• 2024.02.18

ついにきた、大人の恋愛小説! 「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」選考委員たちがうなった作品とは? | ananweb – マガジンハウス

昨年12月に第3回の受賞作が発表された、文芸誌『オール讀物』が主催する恋愛に特化した文学賞。現代を反映した恋物語の最前線は、ここにあります。 恋愛小説の最先端を読みたいなら、「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」受賞作がおすすめ。 かつてほど恋愛が重要視されない現代社会。実際文芸の世界でも、随分前から“恋愛小説は売れない”と言われているそう。 「もはや人は生きていく上で恋愛を必要としなくなったのか。でもそれは、古典的な恋愛観が更新されていないからなのかもしれない…。今も人が他者を求めるという切実な思いはあるわけで、それこそが新たな恋愛の形で、その思いを描く小説を待っている読者は多いのではないか…。そういった疑問を、読者の一番近くにいる書店員さんと考えてみたい、と思ったことが、賞設立のきっかけです」 と言うのは、文芸誌『オール讀物』編集部で、賞を担当している編集者。従来の価値観的な恋愛にこだわらず、“人と人との関係性に主軸をおいた小説全般”の中で、なおかつ大人が楽しめるもの、というように、候補作の間口を広くしているところもこの賞の特徴。受賞&候補作もバリエーションが豊かです。 「何を恋愛として捉えるかは、時代の変化や社会の動きと連動し、広がっています。同性同士の関係に加え、人と動物、人と無機物など…。大きな感情の揺れが発生する間柄はすべて“恋愛”になりうる。それが最近の恋愛小説を取り巻く状況だと思います」 大賞を受賞した田中兆子さんの『今日の花を摘む』は、選考委員たちに“ついにきた、大人の恋愛小説!”と言わしめた作品。 「主人公が自らの体と向き合い、老いや衰えを抱えながらも、前向きに、主体的に爽やかに生きる姿は、大変高く評価されました。20~30代の女性たちにもぜひ読んでいただきたいですし、その世代の方々がどんな感想を抱くのか、とても気になるところです。人の心が揺さぶられる理由や答えは、どれだけ人生経験を経てもわからないもの。文章は、わからないことを描くのに向いている。恋愛小説の名手と呼ばれる作家も、ただただ“わからない”思いを物語に託している、そんな気がします」 「本屋が選ぶ大人の恋愛小説大賞」とは? 大人がじっくり読める質の高い恋愛小説を選ぶことを目的として、2021年に創設された文学賞。昨年12月に発表された第3回受賞作は、2022年10月1日から2023年9月30日の間に刊行された単行本の中から、瀧井朝世、吉田大助、吉田伸子の3氏の推薦のもと候補作5作を選出し、5人の書店員が選考委員を務め、決定した。 【大賞】 日々を謳歌するように“花摘み”を。一見地味な51歳女性の性愛物語。 『今日の花を摘む』田中兆子 双葉社 2090円主人公は出版社の社員で茶道を嗜む51歳の独身女性・愉里子。趣味は男性としがらみのないセックスをすることで、彼女はそれを“花摘み”と呼ぶ。 「主人公の性愛の楽しみ方は独特で、選考会でも“全く感情移入できない”という意見もあり、また“愉里子が友達で、花摘みの趣味を告白されたら、昔なら『自分を大事に』と言ったと思うけれど、今は『やるじゃん』と答える”という意見もあった。恋愛の概念も多様に変化する今の時代に求められるのは、こういう作品なのでは」(編集部) 【候補作】 戦争へと加速する中国で、惹かれ合う2人の女性。 『楊花(ヤンファ)の歌』青波 杏 集英社 1760円舞台は1941年、日本占領下の中国・福建省廈門。