映画、ときどき私

2/2ページ
  • 2023.10.18

「ヒョンビンはすべてが完璧」名優ファン・ジョンミンとの豪華共演作で見せた素顔 | ananweb – マガジンハウス

2007年に起きたタリバンによる韓国人拉致事件から着想を得て制作されたサスペンスドラマが、韓国で初登場No.1の大ヒットを記録。今回オススメするのは、韓国を代表する豪華キャストの初共演が実現したことでも話題の注目作です。 『極限境界線 救出までの18日間』 【映画、ときどき私】 vol. 607 アフガニスタンの砂漠で、旅をしていた韓国人23名がタリバンに拉致される。彼らの要求は国内に駐屯する韓国軍の撤退と、刑務所に収監されたタリバン戦士23名の釈放だった。告げられた期限は24時間。そこで韓国政府は、直ちに外交官のチョン・ジェホを派遣する。 その後、国家情報院も動き出し、工作員のパク・デシクがアフガンのフィクサーに交渉するが、あと一歩で決裂してしまう。「韓国政府の代表」を自負するチョンとアウトローなパクは、対立しながらも手を組むことになる。タイムリミットが迫るなか、2人が命をかけた最後の交渉とは? 厳格な外交官チョン・ジェホを演じるのは、『哭声/コクソン』や『工作 黒金星と呼ばれた男』で知られる韓国の名優ファン・ジョンミン。そして、人命を救うためには手段を選ばない工作員パク・デシクには、ドラマ『愛の不時着』で世界中にブームを巻き起こした人気俳優ヒョンビンがキャスティングされ、豪華な俳優陣が顔を揃えています。そこで、こちらの方に見どころなどについて、お話をうかがってきました。 イム・スルレ監督 『私たちの生涯最高の瞬間』や『リトル・フォレスト 春夏秋冬』などで数々の映画賞を受賞し、韓国の映画界を牽引する女性監督の一人とされているイム監督。今回は、トップスターたちの素顔や現場での舞台裏、そして日本の女性たちに伝えたい思いなどについて語っていただきました。 ―主演のファン・ジョンミンさんとは、2001年『ワイキキ・ブラザース』以来のタッグとなりましたが、年齢とキャリアを重ねたいまのファン・ジョンミンさんの魅力はどんなところだと感じましたか? 監督 正直に言うと、彼はイケメンタイプの俳優ではないですが、情が深くて素朴で親しみやすいので、人間的な魅力に溢れている方だと思っています。それに、情熱を持って演技に打ち込んでいるので、俳優としての素晴らしさも改めて感じました。 ―いっぽうのヒョンビンさんは、いままでのイメージとは違う雰囲気が非常に印象的でした。本作では、どのような役作りをされていましたか?  監督 今回演じてもらった役どころは、過去に人質を助けることができずにその罪悪感に苛まれている人物。そういった寂しさを抱えながらも、砂漠のなかで自由に生きているという設定だったので、ルックスから演技にいたるまで、ヒョンビンさんとはたくさん話し合いを重ねて作り上げました。 劇中では、ひげを生やしてもらっていますが、あそこまでひげをたくさん伸ばしている彼をこれまで見たことがなかったので、最初は周りの人たちもみんなびっくりしていたほど。でも、だんだんと「砂漠に合う男らしさがいいな」と感じるようになりました。過去のロマンチックコメディでは見せたことがないような姿がこの作品ではご覧いただけると思います。 ヒョンビンさんには驚かされることが多かった ―とてもワイルドで、かっこよかったです。現場でのヒョンビンさんはどんな方なのか、素顔がわかるようなエピソードがあったら教えてください。 監督 ヒョンビンさんと映画を撮ったのは初めてでしたが、別の作品のキャスティングで打ち合わせをしたことがあったので、実は彼のことは以前から知っていました。とても親切で、礼儀正しくて、相手に気遣いができる方なんですが、一緒に仕事をしてみると驚かされることが多かったように思います。 ―具体的にはどのようなことがあったのでしょうか。 監督 あるとき、「こういう状況なら怒ってもいいんじゃない?」と思うことがヒョンビンさんに起きました。それでもまったく怒らないので、私はこんな質問をしてみたんです。「あなたはどうしてそんなに怒らずに、自分を制することができるんですか?」と。 すると、「相手の立場になって考えてみて『そうかもしれないな』と思うと、怒りを感じなくなるんですよ」と教えてくれました。それを聞いたときに、本当に頭がよくて、スマートで、性格も外見もすべてが完璧な方なんだなと。仕事においても、自分の人生においても、知恵があるので、そういう姿には驚かされることばかりでした。 コロナ禍に海外で撮影するのは多くの苦労が伴った ―ヒョンビンさんが多くの人に愛されるのも納得です。また、今回はコロナ禍真っ只中に、ヨルダンという普段とは違う環境で撮影をされていたので、かなり大変だったのではないかなと。