! START…残り56人 やす子、ヒコロヒー、囲碁将棋、鬼越トマホークなど、参加した芸人たちは総勢56人。一同、名前の入ったお揃いの緑ジャージに着替え、体を張った運試しに挑戦することに。ちなみに、過去の第1回、第2回ともに、パンサー・尾形が「最優秀福男芸人賞」をもぎ取り、2連覇中と絶好調! 今回も存在感を示すか!? スタジオ入り競争…56人55人 「収録開始は5分後」と事前に伝えられ、スタジオ外の打ち合わせホールで待つ芸人たち…でしたが、ここからすでに運試しがスタート。「収録スタジオに入るのが一番遅いような、気の抜けた人は参加資格なし」とのことで、余裕の表情で最後にやって来た見取り図・盛山が最初の脱落者に! 金ダライ宝釣り…55人10人 次なる種目には56人分の金ダライがずら~り。ダウンタウンがどれか一つの金ダライに繋がった紐を引くと、金ダライが落下。頭に当たった芸人は次に進める。ここで勝ち抜けるのはなんと10人。「“持ってない”芸人には、なぜか落ちてこない」というジンクスがまことしやかに囁かれているとか。 金ダライが当たった“持ってる”10人は、アインシュタイン・河井、NON STYLE・井上、ジャングルポケット・太田、ちゃんぴおんず・大崎、パンサー・菅、ヒコロヒー、マヂカルラブリー・村上、見取り図・リリー、宮下草薙・宮下、やす子。 ラッキーダイビングマシン…10人2人 次は残った10人が2組に分かれ、ダイビングマシンに挑戦。ダウンタウンがボタンを1つ選び、押すと1人だけ落下防止の装置が外れ、滑り落ちたら“持ってる”人。傾斜の角度がグングン上がり、体重100kgを超えるマヂカルラブリー・村上のハーネスがちぎれそう…。 福引き3本先取…2人1人 勝ち進んだのはアインシュタイン・河井と見取り図・リリー! 一方の鼻フックが吊り上がるくじなどの福引きを、3本先に引き当てた方が「福男」に! 熱々ローション風船…尾形vsリリー 福引き3本先取の勝者・リリーが福男…と思いきや、2年連続福男のパンサー・尾形からの「待った」が入る! 最終決戦の舞台は熱々の青いローション入り風船。風船が割れ、ローションを浴びた方が勝ちということで、見事、最も運のいい芸人に輝いたのは…!? 運だけでどんどん勝ち上がる姿に注目してほしい。’24年真の福男芸人 見取り図・リリー ――「最優秀福男芸人賞」受賞、おめでとうございます! リリー:ありがとうございます。 盛山:ありがとうございます。 リリー:おい!(笑) ――盛山さんは、最初に脱落されて…。 盛山:コンビの片方が福男で、もう片方が最初に脱落するっていう。2022年のコットンもそうでしたね。 リリー:確かに。すごい奇跡。 ――早速、福男になられたリリーさんの今年の抱負を教えてください。 リリー:ダウンタウンさんの番組で福男になったんで、今年は“ポスダン”ですね。ポスト・ダウンタウンになります。 盛山:言いすぎや! リリー:強運なんで。お笑い界も芸能界も、僕がどんどん運で勝ち上がっていく姿に注目してほしいですね。 盛山:運のみで。なんかダサいなあ…。 リリー:運は大事ですから。 ――強運の持ち主ということで、普段からゲン担ぎしていることは? リリー:毎朝、起きたら太陽を見て、今日もよろしくお願いします、平和に過ごせますようにって、心の中で唱えてますね。もう10年以上前から続けてます。 盛山:ルーティン怖いな! ……え、大丈夫? なんか辛いことある? ――そんなモーニングルーティンから生み出されるリリーさんの強運にあやかる方法はありますか? 会える場所とか…。 盛山:リリーと会える開運スポットね。 リリー:それこそライブとか劇場なら、僕らといつでも会えますので、来ていただきたいですね。あとは東京の麻布十番らへんをうろちょろしてるんで…。 盛山:ほんまにしてるやつやん! 見取り図 リリー、盛山晋太郎からなるお笑いコンビ。『ジョンソン』(TBS系、月曜21:00~22:00)、『ラヴィット!』