カフェで女給として働きながら諜報活動をしていたリリーは、暗殺の実行者としてヤンファという女性を紹介される。ある夜をきっかけに二人は惹かれ合い…。「スリルとサスペンス、そして純愛!?」(有隣堂・加藤ルカさん)。「息をつかせない展開と、主人公女性2人の存在感が素晴らしい」(大盛堂書店・山本 亮さん) 記憶と手紙、不在と今…。著者初のリアリズム小説。 『最愛の』上田岳弘 集英社 2310円外資系通信機器メーカーで働く30代の久島は、情報も欲望もそつなく処理する“血も涙もない的確な現代人”。しかし彼の心には、学生時代に文通を始めいつしか関係が途絶えた最愛の人・望未の存在が…。「端正な文章に恋愛が絡んでいく、その描写が読ませます」(山本さん)。「男性に読んでもらいたい恋愛小説です」(加藤さん) 1000年という長い恋路、現代で決着は着くの?! 『愛されてんだと自覚しな』河野 裕 文藝春秋 1870円1000年前に神からの求婚を袖にし、愛する男とともに輪廻転生の呪いをかけられた女。その生まれ変わりである二人は、1000年分の記憶を持ちながら出会いと別れを繰り返し、現代でまた出会った! 「個性的な神々と人間が、時空を超えて戦ったり、追いかけ合ったり、求め合ったりすれ違ったり。楽しくてときめく一冊」(丸善丸の内本店・高頭佐和子さん) 離れていても一緒にいる。その気持ちを書ききった作品。 『光のとこにいてね』一穂ミチ 文藝春秋 1980円裕福な家に育つも肉親の愛情を感じたことがない結珠、子供に関心のないシングルマザーに育てられた果遠。古びた団地で出会った少女2人の四半世紀の物語。「特別な二人の関係性の美しさが魅力の物語」(蟹ブックス・花田菜々子さん)。「二人の気持ちを恋愛と呼ぶならば、これは最高レベルに純度の高い恋愛小説だと思います」(高頭さん) 選考委員を務める書店員が語る「選考の感想」 歳を重ねたから心に残る、それが大人の恋愛小説。 「選考をするにあたり、“大人の”というところを意識して読みました。私自身も、さまざまな経験をしたからこそ味わい深く思える、そんな小説に出合いたいし、それこそが大人の恋愛小説なのでは。自分の恋愛観や倫理観、価値観にとらわれることなく物語に没頭すると、恋愛小説はもっと面白く読めると思います」――高頭佐和子さん(丸善丸の内本店) 恋愛がマストではない、その時代に響く作品たち。 「私が思う大人の恋愛小説は、主人公がヒロイズムに溺れることなく主体的に人生を決めていく、そんな作品。大賞の『今日の花を摘む』にはその頼もしさがありました。心の美醜が最もあらわになるのが恋愛だと思うので、だからこそ恋愛小説は読み応えがある。知らない世界を覗く気持ちで、ぜひ読んでみてください」――花田菜々子さん(蟹ブックス) その恋を自ら経験している、そんな錯覚を楽しんで。 「現実世界では絶対ありえない恋も、読み進めるうちに自分ごとになってくる感覚が、恋愛小説を読む醍醐味。大賞の『今日の花を摘む』は、本の中の出来事が自分の周りで起こっているようなリアル感と、描かれる駆け引きが“大人”な一冊です。先入観を持たずに表紙を開くことが、恋愛小説をより楽しむコツなのでは」――加藤ルカさん(有隣堂) 大人になればなるほど、純粋な物語を欲するのでは。 「他の選考委員の方々の感想から、本に対して新たな気づきを得られるのが本当に楽しいです。登場人物の気持ちや行動に対し、共感に似た感情を抱くことこそ、恋愛小説を読む面白さ。以前作家の紗倉まなさんが“大人になるほど純粋な物語を求めるのでは”と言っていたのですが、まさにその通りだと思います」――山本 亮さん(大盛堂書店) ※『anan』2024年2月21日号より。写真・内山めぐみ (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/532693/ Source: ananweb