日本のタイトルのように、“極限境界線”を越えそうになった瞬間もありましたか?  監督 撮影は2020年の3月から開始したので、ちょうど大変な時期と重なりましたし、そういう状況のなか海外で撮影するのはたくさんの苦労が伴いました。実際、撮影が止まってしまったこともありましたから…。でも、とにかく撮らなければいけないと焦っていたところ、ヒョンビンさんのおかげでかなり助けられたこともありました。 なぜかというと、ヨルダンで撮影許可を出してくれたのは王族の方々でしたが、そのなかでも王妃とされる方がなんとヒョンビンさんのファンだったんです(笑)。そういったこともあって、普段なら誰も立ち入れない場所にまで入ることができ、しかも撮影まで許可していただきました。 仕事をするうえで心がけていることは2つ ―そんな背景があったとは、驚きですね。 監督 あとは、夏に砂漠で撮影をしたので、暑さにもかなり苦労しました。また、映画のなかではアフガニスタンという設定でしたが、ヨルダンで撮影を行っていたので、ヨルダンの俳優たちにアフガニスタンの言葉を覚えてもらうというのも、難しかったところです。 今回は、韓国のスタッフ100人とヨルダンのスタッフ100人が一緒に仕事をしていたので、そういう大変さもありましたが、撮影中に誰もコロナにかからなかったのは本当によかったなと思っています。そんなふうに、さまざまな逆境を乗り越えて作られたのが本作です。 ―それらのおかげで迫力のある作品に仕上がったのだと改めて感じました。現在の韓国の映画界では、イム監督を筆頭に女性監督の活躍が非常に目覚ましいですが、仕事をするうえで大事にされていることがあれば、お聞かせください。 監督 私が大切にしていることは、大きく2つ。まずは、映画に出演してくれる俳優と一緒に仕事をしてくれるスタッフの間に調和を保てるように、バランスよく接するということです。特に、俳優のなかにはトップスターもいれば、小さな役を演じるエキストラのような方もいるので、そこで差別をしないように心がけています。 あと、映画の場合はどうしても興行的な成績や結果を求めがちですが、その過程も同じくらい大事に考えています。撮影中に誰かが傷ついたり、何かの被害に遭ったりすることがないように、つねに気配りすることは欠かせません。そのためにも、撮影しやすい雰囲気作りが重要だと思っています。 自分が好きなことをする時間をきちんと持ってほしい ―素晴らしい意識ですね。ちなみに、映画作りにおいて日本から影響を受けたり、好きな作品があったりしますか? 監督 私が映画を勉強していた時期は1980年代の半ばですが、当時の韓国では日本映画の輸入が禁止されていたので、最初は日本映画を観ることができませんでした。そのあと、パリで映画を学ぶことにしたのですが、そこで日本映画を知って大好きに。修士の学位を取った際、大学院での研究対象を溝口健二監督に選んだほどです。 ほかにも、黒澤明監督や小津安二郎監督、成瀬巳喜男監督の作品をたくさん観ました。最近でも、濱口竜介監督や是枝裕和監督など、好きな日本の映画監督は多いです。90年代には、日本に3か月滞在したこともありますが、みなさんに親切にしていただきましたし、日本の文化にもたくさん触れたので、いろんな影響を受けていると感じています。 ―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。 監督 現在、日本と韓国は似たような状況にあるかもしれないですが、現代社会において仕事をすることは何かと大変なこともあると思います。でも、仕事をしないといけない方のほうが多い状況なので、そういう女性たちに伝えたいのは、「自分の好きなことをする時間をきちんと持ってほしい」ということです。 仕事以外に家庭など、いくつものことをつねに抱えていると思いますが、どちらかだけに偏ることなく、うまくバランスを取っていただきたいなと。そうやって調和を保ったうえで、みなさんには幸せに過ごしていただけたらと思っています。 最後まで“極限境界線”に追い込まれる! 二転三転するスリリングな展開と命がけの緊迫した駆け引きに、片時も目が離せなくなる本作。アクションや男たちの友情に胸が熱くなるだけでなく、リアルな映像の迫力にも一気に引き込まれてしまう見どころ満載の必見作です。 取材、文・志村昌美 緊張感に包まれた予告編はこちら! 作品情報 『極限境界線 救出までの18日間』10月20日(金)TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー配給:ギャガ ️(C) 2023 PLUS M ENTERTAINMENT, WATERMELON PICTURES ALL RIGHTS RESERVED. https://ananweb.jp/anew/511700/ Source: ananweb