(TBS系、月~金曜8:00~9:55)の水曜レギュラーのほか、『スタンド・バイ・見取り図』(TBSラジオ、日曜23:00~23:30)などで活動中。 『お笑いアカデミー賞』 ’21年から始まった年に一度の“笑いの祭典”。総合司会を務めるダウンタウンの二人が、各部門において、その年最もお笑い界を盛り上げた芸人の功績を讃える。表彰される部門は「最優秀多忙賞」「最優秀推され芸人賞」「最優秀高額買い物賞」など。 ※『anan』2024年1月17日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE) 構成、文・間野加菜代 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/526287/ Source: ananweb

  • 2023.10.26

浦沢直樹「子どもたちが目指したいと思う未来を提示するのが、漫画家の役目」 『PLUTO』への想い | ananweb – マガジンハウス

幼少期に手塚治虫の漫画を読みふけったことが漫画家になる原点だったという浦沢直樹さん。手塚漫画をリメイクした『PLUTO』に込めた想いに迫ります。 子どもたちに希望のある未来を示すのが我々の役目だと思う。 Netflixオリジナルとして制作されたアニメ『PLUTO』は、『鉄腕アトム』に収められた「地上最大のロボット」というエピソードを下敷きにして浦沢直樹さんが新しいストーリーに仕上げた一作。誰もが知る手塚治虫さんの代表作をリメイクするにあたっては、少し意外な経緯があったのだとか。 「手塚先生の『鉄腕アトム』では2003年4月7日にアトムが誕生するんです。それで現実にその日が迫った時期に、手塚プロダクションから漫画界を挙げてアトムの誕生を祝うような企画を考えたいというお話をいただいて。そこで僕が勢い余って大それたことを言っちゃったんですよ。『手塚作品をオマージュしたイラストを描いたりするのもいいけど、「地上最大のロボット」のリメイクに真正面から挑むような気骨のある漫画家はいないもんかね』って。そしたら周りの編集者に『そんなの自分がやればいいじゃん』ってツッコまれてしまったんです。いやいやいや…と思って。僕は5歳のころからこの作品とともに生きてきましたから、ものすごいものを背負い込んでしまったなと(笑)」 実際に手塚プロダクションからGOサインが出た際には「プレッシャーで全身に蕁麻疹が出た」と当時を振り返った。「地上最大のロボット」は浦沢さんにとってそれほど大きな存在だったのだ。 「生まれて初めてこんなに切ない話を読んだという感覚になったんですよね。子どものころにはっきり意味が理解できる物語って、いわゆる“正義と悪”の図式になっていて勧善懲悪なものが多い。でも『鉄腕アトム』は悪者として登場するキャラクターにも心があるし、敵に勝っても嬉しくない、戦いなんて無意味だと問いかけてくる。当時は『なんなんだこれは』と理解が追いつかなくて、なにか重いものを投げかけられた感覚だけがあった。でもわからなかったからこそ、人生を懸けて追いかけていくものになったんです」 リメイクが発表されると、世間からは「なんで私が『地上最大のロボット』を一番好きだと知ってるんですか?」というリアクションをもらうこともあったという。 「そこで初めて、この物語を愛している人がたくさんいることに気づきました。当時はSNSのようなつながりがありませんでしたから、みんながひとりでこの作品への想いを温めていたんですね」 『鉄腕アトム』の連載開始からおよそ70年が経つ現在もそうして読み継がれていることについて、「おそらく、手塚作品はわかりやすい勧善懲悪ではないぶん、難しいんですよ。でもだからこそタイムレスな魅力があるんです」と語る浦沢さん。そこには革新的な漫画表現に加え、人間の愚かさや争うことの虚しさを一貫して描いてきた手塚作品の強度がうかがえる。 