  • 2024.01.17

別々の場所でコロナ禍を過ごす3人の男女…柴崎友香が描く、2年間の日常と心情の変化 | ananweb – マガジンハウス

東京や滋賀といった別々の場所でコロナ禍を過ごす3人の2年間。柴崎友香さんの新作『続きと始まり』は、2022年から’23年にかけて雑誌に連載した長編小説だ。 別々の場所であの時期を過ごす、3人の男女の日常と、心情の変化。 「自分を含め世界中が同時に影響を受けた出来事なので、その状況自体を書こうと思いました。人によって受けた影響は違うので、住む場所も仕事も家族環境も違う3人の視点を選びました。自分が書けるのは世界の一部分だけだけど、そこから何をどう想像していけるかを考えたかった。連載当初は、2年経てば落ち着くと思っていましたがそうはならなかったので、書いているうちに、小説自体が影響を受けて、書くものも変わっていきました」 大阪出身で一時期は東京に住み、今は結婚して滋賀県で暮らす30代の優子。東京で妻と幼い子供を育てているものの勤務先の飲食店が休業状態の30代の圭太郎。フリーの写真家の40代のれい。彼らの日常が交互に2か月おきに語られていく。 「3人の人生で何歳の時に何があったか一覧表にして考えていきました。コロナ禍で今までとは違う状況になって、彼らもこれまでの経験や今の生活について考え直さざるを得なくなっていく」 緊急事態宣言などで、どういう影響を受けたのかはそれぞれだが、 「あの時期は、いろんなことが標準とされる家族を想定して決められていた。でも人の関係性や在り方は様々だし、家族であっても個々の事情は違う。それに家族というと、恋愛、結婚、出産の3つがセットになりすぎているしんどさもあるなと感じていて。愛し合って結婚しました、というだけではない家族も書きたかったです」 日々を過ごす中、過去の震災のことや個人的な苦い思い出も彼らの胸を去来していく。 「2011年に震災でいろんな問題が出てきた時、“震災があって問題が起こるのではなく、今まであった問題がこういう災害があると拡大するだけだ”という声があって、そうだなと思って。コロナ禍もそうだし、社会の出来事にしても個人的なことにしても、過去のいろんなことが今の自分に影響しているんですよね」 昔の出来事を振り返り、迷ったり新しい気づきを得たりしながら進む3人に、読者も励まされる。 「たとえば以前だったら、何かができなかった時に“本人の努力が足りなかったからだ”と個人の問題にされがちでしたが、今は社会の構造という個人の努力や選択とは別の影響があると捉え直されるようになりました。それは大きいと思います」 過去からの連続の中で、自分の今ここがあると実感させる本作。 「未来のことを考えた過去の人が作ったものの中で、今自分は生きている。自分の今の行動の先に、未来を生きる人がいる。世の中にあった過去の出来事を考えることは、未来を考えることなんだなと感じます」 柴崎友香『続きと始まり』 コロナ禍の2年間、別々の場所で暮らす3人の男女の日常を細やかに描き出す。ポーランドの詩人シンボルスカの詩が引用されるのも印象的。集英社 1980円 しばさき・ともか 1999年に短編「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」でデビュー。2010年『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、’14年「春の庭」で芥川賞受賞。ほか受賞作多数。 ※『anan』2024年1月17日号より。写真・土佐麻理子(柴崎さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/526423/ Source: ananweb

  • 2024.01.10

大人気のお菓子の秘密が明らかに!? かわいすぎる“犬モチーフお菓子”レシピ本 | ananweb – マガジンハウス

2021年頃からインスタグラムにて密かに話題を集めていた、犬の形をしたかわいいお菓子たち。横尾かなさんが作る犬のお菓子はどれも夢のように愛らしく、ポップアップを開催すれば常に大行列&あっという間に完売という人気ぶり。あの素敵な犬のお菓子たちはいったいどうやって作られているの? その秘密を教えてくれる本が発売されました。 「これは犬になるかな?」と思い、お菓子を見ています。 「小さい頃からお菓子作りは好きだったのですが、学生時代はあくまで趣味で、形もごく普通のものを作っていました。転機になったのは、大学を卒業して入社したアパレル会社での経験。その会社が動物柄の洋服や雑貨を作っていて、犬の柄のアイテムも多く、仕事をしながら自然に犬種に詳しくなりました」 昔から犬好き。社会人になって最初の誕生日、お母様にお願いし予約をしてもらったのは西荻窪にあるレトロなお菓子で知られる『こけし屋』(休業中)の、バタークリームの犬が飾られたバースデーケーキ。そのかわいさに惚れ惚れしたそう。 「長く維持させたいけれど、クリームだから保存が利かない。ならばなにか違う素材でこういうかわいい犬のお菓子を作れないかな、と思い、休みの日にメレンゲを使ってやってみたのが第一歩です」 その後、なかしましほさんの焼き菓子店『フードムード』での勤務を経て、’22年に独立。’23年の初頭に、インスタグラムに上げていた写真を見た出版社の方から「本を作りませんか?」という連絡があり、このかわいいレシピ本が誕生することに。 「私は、犬の形の金型でケーキを焼く、というよりは、例えばマドレーヌやクグロフなどもともとあるお菓子の形や質感を生かして犬に仕上げるのが好き。ここに目をつけたら犬になるかな、とか、こういうパーツをプラスすると犬になるかも…ということを考えるのが本当に楽しい。常に“これ、犬になる?”という視点で生活しています(笑)」 この本がユニークなのは、ケーキやクッキーのレシピは載っておらず、デコレーションがメインになっていること。料理やお菓子作りが得意でない人でも気軽にトライしたくなる。 「ベースになるケーキなどは自分で作らなくてもいいと思うんです。私自身会社員時代は、例えばロールケーキをベースに何かを作ろうと思ったら、市販のロールケーキにデコレーションをして…という作り方をしていました。忙しいときに一から作るのは大変です。この本を読んでくれた皆さんにも、そんなふうにお菓子作りを楽しんでほしいです」 ごく普通のホールのケーキが、クッキーとチョコレートでの装飾だけで、こんなにかわいいチワワに。 ポップアップで販売されることが多い、クグロフ型を使ったコーギーのバナナケーキ。つぶらな瞳がかわいい! 『MY LITTLE DOGS メゾン・テリアの犬モチーフのかわいいお菓子』 絞った生クリームのマルチーズ、シュークリームのシュナウザー。キャロットケーキのワイアーフォックステリアなど、とにかくかわいい犬のオンパレード。ただただ眺めているだけで幸せな気持ちに。パイ インターナショナル 1870円 よこお・かな 1996年生まれ。大好きな犬をモチーフにしたお菓子を作るアトリエ〈Maison terrier〉として、東京近郊でのイベント出品を中心に活動中。インスタグラムは@maison_terrier ※『anan』2024年1月3日‐10日合併号より。写真・土佐麻里子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/525083/ Source: ananweb