  • 2023.10.11

世界が注目するイギリスの新鋭「日本のゲームで培った感覚が映画作りに深く関係している」 | ananweb – マガジンハウス

多くの女性たちが憧れている世界の代表格といえば、華やかな美容業界。ですが、今回ご紹介するのは、そんなイメージを打ち壊すようなスター美容師殺人事件を全編ワンショットで描いて話題となっている1本です。 『メドゥーサ デラックス』 【映画、ときどき私】 vol. 603 年に一度のヘアコンテストに向けて準備が進められていたが、開催直前に優勝候補と目されていたスター美容師が変死を遂げる。しかも、奇妙なことに頭皮が切り取られた姿で発見されたのだ。 会場に集まっていたのは、「今年こそ優勝する」と誓って意気込んでいた3人の美容師と4人のモデルたち。さらに主催者や恋人、警備員らを巻き込みながら、事件や人間関係に関する噂と疑念が渦巻き始める。容疑者とされている11人に明かされる真実とは…。 ミステリーの名作を数多く生み出してきた英国から、新たに誕生したゴシップ・ミステリー。気鋭の映画スタジオ「A24」が北米配給権獲得し、世界中の映画祭を席巻している本作について、こちらの方にお話をうかがってきました。 トーマス・ハーディマン監督 短編映画が高く評価され、BBC FilmsとBFI(英国映画協会)の支援によって本作で長編デビューを果たしたトーマス監督。長編初監督ながら見事な演出力と構成力を見せ、映画界でも注目を集めています。そこで、撮影の裏側やタイトルに隠された思い、そして日本から影響を受けていることなどについて語っていただきました。 ―今回、美容業界を舞台に映画を撮ろうと思ったのは、なぜですか? 監督 母は髪を大事にしていた人なので、髪への情熱は母から受け継いだものだと思います。まだ僕が幼かった頃、怖がりだった僕を母がいつも外に連れ出してくれたのですが、母はなぜか週に1か2回も美容院に行っていたのです。そういったこともあって、僕は美容院で育ったと言えるんじゃないかなと。ファッション雑誌もそこで初めて手に取り、おかげでファッションに興味を持つようにもなりました。 その後、アートや文学、映画といった世界に触れていくなかで気が付いたのは、そこにあるヒエラルキーは美容の世界にも同じようなものがあるということ。そこから、どんどん自分の目が開かれていくようになり、映画として描きたいと思うようになりました。 女性が引っ張っていく物語を作りたかった ―『メドゥーサ デラックス』というタイトルには、どういった意味が込められているのでしょうか。 監督 いまお話した母が通っていた美容室は、劇中にコンテストの主催者として登場するレネのモデルでもあるオズワルドさんという方がオーナーの「オズワルドズ」という名前のお店でした。ところが、僕が実家を離れたあとに、彼は亡くなってしまったのです。 その後、どうなっていたのかは知らなかったのですが、久しぶりに地元に戻ったときにお店を訪れてみると、違うオーナーが経営している「メドゥーサ」という美容室に変わっていたんです。それは自分にとっては大きな驚きでした。 あと、「メドゥーサ」には魔女のように知的で強い女性が社会や男性から迫害されているイメージがあるので、性差別的な要素があると感じていました。そういうなかで、神話を再解釈し、女性が引っ張っていく物語を作れたらいいなと。なぜなら、僕の母には7人の姉妹がいて、つねに女性たちに囲まれて育った経験があったからです。ぜひみなさんにも、新しいものを受け取っていただきたいと考えています。 きっかけとなったのは、美容系のYouTube ―なるほど。また、本作で話題となっているのは、これだけの展開を全編ワンショット撮影で行ったことですが、どういった経緯だったのかを教えてください。 監督 いままでと違う映画にしたいと思っていたので、脚本を書いている段階から「ワンショットで撮りたい」というのは考えていました。きっかけの1つとしては、年の離れた兄の娘たちが見ていた美容系のYouTube。彼女たちの母親が亡くなってしまったので、代わりに彼女たちの面倒を見る機会が多くなったのですが、そのときにそういう動画をずっと一緒に見ていたんです。 そこで気が付いたのは、人が何かをしている様子を長いショットで追っていくことに、我々も自然と慣れてしまっているということでした。YouTubeの環境によって、物の見方も変わってきましたが、長回しをすることでキャラクターによるドラマも生まれるのではないかなと思ったのです。ワンショットによる状況的な面白さもありますが、僕はそうやって出てくる感情や人間の様子にも興味があるので、それをけん引してくれた俳優たちには感謝しています。 ―とはいえ、撮影にあたってはかなり緻密な準備が必要なので、大変だったのではないかなと。 監督 今回は9日間しか撮影期間がなかったので、事前にZoomを使って俳優たちとリハーサルをしたり、iPhoneやノートパソコンを片手に撮影の確認をしたりして、構築していきました。僕たちは野心的で夢もありますが、お金がなくて(笑)。なので、そういうやり方をするしかありませんでした。とはいえ、映画作りというのはそもそも簡単なことではないので、そういう意味では全体的によくできたんじゃないかなと思っています。 ―なかでも苦労したのはどんなことですか? 監督 やっぱり赤ちゃんがいるシーンは、大変でしたね。というのも、実は今回は双子の赤ちゃんを起用していたんです。1人はよく泣く子で、もう1人は全然泣かない子だったので、シーンによって使い分けています。 つねに新しい世界を作り出すチャレンジをしている ―舞台となるホールは、非常に複雑な構造の建物でしたが、そこも本作には欠かせない要素だったと感じました。場所は先に決まっていたのでしょうか。 監督 脚本を書いているときは自分の頭のなかだけにあったので、どういう場所になるかはまったくわからない状況だったんです。その後、ロケ地探しをしたのですが、イギリス中のコンベンション・センターやホールを見て回りました。そして、ついにイギリス北部にあるプレストン・ギルドホールという施設を見つけたんです。本当に完璧な場所だったなと思います。 ―劇中に登場するヘアスタイルはどれも素晴らしいものでしたが、ヘアメイクはレディ・ガガのヘアメイクなどをはじめ、“ヘア界で最も独創的なスタイリストの一人”と称されているユージン・スレイマンさんが担当されたとか。彼の仕事ぶりを間近でご覧になっていかがでしたか? 監督 彼はシャネルやルイ・ヴィトン、イッセイ ミヤケなどさまざまなトップブランドとコラボをしていますが、僕は彼の仕事をずっと追いかけてきました。彼にどれだけ才能とスキルがあるかはわかっていたので、ぜひ映画に参加してほしいとお願いをしたのです。 彼はいろんなものをぶっ壊すパンクの世代ですが、僕もこれまで存在していた範疇から刷新していく世代なので、そういう意味では2人とも同じような感覚を共有しているのではないかなと。年齢も育った環境も違いますが、つねに新しい世界を作り出すチャレンジをしているところが似ていると感じています。実際、この作品ではこれまでにない方向性であっても好んで挑戦してくれました。 日本のカルチャーが自分の血となっている ―キャラクターによって違うさまざまヘアスタイルの数々には、ぜひ注目ですね。また日本についてもおうかがいしたいですが、どのような印象をお持ちですか? 好きなものはありますか? 監督 それはとてもいい質問ですね。というのも、僕はまだ日本に行ったことがないのに日本が大好きで、コム・デ・ギャルソンやジュンヤ ワタナベといった日本のファッションから影響を受けたり、ポール・シュレイダー監督が三島由紀夫を題材にした映画を観たりしてきました。 それから、多くの映画作家が子ども時代からカメラを手にしていたという話はよく聞きますが、僕の場合は任天堂のゲームだったんですよ(笑)。「スーパーマリオ」や「ゼルダの伝説」でよく遊んでいましたが、それらのゲームで培った感覚というのが僕の映画作りには深く関係していると思っています。そんなふうに、自分の意識と日本は深くリンクしていると感じるので、僕にとっては日本のカルチャーが自分の血となっているような気がしているほどです。 ―確かに、本作のカメラワークもゲームのような視点が生かされているように感じました。それでは最後に、ananweb読者に向けて、注目してほしいポイントなどについて教えてください。 監督 今回は、コアレスというミュージシャンに音楽をお願いしましたが、彼はメドゥーサの蛇が動くような音を作ってくれていて、それには僕自身も非常に驚きました。僕の映画のために、才能豊かな人が自分なりの解釈を加えて新たなものを生み出してくれて、本当に光栄に思っています。 観客のみなさんにも新しい体験をしていただきたいので、映画を観たあとにスキップしてしまうほど楽しかったと思ってもらえたらうれしいです。 息を飲む緊張感が味わえる新感覚ミステリー! まるでその場にいるような圧倒的な臨場感と、見たこともないような圧巻のヘアメイクが堪能できる本作。ワンカットによる驚異の映像はもちろん、本格的でありながら斬新な展開も楽しめる必見のミステリー作品です。 取材、文・志村昌美 引き込まれる予告編はこちら! 作品情報 『メドゥーサ デラックス』10月14日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開配給:セテラ・インターナショナル ️(C) UME15 Limited, The British Film Institute and British Broadcasting Corporation 2021 https://ananweb.jp/anew/510328/ Source: ananweb