「リメイクするうえでは、『鉄腕アトム』は素晴らしかったと単に懐古主義に陥るんじゃなくて、この作品が問いかけたメッセージが今もなお有効であることを伝えたいと思っていました。もしかすると、1964年に『地上最大のロボット』が発表されて以降、2023年の今が一番、この物語の適合する時代かもしれない。それは逆に問題でもありますよね。反戦の願いを込めた話は、人類がいろんなことを克服して、いつか古びたものになるべきだから」 手塚さんが『鉄腕アトム』ならびに「地上最大のロボット」で描き、『PLUTO』へと受け継がれた想い。それは、いつの時代も人と人は争うけれど、そこに根本的な解決はないということ。ならば、人の残酷さや憎しみを持つ心はどのように行き場所を見つけるのか、というもの。 「今の世界の都市の風景を見ると、私たちは手塚治虫が願いを込めて描いた未来像を一生懸命実現しようとしてる気もするんです。我々はそうした希望のようなものを描かないといけないと。子どもたちが目指したいと思う未来を提示するのが、漫画家の役目でもあるのだと思います」 浦沢さんがそうした大きなものを背負って『PLUTO』を作り上げていく作業は大変な面も多かったというが、全8巻の濃密な物語を読むと見事に浦沢さんの作風になっているのがわかる。しかし、企画がスタートした当初は原作の『鉄腕アトム』を踏襲した絵柄を提案したこともあったのだそう。 「やっぱり手塚先生の絵に自分が手を加えるなんてあり得ないと思っていたので、原作の権利を持つ手塚眞さん(手塚治虫さんの長男)に提案したプロットは、原作のアトムの絵のまんまだったんです。しかしそれに対して眞さんは『ぜひ浦沢さんの絵で描いてほしい』と言ってくれた。自分の絵で描き出すと、やっぱり自分の漫画になっていくんですよね」 “自分の漫画になる”というのはどういう感覚だったのだろう? 「もちろん骨子としての『地上最大のロボット』のストーリー展開は絶対に守らないといけないんだけど、決まったラストに向けてならどこまでも脇道に逸れていいという気持ちでいました。前半に登場するノース2号のエピソードなんかに関して言えば、改めて原作を読み返して『あれ? こんなに短かったっけ?』と思ったくらいで。子どものころに読んだ記憶のなかではもっとたくさんシーンがあったのに、見返してみたらないんですよ。要するに僕が勝手に妄想してたってことで。だから『PLUTO』は、コマとコマの間で自分が妄想していたことを全部入れてみたような作品なんです。5歳で初めて読んだときから自分の頭の中で作り上げられた行間をそのまま描いたって感じですよね」 浦沢さんはいつも、創作のある過程で「キャラクターが勝手に動き出す」瞬間を経験するのだという。浦沢作品に限らず1巻目と5巻目でキャラクターの顔が変化するような漫画もあるが、それは浦沢さんによれば「物語の中でキャラクターがどんどん未知のことを経験していくことで、育つから」なのだとか。 「描いてると、演技プランをどんどんキャラクターが言ってくるんです。『ここで泣きましょうか? 泣き方はこんな感じがいいんじゃないですか?』って。それに従って描いていくので、そうなってくると本当楽しいんですよ」 浦沢作品におけるキャラクターの「表情」はいつも繊細だが、勝手に動き出していたと考えると興味深い。今回のアニメでも、表情は注目ポイントのひとつ。 「漫画とは喜怒哀楽をシンプルに表現するものだと思われているかもしれませんが、僕はその間にある数え切れない表情を描こうとしてきたんですよね。実は『PLUTO』の主人公であるゲジヒトって、ドイツ語で“表情”を意味するんです。そんな名前を付けた当時の手塚先生はすごいという話なんですが(笑)。ロボットを人間に近づける際にも顔の動きはすごく大事な要素で、アトムのような高性能な人型ロボットは表情も人間に似せる必要がある。だからこの作品では、ロボットを描くときも人間を描くときと同じように感情の機微を表現しようとしました。