  • 2023.12.27

SNSでも反響大! “じわじわムカつく一言”を200個集めた、たつろう『嫌な男あるある』 | ananweb – マガジンハウス

日常に溢れる“あるある”ネタ動画で注目を集め、YouTubeの登録者数が36万人を突破したお笑い芸人のたつろうさんの『嫌な男あるある』はSNSで反響の大きかったネタを中心に200個収録。うっすら嫌な男のリアルすぎる再現にイラッとしながらも笑ってしまう一冊だ。 じわじわムカつく一言が“あるある”と分かれば、心が救われるはず。 「これまでYouTubeでやってきたネタだけでなく、日常編、会社・バイト編、飲み会編など、シーン別で“なんか引っかかりを感じる言葉”を綴っています。ネタの多くは、自分の体験を再現したもの。『彼氏と深い話できてる?』という言葉は、僕がリアルによく言うフレーズです(笑)。『それ、今じゃなきゃダメ?』や『ねぇ、あの子何もできないよ!』は、昔の辛いバイト時代に言われたことを思い出して、ちょっとヘコみますね(笑)」 注目は、嫌な言葉を放った時の表情やしぐさを自身がモデルとなり、全力で再現していること。 「2日間かけて膨大な量を撮影したんですが、セリフと表情がちゃんとマッチしている自信があります(笑)。素の表情で撮ったおしゃれなグラビアページもあって、“鍵をなくした”とか、そのシチュエーションにハマる言葉が添えられているのもポイント。写真が上がった後にキャッチフレーズみたいに考えたので、まるで写真大喜利状態でしたよ(笑)」 「芸人としてネタを作ることは、自分と向き合うこと」と言うたつろうさん。嫌な男のネタを考えるうちに、自分を客観視する習慣がつき、人の気持ちが分かる人間になったそう。 「家に帰ってシャワーを浴びている時に『今日はちょっと嫌な言い方をしちゃったな』って思い出して、ウワーッてなることがあって。一人反省会した内容がそのままネタに。おかげで空気を読める人間になりました。もちろん人間観察から生まれるネタもあるので、人が放つ言葉に敏感。先輩芸人からは『お前と喋ると、ネタにされそう』って怖がられます(笑)」 身近にいる人を思い浮かべながら読むなど、楽しみ方は十人十色。 「人の言葉に敏感で傷ついてしまう人は、この本を読んで、自分が言われたあの嫌な言葉が、“あるある”だと分かれば、心がちょっと救われるはず」 たつろう『嫌な男あるある じわじわムカつく言葉200』 33歳で又吉直樹さんにネタをホメられたことがきっかけで“あるある”ネタを武器にしてきたというたつろうさんの“嫌な男あるある”を書籍化。ヨシモトブックス 1540円 たつろう 吉本興業所属のお笑い芸人、YouTuber。1984年、富山県生まれ。日常を切り取ったあるあるネタとモノマネが得意。『ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ』(フジテレビ系)などで活躍中。 ※『anan』2023年12月27日号より。写真・小笠原真紀(たつろうさん) インタビュー、文・福田恵子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/523318/ Source: ananweb