  • 2023.09.27

クレイジーな天才ファッションデザイナーの素顔とは…世界を熱狂させた舞台の裏側に迫る | ananweb – マガジンハウス

仕事へのモチベーションが下がってしまうときは誰にでもありますが、そんなときにオススメなのは、第一線で活躍し続けている人たちの姿から学ぶこと。今回ご紹介するのは、“天才ファッションデザイナー”と呼ばれるジャンポール・ゴルチエの素顔と半生に迫っている注目のドキュメンタリーです。 『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』 【映画、ときどき私】 vol. 601 ファッションシーンで数々の旋風を巻き起こし、奇想天外でファンタスティックなデザインで有名なクチュリエのジャンポール・ゴルチエ。そんな彼が新たに挑んでいたのは、ミュージカル「ファッション・フリーク・ショー」だった。 しかし、自身のコレクションと2足の草鞋を履いて創り上げるショーの舞台裏はトラブルの連続。ゴルチエとそのチームは、衣装合わせ、初のリハーサル、ダンサーの故障、演出のいざこざなど、さまざまなアクシデントに見舞われていた。果たして、無事に初日を迎えることはできるのか…。 マドンナやカトリーヌ・ドヌーヴ、そしてファッション界の女帝アナ・ウィンターなど、数多くの豪華メンバーが登場していることでも話題の本作。そこで、見どころについてこちらの方にお話をうかがってきました。 ヤン・レノレ監督 選挙中だったフランスのエマニュエル・マクロン大統領を描いたドキュメンタリーなどを手掛け、ドキュメンタリー作家としてキャリアを積み重ねているヤン監督。本作では、2018年にパリで初演を迎えて以降、東京や大阪をはじめ全世界35万人の観客を熱狂の渦に巻き込んだミュージカル「ファッション・フリーク・ショー」の舞台裏に密着しています。今回は、ジャンポール・ゴルチエとの撮影から感じたことや撮影秘話、そして日本との意外な繋がりなどについて語っていただきました。 ―これまでさまざまな著名人に密着されていますが、そのなかでもゴルチエさんは監督から見てどんな存在ですか? 監督 ドキュメンタリー作家としては彼を撮ることができるのは喜びでしたが、正直に言って、ゴルチエは僕が撮ってきた人物のなかでも一番クレイジーな人だと思っています(笑)。というのも、彼はつねにクリエーションのことを考えていて、いつも“スパークリングしている人”ですからね。 アイデアがどんどん出てきてしまうので、1つの衣装を完成させるまでに10回以上変更することもあるくらい。一緒に働いている人は、本当に大変だと思います。でも、それはよくするための過程であり、そのプロセスによって素晴らしいものが生まれていくというのがわかりいました。 バックステージだけでなく、内面も撮ることができた ―撮影に関しても、ご本人から指示されるようなことはありましたか? 監督 僕に対しては、クレイジーな要望はありませんでしたね(笑)。というのも、僕が用いているドキュメンタリーの手法というのは、対象者に介入せずにありのままをずっと撮っていく方法だからです。 そんななかで印象に残っているのは、彼が自分のクレイジーさに気がつく瞬間。それは映画のなかでも見ることができますが、靴のせいで足首を痛めてしまったダンサーに対して、「申し訳なかった」と謝ったときです。自分自身で行き過ぎていることに気づき、クレイジーな欲求にもリミットがあること彼は知ったようでした。 ―そういった普段ではなかなか見ることができないような瞬間もカメラに収められていますが、どのように撮影を行ったのかを教えてください。 監督 ドキュメンタリー作家として、自分の強みだと思っているのは、対象者と長い時間をともに過ごして撮影を行うこと。僕の場合、6カ月未満で撮ることはありません。実際、過去にテディ・リネールという柔道家のドキュメンタリーを撮った際には3年密着しましたし、ゴルチエも1年間かけて撮っています。 そんなふうに彼らの生活のなかに存在してずっと撮り続けるというのが、僕のドキュメンタリーの秘訣です。今回もつねに相手のそばにいることができたおかげで、バックステージだけでなく彼の内面の部分まで撮ることができました。 クリエーションに必要なのは、違うものを衝突させること ―また、非常に豪華なセレブたちも数多く出演されていますが、それゆえに撮影においては大変なこともあったのではないかなと。 監督 そうですね。“大スター”と言われる方々をドキュメンタリーで撮るというのは、非常に難しいことだなと改めて思いました。たとえば、マドンナの場合は専属のカメラマンにしか映像は撮らせない方なのでその映像を使ってほしいと言われましたし、カトリーヌ・ドヌーヴからは「演技する前後はいいけど演技中は撮らないで」という要望がありましたからね。 そのほかの方々も、人によってそれぞれいろんなリクエストがあったほどです。ただ、きちんと説明をすればみなさん理解はしてくださるので、その都度こちらが適応して撮ることが大事だと感じました。 ―映画のなかで印象的だったのは、ゴルチエさんから発せられる言葉の数々。なかでも、「違いとは特別である」というひと言には勇気づけられる方も多いと思いますが、監督は違うことの素晴らしさについては、どう感じていらっしゃいますか? 監督 クリエーションにおいて言うならば、違いという名の“ショック”を与えるというのは必要なことではないでしょうか。実際、ゴルチエも一見まったく関係のない要素を衝突させることによって、彼のクリエーションを成立させているんです。モチーフや素材、カラーなど、あえて違うものを合わせていますが、勇気を持ってそれができるかどうか、というのが彼の創作活動における肝だと思います。 なので、普段自分がいる場所から出て行くというのも大切なことかなと。フランス人が日本に行ったり、逆に日本の方がフランスに来たりすると、現地にいる人たちでは気づかないものを見い出したりすることがありますよね。あえて違う国に行くのも、面白いクリエイティブに出会える方法だと考えています。 自分のなかにも、日本は息づいている ―なるほど。ちなみに、日本に対してはどのような印象をお持ちでしょうか。 監督 実は、僕は日本とは個人的な繋がりがあるんですよ。というのも、キリスト教の司祭をしていた僕の叔父は、川崎に21年間暮らしながら労働者の方々に向けて宣教を行っていた人なんです。70年代当時はまだ組合がなかったそうなので、彼は労働者の人たちをサポートしながら、組合を作る手助けもしたと聞いています。なので、企業側からしてみれば、彼は出る杭のような邪魔な存在だったかもしれませんね…。 その後、叔父は自身の経験をまとめて本に書き、「出すぎた杭」というようなタイトルをつけましたが、彼は日本社会においては、“突き抜けた釘”のような人だったと思います。でも、僕にしてくれた日本の思い出話は、実際に生活していた人だからこそ語れることばかりだったので、それはいまでも僕のなかでも息づいていると感じています。 ―それでは最後に、ananweb読者に向けてメッセージをお願いします。 監督 彼の作る服というのは、決して産業的なものではありません。だからこそ、それを身につけると誰もが自分を解放し、トランスフォーメーションすることもできるのです。そして、その姿はまさにアートであり、彼のモードでもあると言えるでしょう。 それだけでなく、現代のスターたちがいまも90年代にゴルチエが作ったものを求めるという現象は、本当にすごいことですよね。これからもゴルチエとモードの関係性というのは、ずっと残るものですし、巡り巡っていくサイクルのなかに彼は存在していて、これからも生き続けていくと僕は思っています。 多様性と想像力に溢れる生き方に刺激される! 魅惑的なファッションで、日常を忘れてしまうほどの豪華絢爛な世界へと誘ってくれる本作。その真髄となるジャンポール・ゴルチエのクリエイティビティに触れることで、観る者の人生もきっと彩り豊かになるはずです。 取材、文・志村昌美 華やかな予告編はこちら! 作品情報 『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』9月29日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋、シネマカリテほか全国公開配給:キノフィルムズ ️(C) CANAL+ / CAPA 2018 https://ananweb.jp/anew/507091/ Source: ananweb