なんともいえない表情をするのが人間らしい証しですからね」 完成したアニメを見た際には、原作者の性というべきか「脳が全部に反応しちゃって、まだ一気見できてないんです」と話す浦沢さん。「あそこまで動くとね、アニメではこうやるのか! とすごく感慨深いですよ」と興奮を露わにする。今の世に投げかけられる「地上最大のロボット」と『PLUTO』の物語は新しい視聴者にどう受け止められるだろうか。 「手塚先生は『鉄腕アトム』を通して、“AIは感情を理解できるのか”といったテーマも描いていて。それは今考えるとすごく先を行ってますよね。ただ、当時から技術の進歩に対してそんなに無邪気ではなくて、『大丈夫か?』という感覚で物事を見てる。僕も“進歩”って言葉は非常に怪しいと思っていて、視点を変えると退化していることもありうるわけですよね。目の前にある二次元の情報に近づきすぎるのではなく、時にはちょっと目を離して物事を対象化して見てみることも大事だと思う。もし今回のアニメを見てから漫画の『PLUTO』、手塚先生の『地上最大のロボット』へとさかのぼって見ていただけることがあれば、そうしたパースペクティブな視点を体感してもらえるのかなと思っています。現在から距離を置いて歴史の奥行きを知ることは、ものすごい刺激になると思うんですよね」 【手塚治虫】数々の名作を残し今も読み継がれる「漫画の神様」。 『鉄腕アトム』をはじめ、『ジャングル大帝』『火の鳥』『ブラック・ジャック』など今も世界中で多くの人に読み継がれている傑作を生み出し、「漫画の神様」とも呼ばれる存在。映画のような大胆なコマ割りや時間・空間の新しい表現を開拓し、漫画を芸術の域にまで押し上げた立役者でもある。“生命の尊厳”をテーマに掲げた作風を含め、後進にも多大な影響を及ぼしている。 【浦沢直樹】漫画界の第一線で幅広いジャンルを描き続ける天才。 1983年にデビューして以降、女子柔道を描いた『YAWARA!』や天才脳外科医を主人公に据えた『MONSTER』などの漫画を次々と発表。前者ではコメディタッチでスポーツと青春を描いた一方、後者では重厚な社会問題をテーマにサスペンスドラマを編み、こうした相反する作風を巧みに使い分けて多くの人を魅了してきた。長い時間軸で物語を展開するのも特徴のひとつ。 『PLUTO』 世界最高水準のロボットが次々に破壊される事件が発生し、刑事ロボットのゲジヒトやアトムも標的に。10月26日よりNetflixにて世界配信。©浦沢直樹/長崎尚志/手塚プロダクション ©浦沢直樹/長崎尚志/手塚プロダクション/「PLUTO」製作委員会 ※『anan』2023年10月4日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE) 取材、文・原 航平 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/507404/ Source: ananweb

  • 2023.10.03

CHAI「これが“CHAIの正解”と言える一枚」 新アルバムを全世界同時リリース | ananweb – マガジンハウス

CHAIが約2年ぶりとなるニューアルバム『CHAI』を全世界同時リリースした。去年の海外ツアー中に楽曲制作とレコーディングを行った今作は、音楽のジャンルを一言で言い表せないほど、実に多彩な楽曲が並んでいる。 「まさに今作はジャンルレスがテーマ。CHAIを始めた時からポップスを目指してきて、ついに理想の形になったの。しかも、ただのポップスじゃない。ちゃんとオリジナリティのあるポップスができて、これは“CHAIポップ”だと思った。集大成ではなくて、これが“CHAIの正解”と言える一枚」(マナ・Vo/Key) 正解というのは、具体的に楽曲のどんなところを指しているのか? 「CHAI結成前からニューウェーブが好きで、ESG、トーキング・ヘッズ、トム・トム・クラブ、ディーヴォとかに影響を受けてきた。