  • 2023.12.13

傷つけられるのに100%嫌いにはなれない“毒友”…作者の経験をもとにした青春小説 | ananweb – マガジンハウス

自分に親愛の情を見せながらも悪意をちらつかせていたあの子。砂村かいりさんがそんな幼馴染みについてSNSでつぶやいたのは2年ほど前のことだ。 友達だけど自分を傷つけるあの子。“毒友”との関係を描く青春小説。 「あれは“毒友”だったと思う、ということを書いたら、編集者さんに、小説に書いてみませんかと言っていただいたんです」 そして書き上げたのが、新作長編『苺飴には毒がある』だ。主人公は高校生の寿美子。彼女にはれいちゃんという幼馴染みのクラスメイトがいる。悪口と噂話が好きな彼女の言動に傷つけられることも多いが、一緒にいて楽しい時間があるのも確かで、100%嫌いにはなれずにいる。 「真面目な子ほど自分の感情を後回しにして、他人の屈折した感情に振り回されて傷つく傾向があると感じています。私も今なら、れいちゃんのように悪意と好意の両面を見せて相手を支配するのはある種のハラスメントだなと分かります。でも当時はそれを言語化できずにいました」 ある時寿美子は、れいちゃんが他の友達と一緒に自分の悪口を言っているという証拠をつかんでしまう。 「私にも同じことがありましたが、その時、妙にほっとした自分がいました。これからの関係性を考えていく手がかりになったんです」 寿美子の高校生活は少しずつ変化していく。れいちゃんとは別の親友や所属する文芸部の仲間、家族との関係の変化や、進学に関する不安、恋の予感なども実に繊細に描かれ、そのどれもが読み応えたっぷり。 「中学や高校の3年の間でも、人間関係はどんどん変わっていく。だから今悩んでいる人も、どうにか乗り切ってほしい。学校生活がすべてではないこと、自分の感情に嘘をつく必要はないんだよってことは、地道に伝えていきたいです」 木の枝を剪定するように人間関係にも剪定は必要、と砂村さん。物語の後半、れいちゃんからもらった手紙を読んだ寿美子が下す決断に、励まされる人も多いのでは。 「いただいた感想に“私自身がれいちゃんだったかもしれない”とあって、はっとしました。別の方からは、“御守りのような一冊になりました”という言葉もいただいて。ああ、自分はこのためにこれを書いたんだなと思えました」 読めばきっと、新たな気づきを与えてくれるはず。必読です。 『苺飴には毒がある』 高校生の寿美子には陰口好きな幼馴染みがいる。寿美子に対して意地悪な時も優しい時もある彼女に、感情を振り回されていたのだが…。ポプラ社 1870円 すなむら・かいり 2020年、第5回カクヨムWeb小説コンテスト恋愛部門“特別賞”を「炭酸水と犬」「アパートたまゆら」で2作同時受賞し、翌年デビュー。他の著書に『黒蝶貝のピアス』がある。 ※『anan』2023年12月13日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/520480/ Source: ananweb