  • 2023.08.11

高畑充希が実体験から学んだ「人生は完璧よりも崩れてからのほうがおもしろい」 – 写真・園山友基(高畑充希) | ananweb – マガジンハウス

人形業界に革命を起こし、「世界でもっとも有名なファッション・ドール」と呼ばれるバービー。その世界観を初めて実写化した映画『バービー』が、いよいよ日本でも公開を迎えました。そこで、日本版吹き替えを担当したこちらの方にお話をうかがってきました。 高畑充希さん 【映画、ときどき私】 vol. 594 本作で、マーゴット・ロビー演じる主人公バービーの声を演じた高畑さん。舞台やミュージカル、映画、ドラマなどで幅広く活躍されている高畑さんですが、洋画作品で吹き替えを担当するのは2015年の『シンデレラ』以来、2回目となります。今回は、映画を通して感じたことやハッピーになる瞬間、そして完璧よりも大切なものについて語っていただきました。 ―久しぶりのアフレコでかなり緊張されたそうですが、どのような意識で挑まれたのかを教えてください。 高畑さん 私は声優さんと違って普段生身でお芝居をしているので、慣れない声での表現はどうしたらいいんだろうと思い、ほかの吹き替え作品やマーゴット・ロビーさんの出演作を観たりして準備をしました。それと同時に、映画のなかでキャラクターがどういう感情になるのかにも寄り添えたらいいなと思ったので、そのあたりも手探りで演じました。 ―実際、苦労したシーンなどはありましたか? 高畑さん 「Hi, Ken」というセリフがものすごく多いんですが、そこで最初につまずきました。というのも、「ハーイ」と言うとどうしても「ケン」まで英語の発音になってしまうのですが、そこも日本語っぽくしゃべってほしいと言われたので。「健康の『健』みたいな感じです」と何度も注意されました(笑)。 ―逆に、気分が上がったシーンといえば? 高畑さん バービーたちは、ガールズナイトやパーティを毎晩していてハイテンションなので、ブースのなかで私も1人で絶叫していました。そんなときは、自分で「何してるんだろう」と思ったことも(笑)。でも、普段ではないようなテンションだったので、すごく楽しかったです。 ダメな自分のほうが好きだと思えるようになった ―完成した作品を観たときの感想についても、お聞かせください。 高畑さん 私はもともとグレタ・ガーウィグ監督が大好きですが、彼女がバービーを実写化するというのが最初は全然つながりませんでした。でも、ポップな世界観が見事に完成されているうえに、ストーリー性もある。こんなふうにかけ合わせられることに感動しましたし、当初思い描いていたより何倍も大人向けの作品になっていると思いました。観る方によってかなり印象が変わる作品ですし、見どころを説明するのも難しいので、「とりあえず観てください!」という感じです。 ―そのなかでも、共感するところはありましたか? 高畑さん あるシーンで「あなた変わったわね」とバービーが言われるんですが、そこで「いまの私は完璧じゃないから」と答えるところは響きましたね。というのも、私が10代だったころ、自信に溢れていて完璧だと思っていましたが、大人になるにつれて、それが崩れ始めて動揺したことがあったからです。 でも、そのときに「ダメなところがいいね」と言ってくださる人がいて、自分でも「こっちの私のほうが好きだな」と思えたので、そういうところはわかるなと。10代は無敵でしたけど、人生は崩れてからのほうがおもしろいなと感じています。 アクシデントがあるほうが、テンションが上がる ―つまり、完璧でいるよりも大切なものがあることに気づいたと。 高畑さん といっても、そもそも私は完璧であることを求めたことがないのかもしれません。それは小さい頃からずっと舞台に立つなかで、お客さんのテンションや共演者によって毎日すべてが変わり、完璧を目指してもなかなかそうならないことを感じていたからです。 でも、それによって100点じゃなくて120点が出る日もあったので、自分が完璧にするよりも、一緒に演じている人たちのことを完璧に信頼したいという気持ちのほうが強くなりました。もちろん、バービーみたいに完璧であるがゆえの美しさもありますが、私自身は完璧ってワクワクできないんじゃないかなと。 ―なるほど。劇中にはさまざまなタイプのバービーが登場しますが、なれるとしたらどのバービーになりたいですか? 高畑さん 私は、腕を上げると胸が大きくなるバービーです(笑)。大きくしたいときは膨らませて、洋服によってはへこませられたら最高だなと。女性の夢じゃないですかね。 ―確かに、それは最高ですね! バービーだけでなく、恋人のケンも魅力的なキャラクターでしたが、どういう印象を受けましたか? 高畑さん バービーのことが大好きだけど、それがなかなかうまくいかないので強がってしまうときもありますが、単純でかわいくて憎めないですよね。私は穏やかで柔らかい仕草をする男性が好きなので、ケンみたいに素直でチャーミングな人はいいなと思います。 「生きているだけで偉い」と感じるようになった ―本作ではキラキラした要素だけでなく「男女とは?」「生きるとは?」というところまで描かれていると感じたそうですが、ご自身のなかで新たな発見もあったのでしょうか。 