でもニューウェーブの曲を作ろうと思えば思うほど、ポップスにはならなくて。逆にポップスを意識するとニューウェーブから離れていって、求めていた形にできなかったの。だけど『GAME』を作った時に、ニューウェーブの中のポップスができたんだよね」(マナ) 「『Driving22』を作りながら、マナと『これ、チャーリー・プースじゃない?』って盛り上がったの。『この雰囲気の音を、いま日本人の女性で出している人はいないよね』と言い合ったぐらい、とにかく自信がある。あとは『PARA PARA』のように、どこかキラッとして、ポップで分かりやすくて、ニューウェーブっぽくて、ファンクでR&Bで…みたいなのってダサくなりがちなんだけど、これはダサさのかけらもない。マナが言うように、ニューウェーブをポップに変えられたんだ」(カナ・Vo/Gt) 「4曲はドラムを叩いているけど、残りはトラックメイカーさんによる打ち込み。こんなミュージシャンは見たことないと思うぐらい、フレキシブルにいろんな見せ方をしているし、それがCHAIの良さでもある。自分が叩いた曲でいえば『PARA PARA』が大好き。あの年代感の音を現代風にアップデートして、洋楽の要素と日本人のアイデンティティをうまくミックスしてる。打ち込み系の曲なら『KARAOKE』もめっちゃ好き。ラテン風の音にマナとカナが日本ぽいメロディを乗せてくれて、これは私たちにしかできない、それこそ“CHAIポップ”だと思った」(ユナ・Dr/Cho) 「これまで“セルフラブ”(自分を愛すること)を軸に、いろんな角度から歌詞を書いてきた。今回は曲調も雰囲気もすべて違うけど、どれもCHAIの歌詞になるように意識したのと、もっと多くの人を巻き込みたいと思った。個人の気持ちをただ言うんじゃなくて『こうしたら人生は楽しいと思う』という提案とか、大勢を意識した言葉に変換できた。ジャケットも、初めてセルフラブを意識したビジュアルにできたの。テーマは“自分たちが自分たちの未来を見て応援してる”。大きなステージでCHAIが演奏する姿を見てる私たちが『CHAIかわいい! 大好き~!』と叫んでるイメージ。ビジュアルからメッセージまでCHAIの全部を出せたアルバムだね」(ユウキ・Ba/Cho) アルバムツアー「We The CHAI Tour!」が開始され、現在北米&メキシコを周遊中、11月からは4年ぶりとなるヨーロッパ・UKツアーが控えている。 「生きてきた環境も文化も違うから、国によって感じ方も違うけど“かわいい”だけは世界共通なの。みんなが持っている感覚だからこそ、より私たちが歌うべきだと思った。生まれた瞬間からかわいくない人って、この世には存在しない。それを信じてやってきたし、各国で“かわいい”を叫べば叫ぶほど、今度は私たちが言う前にみんなが叫んでくれる。ツアーを通して『みんな、“かわいい”って叫ぶ準備できてるよね?』って世界中で言いたいね!」(マナ) 4thフルアルバム『CHAI』。「We The Female!」、最新シングル「NEO KAWAII, K?」を含む全10曲収録。【完全生産限定盤(紙ジャケットCD+フラッグ)】¥3,300 【通常盤(ジュエルケースCD)】¥2,750(Sony Music Labels) チャイ 左下から反時計回りに、マナ(Vo/Key)、カナ(Vo/Gt)、ユウキ(Ba/Cho)、ユナ(Dr/Cho)。“NEOかわいい”をコンセプトに活動。「We The CHAI Tour!」で北米・メキシコツアーを開催中、11月からヨーロッパ・UKツアーを開催予定。 ※『anan』2023年10月4日号より。写真・岩澤高雄(The VOICE) 取材、文・真貝 聡 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/507351/ Source: ananweb