  • 2023.11.27

ヤマザキマリの人生観や生き方の源! 国際色・個性豊かな人々との出会いのエッセイ集 | ananweb – マガジンハウス

『扉の向う側』はヤマザキマリさんが出会ってきた、忘れがたい人々との関わりを綴ったエッセイ集だ。 思い通りにならない同士が共生する。美しくノスタルジックなエッセイ集。 「14歳のときに初めてひとり旅。ブリュッセルからパリへ向かう列車の中でマルコ爺さんと知り合わなければ、そもそも17歳でイタリア留学していないかもしれないし、彼の孫と結婚していないかもしれない。私の人生観や生き方は、偶然知り合ったりすれ違ったりしてきた人たちとの関わりによってできたと言ってもおかしくないです」 親切で実直なカメオ職人とその夫人、90歳を越えてなおアグレッシブにつばぜり合いをする夫の父方・母方の両祖母、日本行きの飛行機で知り合ったブラジル移民一世の老人、ナポリ愛をとうとうと語った子だくさんのタクシー運転手等々、ヤマザキさんの記憶に深く刻み込まれている人々はみな国際色も個性も豊か。本書は地球人カタログのようだ。 「ボランティアで訪ねたキューバで15人家族の家に居候した話も書きました。お金が一銭も動いてないのにこんなに幸せになれるんだというのは、そこで知ったことです。常々、私の本は全部“縁があった人の観察事典みたいなもの”だと言っていますが、実際、観察学的視点で書くのが私のエッセイのパターンになっていますね。意識しているわけではなくて、自然とそうなってしまう。実はかなりの人見知りなんですが、こういう人と会いたくないとか、これは私に必要ないとか、そういうのはまったくなかった。袖振り合った人とは、絶対に何か縁がある、意味がある、と思う質(たち)で」 また、多くの日本人が安易にイメージするイタリア人――恋愛と美食を楽しむ国民性とは違う、彼らの地に足がついたさまも興味深い。 「須賀敦子さんがお書きになられてきた世界に少し近いものがあるように思っています。不条理な世界と向き合う中で深い思索を重ね研ぎ澄まされた知性を持つ、穏やかで静かなイタリア人もいるのです」 微笑ましかったり、ユーモラスだったりする各回の挿絵もすべて、ヤマザキさんの手による。それらに命を吹き込むのはやはり人との縁だ。 「私の絵って実は人格主張がないというか(笑)、ストーリーに合わせた絵を描くんです。忘れられず、ずっと私を幸せな気持ちにさせてくれる人ってやっぱり人生の財産だなと」 ヤマザキマリ『扉の向う側』 エジプト、シリア、ポルトガル、米国と移り住みながら、再びイタリアと日本に拠点を置くヤマザキさんの記憶に刻まれた人々。マガジンハウス 1760円 ヤマザキマリ 漫画家、文筆家、画家、東京造形大学客員教授。1967年、東京都生まれ。17歳でイタリアに渡る。『テルマエ・ロマエ』『プリニウス』ほか著書多数。2016年、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。 ※『anan』2023年11月29日号より。写真・山崎デルス(ヤマザキさん) 中島慶子(本) インタビュー、文・三浦天紗子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/517958/ Source: ananweb

  • 2023.10.09

1000年前の才女が放つ言葉が痛快! 心が疲れた時に読みたい、国内外の名作古典4冊 | ananweb – マガジンハウス

落ち込んだり、ムカついたり、やる気が出なかったり…そんな気分の時に読みたい4冊を紹介。先人たちの言葉は、きっと明日の元気につながるはず。翻訳者、エッセイストのイザベラ・ディオニシオさんと、書評家の三宅香帆さんがセレクトしてくれました。 心が疲れた時に読みたい、国内外の名作古典 芭蕉と共に旅する高感揚を楽しむ。 イザベラさん、三宅さんおすすめ 『おくのほそ道(全) ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』著・松尾芭蕉 編・角川書店江戸を発ち、奥州、北陸道を巡り、和歌に出てくる多くの名所旧跡を訪れながら俳句を詠み、地域に関する感想を書き綴った松尾芭蕉の紀行文。「時は始まりと終わりなく繰り返され、言ってしまえば、私たちの人生も一種の旅。『おくのほそ道』の旅に出た時、松尾芭蕉は45歳。当時はすでにおじいちゃんの年齢だけど、旅が楽しくて仕方がない芭蕉の言葉を読むうちに、私たち読者にもワクワク感が伝染。その元気にあやかりたい」(イザベラさん)。「表現力を学べる絶好の教科書でもあります」(三宅さん)。¥748/角川ソフィア文庫 1000年前の才女が放つ言葉がなんとも痛快! イザベラさんおすすめ 『現代語訳 枕草子』著・大庭みな子平安中期に書かれた清少納言の随筆文学。季節の移り変わり、後宮での日常生活や貴族の様式美など、内容は多岐にわたる。「清少納言は鋭い感性で物事を観察し、生き生きと描写。現代語訳も原文の歯切れの良さを踏襲しています。読んでいると、胸がすっとするようで気持ちがいい。ところどころにある訳者のコメントも面白い」(イザベラさん)。¥1,276/岩波現代文庫 タフな女の生き様に勇気づけられる!? 三宅さんおすすめ 『風と共に去りぬ』1 著・マーガレット・ミッチェル 訳・鴻巣友季子南北戦争時代のアメリカ南部で生まれた、スカーレット・オハラの恋と人生を辿る物語。「健気でも謙虚でもなく、逆境に負けない、タフでしたたかなヒロインの生き様が面白すぎる。恋愛も家族関係も一筋縄ではいかない人生で、自分の欲望に忠実に生きる彼女を追いかけていると、自分の悩みなんて吹っ飛びます」(三宅さん)。¥880/新潮文庫 人生上手くいかない、そう思う時に読みたい。 三宅さんおすすめ 『シーシュポスの神話』著・カミュ 訳・清水 徹ギリシャ神話について思考をめぐらせたカミュのエッセイ。「なんで人生にこんなことが起こるの? もうイヤだ! そんな時に人間はどう生きるかについて、とことん考えています。最初は暗い哲学書だと思うけれど、読んでいくうちに、実は頑張って生きていこうと言っているんだと気づく名著。辛いことがあった時に読むと励まされます」(三宅さん)。¥693/新潮文庫 イザベラ・ディオニシオさん 翻訳者、エッセイスト。イタリア出身。大学時代より日本文学に親しみ、2005年に来日。著書に『平安女子は、みんな必死で恋してた』『女を書けない文豪(オトコ)たち』『悩んでもがいて、作家になった彼女たち』。趣味はごろごろしながら本を読むこと。 三宅香帆さん 書評家。1994年生まれ、高知県出身。京都大学大学院修士課程修了。著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』ほか多数。いつか『更科日記』を現代語訳することが夢。 ※『anan』2023年10月11日号より。写真・福森クニヒロ 黒川ひろみ 取材、文・野尻和代 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/508525/ Source: ananweb