高畑さん 「女だから」とか「男だから」というテーマも描かれていますが、最終的には所属や出身に関係なく「個人としてどう生きるか」という部分にたどりつくので、それがいまの時代には合っている作品だなと感じました。 あと、最近は「生きているだけで偉いんじゃない?」と思っています(笑)。私もめちゃくちゃ落ち込む日はありますが、その翌日にめっちゃハッピーになることもあるので、まだまだ生きてみないとわからないなと。これから先の人生も、いっぱい発見があるのかなと考えると楽しみです。 ―ちなみに、落ち込んだときの対処方法やハッピーになるために心がけていることがあれば教えてください。 高畑さん そういうときは何もしません。落ちるときは落ちますし、ネガティブなときはすべての思考がネガティブに傾きますから。ただ嵐が通りすぎるのを待ちます。でも、私は洋服が大好きで、毎朝何を着て出かけるかを考える時間が幸せなので、それが人生の楽しみになっているのかなと。もし全人類が裸で生活するようになったら、私の楽しみはすごく少なくなってしまうと思います(笑)。 限られた時間を大切に使いたい ―また、現代はSNSなどもあり、多くの人がバービーのように完璧であることを目指そうとしていますが、こういった環境のなかで生きづらさや窮屈さを感じたことはありますか? 高畑さん 何をやっても何かを言われるような世の中ですし、完全に賛同されることはおそらく1つも存在しないとも感じています。でも、そこに引っ張られてしまうのではなく、それを切り離して、自分の周りにいる人を大事にするほうが有意義ではないでしょうか。時間は限られているので、大切にしたいですね。 ―そういうふうに考えられるようになったきっかけなどもあったのでしょうか。 高畑さん 経験を積み重ねるなかで少しずつではありますが、そのなかでも大きかったのは20代前半に舞台に出演していたときのこと。内容がけっこう過激だったので、途中で帰ってしまうお客さんもいたのですが、最後まで見てくださる方にはものすごく楽しんでいただけた作品でした。 そのときに賛否両論であることには意味があるんだと実感したので、みんなが何となくいいと思うものよりも、私はそういう作品にこそ価値があると感じています。よくなるかもしれないし、空振るかもしれないような作品でも、怖がらずに受けてみようという精神になったのはその頃からです。 どん底まで落ちたら、あとは上がるだけ ―それでは最後に、同世代のananweb読者に向けてメッセージをお願いします。 高畑さん 私もみなさんと同じで、いい日もあれば悪い日もあるので、どん底まで落ちたときは上がるだけだと思うようにしています。それにそういう時期がずっと続くことはなかなかありませんし、あとで「ああいう時期もあったな」と思える日が来る。落ち込むよりも、そのときのよかったことを見つけるほうが大事だと伝えたいです。 実際、私も29歳で謎の焦りがありましたが、それを超えたら何もなくなって、毎日が俄然おもしろくなりました。旅行をしたり、仕事をしたり、新しい人と出会ったり、30代のほうが楽しいです。繰り返しになりますが、本当に生きているだけで偉いので、悩める女子たちにはぜひこの映画を観てほしいと思います。 インタビューを終えてみて…。 バービーのカウガールファッションを彷彿とさせるかわいらしい姿で登場した高畑さん。ユーモアを交えつつ、核心をついた言葉の数々にたくさんの元気をいただく取材となりました。30代を満喫し、公私ともに充実している高畑さんのさらなる飛躍が楽しみなところです。 悩みも吹き飛び、気分はピンク一色! オシャレでかわいいだけじゃなく、自分にとってハッピーな生き方とは何かを教えてくれるドリームファンタジー。夢のようなバービーランドで、みんなと一緒に笑って泣いたら、もっと輝く明日にきっと出会えるはずです。 写真・園山友基(高畑充希) 取材、文・志村昌美ジャケット¥89,000、ブラウス¥89,000、スカート¥58,000(すべてMARANT ETOILE)、ピアス¥75,000、ブーツ¥194,000(ともにISABEL MARANT/すべてISABEL MARANT AOYAMA STORE TEL: 03-6427-3443 ストーリー すべてが完璧で、毎日がハッピーで夢のような世界が広がっているバービーランド。そこで暮らすバービーとボーイフレンドのケンは、連日繰り広げるパーティやドライブ、サーフィン、デートを楽しんでいた。 ところがある日、突然バービーのカラダに異変が起きる。原因を探るために2人が向かったのは、悩みの尽きない人間の世界。しかし、そこはバービーランドとはすべてが違う現実の世界だった。行く先々で大騒動を巻き起こすなか、バービーが最後に選んだ道とは…。 キュートでパワフルな予告編はこちら! 作品情報 『バービー』8月11日(金)全国ロードショー配給:ワーナー・ブラザース映画 (C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. 写真・園山友基(高畑充希) https://ananweb.jp/anew/499925/ Source: ananweb