  • 2023.10.04

言語能力は2歳時点でかなり差ができている!? 『言語の本質』著者と言葉の謎に迫る | ananweb – マガジンハウス

認知科学者と言語学者が「オノマトペ」から言葉の謎に迫る『言語の本質』。今年5月の発売からすぐにベストセラーとなった話題の本書の著者である今井むつみさんと秋田喜美さんに、言葉の謎に迫るための様々な疑問に答えていただきました。 ――今年5月に出版された『言語の本質』が話題です。社会的な背景など、そこにはどんな理由があると思われますか? 今井むつみ(以下、今井):やはり言葉は毎日使うものなので、「もっと上手に使えたらいいのに」という思いが誰しもあるからではないでしょうか。それに本書の出版が、ChatGPT(人間のように自然な会話ができるAIチャットサービス)のリリース後だったということも影響しているように思います。驚くほど巧みに言葉を操るAIが登場したことで、自分たちが日頃使っている言葉に対して疑問や不安を抱く人も多かったのかもしれません。 秋田喜美(以下、秋田):同感です。あとはポッドキャスト『ゆる言語学ラジオ』の水野太貴さんのSNSをはじめ、多くの新聞や雑誌の書評で取り上げていただいたことも後押ししてくれていると感じています。 ――本書では言語の本質をひもとくカギとして、“オノマトペ”(何らかの音や状態を表現した言葉)に注目されています。 秋田:例えば「ワンワン」「キラキラ」など、オノマトペをよく使うのは、言葉を覚え始めた子どもや、その周囲にいる大人です。言語の本質に迫るには、言語の起源と言語の習得の謎を明らかにすることが重要です。つまり、オノマトペを研究することが、言語の本質に繋がると考えたのです。 今井:そして子どもが使うオノマトペの言語性は、発達段階に合わせてどんどん深まっていきます。例えば「よろよろ」というオノマトペが、「よろよろする」「よろける」といった形で動詞に組み込まれたり、あるいは副詞的に使われたりすることもあります。オノマトペは、私たちの祖先が言語を作っていった過程になぞらえることができるのでは…。そんな指摘をする研究者もたくさんいます。 秋田:オノマトペは「よろける」のように動詞などの品詞に変化することもあれば、その逆もありますよね。例えば、胸の高鳴りを表す「ワクワク」は、「湧く」という動詞が語源との説があります。 今井:オノマトペが面白いのは、初めて聞く言葉でも、2~3回使ってみると完全に身体化してしまうようなことがあるところ。例えば、若者から生まれた「ぴえん超えてぱおん」は、悲しみを表す昨今の流行語「ぴえん」に、ゾウの鳴き声のオノマトペ「ぱおん」を対比させて、非常に大きい失意を表している言葉だといいます。私はこれを初めて聞いた時、何のことか全くわからなかったのですが、今では思わず使ってしまいそうな気がするほどです(笑)。 ――言葉の変化や、本来の意味と違う使われ方に対して、嘆かわしく思う必要はないのでしょうか。 今井:ある程度、年齢を重ねた人たちにとって、こうした新語は日本語として間違っていると感じられるかもしれません。でも、実は言語の使い方に「間違っている」「合っている」という規定はないのです。ある時代を切り取った時に、その使い方をする人が、どれだけたくさんいるのか。それがマジョリティであれば、新しい言葉は「正しい言葉」として社会に浸透していきます。 ――最近、新語から定着しそうな言葉はありますか? 今井:「むずい」ですかね。私が教えている学生など、若い人たちは「難しい」という言葉を知らないのかと思うくらいに、「むずい」を連発します。「難しい」は長すぎるのかもしれませんね。 秋田:「むずい」もそうですが、ほかにも「痛い」を「イタッ」と言うなど日本語は略す時に2文字だけ残すことがよくあります。すると、「ピカッ」のようなオノマトペに似てくるのです。オノマトペには、物事の一部分をアイコン的に写し取るという特徴がありますが、本来の言葉を2文字に略すことで、そのアイコン性が見出しやすくなるのではないでしょうか。 ――冒頭で、本書が注目されている理由の一つにChatGPTの登場を挙げられていましたが、人間の言語とAIの言語にはどんな違いがあるのかも気になります。 