  • 2023.06.16

福士蒼汰「中学生から英語の勉強は1日も休んでいない」 海外ドラマ初出演、夢をつかんだ秘訣 – 写真・園山友基(福⼠蒼汰) | ananweb – マガジンハウス

2020年から現在までに世界90 カ国以上で放送・配信され、人気を博している海外ドラマ「THE HEAD」。辺境の地にある南極の科学研究基地で起こった惨殺事件の真相に迫ったSeason1から3年、ついにSeason2が幕を開けます。そこで、唯一の日本人キャストとして参加したこちらの方にお話をうかがってきました。 福士蒼汰さん 【映画、ときどき私】 vol. 585 太平洋に浮かぶ巨大貨物船を装った秘密研究基地を舞台に繰り広げられる本作で、優秀なコンピューター・エンジニアのユウトを演じている福士さん。2か月に及ぶスペインでの撮影では、国際色豊かなキャストとスタッフのもとで、英語のセリフにも挑んでいます。長年の夢だった海外作品に初出演した思いや独学で身につけたという英語の勉強法、そして30歳を迎えたいまの心境などについて語っていただきました。 ―以前から海外に進出したいと考えていたそうですが、そう思うようになったのはいつ頃からですか? 福士さん 最初は小学校中学年くらいのときに地球儀を見ていて、日本がすごく小さいことに気がつき、子どもながらに外に出てみたいなと思ったんです。その後、中学校で英語の授業を受けながら「この言語が話せたら世界中の人と話せるんじゃないか」と考えていました。そんなふうに過ごしているうちに高校生で俳優になり、「俳優という仕事を通せば、すべての夢が叶うのでは?」と思うようになったのがきっかけです。 ―なるほど。今回は事前にどなたかに相談したり、アドバイスを求めたりしましたか? 福士さん 出演が決まったとき、Season1に出られていた山下智久さんに報告させていただきました。「すごく温かい現場だし、福士くんなら大丈夫だよ」という言葉をかけていただき、安心しました。 大変だったけど、いい時間を過ごすことができた ―オファーがあってからは、特別な準備などもされたのでしょうか。 福士さん お話をいただいてから撮影までの期間は約1か月半。ちょうど舞台中だったので、どちらもがんばらなければという思いでした。まずは上演後や休演日を使ってアクティングコーチとレッスンを始めました。アメリカでよくあるメソッドなども体験させていただいて、面白かったです。 ―実際に、英語で演技をしてみていいかがでしたか? 福士さん 十分な準備をしていったので、悔いのないお芝居ができたと思います。でも、アーサー役のジョン(・リンチ)がアドリブやセリフを入れ替えることがものすごく多いので、彼と初めて撮影を終えた日には「これはもっと準備しないとまずいな」と。そこで、次のシーンでは前もって彼のセリフも覚えていきました。 ジョンはその場で湧き出てくる感情によってセリフが変わる方だったので大変でしたが、おかげでライブ感がある生き生きとしたシーンになってよかったです。英語のアドリブは想定していなかったので、いい刺激を受けられました。 ―そこに対応できたということは、福士さんもアドリブをけっこう入れていると。 福士さん そうですね。といっても、自分のセリフのなかからチョイスしたり、リアクションを取ったり。大変でしたけど、楽しくていい時間だったなと思います。 英語の勉強は、好きだから毎日続けられた ―英語に関しては中学のときから独学で勉強されているそうですが、続けるというのが一番難しいと感じている人も多いと思います。モチベーションはどのようにして維持していますか? 福士さん 僕の場合は、英語が好きだから。好き以外の理由はないんです。 ―具体的にはどのような勉強法をされているのでしょうか。 福士さん 一番初めは単語を勉強していましたが、だんだんゲームや映画とか、自分が好きなものを英語で楽しむようになりました。でも、何をするにも最初は苦痛ですよね。僕の場合は、好きだから乗り切ることができますが、まずは1日5分でもいいから続けることじゃないでしょうか。 たとえば、1時間の勉強を1週間に1回だけするのと、1日10分を7日間にわけて勉強するのとでは、毎日続けるほうが身になると思います。僕は時間がないときでも、スキマ時間を見つけて本やアプリを使って勉強していました。 ―すごいですね。ちなみに、今回の作品に携わったなかで一番苦労したことは? 福士さん すべてを振り返って言うなら、プレスカンファレンスに参加したときに、インタビューに英語で答えなければいけなかったことです。それが一番大変でした。お芝居はセリフがあるので準備さえすれば怖くないのですが、インタビューは全部その場で自分の言葉で言わないといけないですから…。 ―ということは、通訳もつけずにご自身で対応されたと。 福士さん 通訳の方はいたのですが、スペイン語で質問されたものをすべて英語に通訳されるという状況でした(笑)。 ―それはかなり大変でしたね。そのほかに、さまざまな国のキャストやスタッフが集まるなかで、カルチャーショックなどもあったのではないでしょうか。 福士さん 一番印象に残っているのは、スペインの方はみんな踊ることが好きだということです。音楽が流れてくると、たとえ仕事中でも手を止めてみんな踊り出すんです(笑)。国民性の違いを感じて、面白いなと感じました。 日本文化のおかげで、コミュニケーションがうまく取れた ―では、そんななかでご自身の支えになっていたものは? 福士さん 乗り越えられた助けのひとつは、日本の文化です。というのも、アニメや漫画など日本にはこれまで培ってきた独特な文化があり、世界中の人たちからすると「日本と言えばこれだよね」というものがたくさんあります。それがコミュニケーションを取るうえですごく役に立ちました。実際、僕が合流した初日の夜にみんなから「日本語でしゃべってよ!」とお願いされ、少し話してみただけでものすごい盛り上がってくれました。 ―現場で流行った日本語などもあったのでしょうか。 福士さん ありました。「それぞれの国で乾杯は何て言うのか」という話になったときに、みんなが気に入ってくれたのが日本語の「カンパーイ」。第1話を見ていただければわかりますが、なんと劇中でも使われたほどです。 ―注目してほしいですね。では、今回の撮影を通してご自身が学んだことといえば? 福士さん 一番は日本人以外の方とのコミュニケーション能力。どれだけ英語力があったとしても、コミュニケーション能力がないと自分の持っている力を半分も発揮することができません。この現場でいかにリラックスしてコミュニケーションを取ることが大事かを痛感しました。 今回で新しい物差しができたというか、こういう自分でいいんだなと思えるようにもなりました。そのおかげで、「THE HEAD」の撮影のあとにニューヨークに行ったら、以前と英語力は変わっていないはずなのに、いろんなことがわかるようになり、不思議なことに前よりも話せるようになってたんです。それはこの2か月間の撮影で自分らしさや自分なりのコミュニケーション方法が見つけられたからだと思っています。 少しずつ続けてきた積み重ねが役に立っている ―ということはかなり収穫の多い現場だったんですね。 福士さん そうですね、達成感がありました。やはり気を張っていましたし、緊張もしていたので、終わった後は解放感もありました。でも、もっと自分の能力を発揮できるようになりたいので、もう1回やりたいという気持ちもあります。今回ありがたいことに第一歩を踏み出せたので、二歩目、三歩目に繋げられるようにがんばりたいです。 ―そのなかでも、こういう部分をもっと強化したいと感じたこともありましたか? 福士さん 本当に課題しかないです。コミュニケーション能力はもっと経験を重ねる必要がありますが、自分でできる勉強に関しては今後も続けていきます。いまはアドリブにもついていくのが精一杯ですが、いかにそれ以上のものを出せるかが大事だと感じているので。とはいえ、今回は全力を尽くして悔いはないので、自分を褒めてあげたい気持ちもあります(笑)。 ―福士さんは「20代のうちに海外進出する」という目標を見事に達成されましたが、夢をつかんだ秘訣は? 福士さん やっぱり継続だと思います。中学校で英語の勉強を始めてからいままで、どんなに忙しいときでも英語の勉強をしなかった日は1日もありません。僕はネイティブでも帰国子女でもありませんが、少しずつ続けてきた積み重ねが自分の役に立っていることは間違いないと思います。 ―そんななかで、次の夢があれば教えてください。 福士さん 今後も海外作品に挑戦していきたいと思っています。いまのレベルだとまだまだ足りないと感じているので、もう少し自分を磨いていきたいです。あとは、筋トレや格闘技、武術などもしているので、アクションもやってみたいなと思っています。 自分の個性をわかっている人に魅力を感じる ―それだけお忙しいなかで、どうやって息抜きされているのでしょうか。 福士さん 僕はこの仕事が好きでやっているので、自分へのご褒美みたいなものも特に考えたことがなく…。でも、友達や家族といるときは素に戻れる時間です。 ―先月で30歳になられたばかりですが、心境の変化はありますか? 福士さん 周りからの見られ方は変わるのかもしれないですが、僕自身はあまり意識していなくて。ただ、20代で見つけたことを継続しながら30代でも新しい挑戦や開拓をしていきたいなとは思っています。 ―最後にananweb読者に向けて、メッセージをお願いします。 福士さん 同世代の女性が多いかと思いますが、内側も外側も磨きをかけて、より充実した30代、40代を迎えてもらえたらいいなと思っています。僕も一緒にがんばりますので! あと、僕は自分の個性や魅力をちゃんとわかっている人がステキだと思うので、自分なりの軸のようなものも意識してもらえるといいのかなと。僕自身がそう感じるようになったのは、ここ1~2年くらいのことですが、自分の軸ができてから楽しくなったので。そういうところも大事にしてほしいなと思います。 インタビューを終えてみて…。 英語や俳優という仕事が本当に好きであることが伝わってきましたが、その裏で相当な努力をされていることも感じずにはいられなかった福士さん。現場の話をするときの楽しそうな表情からも、いかに充実した日々を送っていたのかがわかりました。今後さらに海外へと羽ばたいていく福士さんが、次回はどのような役どころで世界に挑んでいくのかが楽しみです。まずは、本作で見せる福士さんの堂々とした英語での演技から注目してください。 物語も舞台も、さらにスケールアップ! 次々と起こる不可解な出来事に緊張感が高まり、どんどん引き込まれていく極限の心理サバイバル・スリラー。それぞれの欲望と因縁が渦巻くなかで繰り広げられる究極の心理戦と、その先に待ち受ける衝撃の真実をお見逃しなく! 写真・園山友基(福⼠蒼汰) 取材、文・志村昌美ヘアメイク・佐鳥麻子(VITAMINS) スタイリスト・オクトシヒロ ストーリー 陸から約2700km離れた太平洋のど真ん中に浮かぶ巨大な船・アレクサンドリア号。実は、それは貨物船を装った秘密研究基地だった。集結していたのは、天才生物学者のアーサーと彼が率いる優秀な化学チーム。彼らは気候変動から全人類を救い、世界を変えるという崇高な目的のもとに集っていた。 ところがある日、共同研究員の一人が、首<THE HEAD>のない死体として見つかる。海のど真ん中で逃げ場はなく、助けも来ない状況のなか、研究員や乗組員たちは極限状態に追い詰められていくのだった…。 目が離せない予告編はこちら! 作品情報 Hulu オリジナル「THE HEAD」Season26月17日(土)Huluにて独占配信スタート (C)Hulu Japan 写真・園山友基(福⼠蒼汰) https://ananweb.jp/anew/489492/ Source: ananweb