今井:まず、人間の言葉は、ほとんどの場合、感情と結びついているといえるでしょう。例えば、犬や猫という言葉でも、それが好きなのか否かが、言葉の中に含まれている気がします。一方、AIには感情がありません。単なる情報伝達手段というのが、AIの言語です。両者の大きな違いは、そこにあると思います。人間の言葉が感情と結びついている例として顕著なのは、LINEのようなテキスト主体の媒体では、スタンプや絵文字を使おうとしますよね。それはテキストだけだと、気持ちが伝わりにくいからだと思います。 秋田:私は、AIと子どもの言語の違いについて話したいと思いますが、AIの言語は統計情報なので、すでにある膨大なデータベースをもとに、答えが導き出されていくのが特徴です。一方、子どもの言語は、AIほど大量のインプットを受けているわけではないのに、聞いたことがないような文まで話すなど、とても創造的。限られた情報以上のことを、アウトプットできるのです。 ――受け取った情報から、想像を膨らませているのでしょうか。 秋田:はい。例えば「ワンワン」という言葉も、初めて聞いた時は何を指すのかわからないと思います。でも、次第に目の前の犬を指す言葉だとわかり、さらに「あの動物もワンワンだろう」と仮説を広げていくうち、犬というグルーピングができるようになる。このように正しいとは限らない仮説を立てることを「アブダクション推論」といいます。それにより人間の思考や言葉は豊かになるのです。 ――言葉の豊かさといえば、言語能力には個人差があるように思いますが、その差はどこで生まれるのでしょうか。 今井:これは多くの人が抱くクエスチョンで、私も正解を知りたいくらい(笑)。ただ、研究から一つ言えるのは、幼少期にインプットされる言葉の量と質が、その後の言語能力に大きく関わるということです。2歳の時点で、かなり差ができているともいわれています。 ――では、大人になってから言語能力を磨きたいと思っても、子どもの頃にベースがないと難しい? 今井:不可逆的に無理かというと、そんなことはないと思います。自分の語彙力の限界に気づき、不足しているところを補うために、何をすべきか考える。その気持ちさえあれば、向上できるはずです。 ――最後に、ずばり「言語の本質」とは。そのポイントとなることを教えていただけると嬉しいです。 今井:言葉の役割について“豊かなコミュニケーションをとるための道具”といった表現が使われがちですが、実はそうではありません。人はたくさんの思いを伝えたいのに、情報処理能力が限られているため、無意識のうちに言葉を取捨選択しています。聞く人が扱えるだけの情報量に絞って、伝えているのです。ピンポイントだからこそ、相手に“伝わる”。言語の本質的特徴には様々ありますが、これはその重要な要素です。 秋田:人には何かと何かの間に、能動的に類似性を見出そうとする特徴があります。先述した「ワクワク」は「湧く」からきているのに、なぜかしっくりくる。それは、ワクワクという音と、ワクワクした感情の間に私たちが類似性を見出すからではないでしょうか。ワンワンと犬の間に類似性を感じるように。そう考えると、今後も新しいオノマトペが生まれる可能性は、大いにあると思います。 今井むつみさん 慶應義塾大学環境情報学部教授。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。著書に『ことばと思考』(岩波新書)など。近著は元プロ陸上競技選手の為末大さんとの共著『ことば、身体、学び―「できるようになる」とはどういうことか』(扶桑社新書)。 秋田喜美さん 名古屋大学大学院人文学研究科准教授。専門は認知・心理言語学。日本をはじめ世界各国のオノマトペを研究。また、日本語と世界の言語との比較にも関心を寄せている。著書に『オノマトペの認知科学』(新曜社)、共著『言語類型論』(開拓社)などがある。 ※『anan』2023年10月11日号より。イラスト・hakowasa 取材、文・保手濱奈美 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/508691/ Source: ananweb