須田卓馬

  • 2024.06.09

東江雄斗×部井久アダム勇樹、ハンドボールは「短時間の中で本当にいろいろなことが起こる競技」 | ananweb – マガジンハウス

36年ぶりとなる五輪への自力出場を勝ち取った“彗星JAPAN”。ハンドボールの発展と進化を推し進めるプロチーム・ジークスター東京で活躍する、東江雄斗選手と部井久アダム勇樹選手が語る、競技の“いま”とパリ五輪への想いとは。 東江雄斗×部井久アダム勇樹(ハンドボール/ジークスター東京) ボールが手に吸い付いているかのように自在に操り、対峙する相手選手陣の間をかいくぐって華麗にゴールへ投げ込んでいくハンドボール。“彗星JAPAN”こと男子日本代表は、昨年10月のパリ五輪男子アジア予選で悲願の優勝を果たして36年ぶりの自力での五輪切符を獲得した。共に日本ハンドボールリーグのジークスター東京に所属する東江雄斗選手と部井久アダム勇樹選手は、その代表への選出を有力視されている。 両親も兄もハンドボール選手をしており、物心ついた頃からボールがそばにあった東江選手。小学校の卒業文集には「将来の夢はオリンピック選手になること」と書き、「やめようって思ったこともないし、やめたいと思ったこともない」と言い切る。大学からは“司令塔”と呼ばれるセンターを務め、アジア予選ではキャプテンも務めた。一方の部井久選手は、小学5年生の時に参加した福岡県タレント発掘事業でハンドボールの講師から「君だったら日本代表になれるよ」と言われたことを機に同競技の道へ。高校3年生の時に代表に初選出されて以来7年もの間レフトバックを担当し、時速127kmを誇る日本トップクラスの豪速球ロングシュートは「アダムキャノン」(本人命名)と呼ばれている。自身を高校生の時から知る東江選手は部井久選手にとって、「いわばシェフ」なのだとか。 「雄斗さんは本当に器用なんです。全体のバランスを見て味方を生かしますし自分で攻めもしますし。絶大な信頼を寄せる先輩で、僕は雄斗さんにアシストしてもらいながら気持ちよくプレーをさせてもらっている食材です」(部井久) 対して「いやぁ、もうすごい高級食材で(笑)」と東江選手。 「困った時や大事な局面でのアダムの得点力は非常に重要で、彼が点を取れなかったら確実にうちのチームは負けます。だからこそ自分は周りを含めて彼をどう動かしてやろうかと常に考えている状態。それにアダムも近年は味方を生かすプレーを身に付けてきて、どんどんプレーの幅が広がっている印象がありますね」(東江) ハンドボールの魅力については二人とも口を揃えて「スピーディな展開」と述べている。 「短時間の中で本当にいろいろなことが起こる競技。それに顔以外であれば、正面からどこに触りに行ってもいいスポーツでもあります。僕のように身長が2m近く、体重100kg超えの選手同士がぶつかり合う激しさや、そこを抜けてシュートを打ったり、止めたりする攻防戦もすごく見応えがあると思いますね」(部井久) 「チームスポーツでもあるので、観戦に慣れてきたら応援するチームが仲間とどう協力して相手チームのディフェンスをだましたり、攻撃を仕掛けたりしていってるのかを考えながら観てもらうのも楽しいと思います。パリ五輪への出場を決めたとはいえ、バスケットボールやバレーボールに比べるとまだまだ認知度は低い競技。もっと多くの人に知ってもらうためにもアダムさんのさらなる露出で、多くのファンを会場に呼び込んでもらえたらと思います」(東江) 「いやいや、僕だけじゃ無理です(笑)。でも確かに東京五輪から少しずつ露出の機会は増えてきましたし、リーグも来季からはプロになる予定で、うちのチームもその先駆けとしてほとんどの選手がプロ契約中です。試合もこれまでは質素な感じで演出面に力を入れていない状態でしたけど、ジークスター東京がエンターテインメント性を出すようにしてからは他チームにも同じ動きが出てきました。あと選手としてできることは、やっぱり『代表で結果を出す』ということに尽きます」(部井久) そのためにも目指したいのは、パリ五輪でのベスト8進出。 「キャプテンとしてアジア予選の優勝の瞬間に立ち会えたことは、自分の中でもとても大きなことでした。僕の年齢的にも五輪出場は今回がラストチャンスかなと思っているので、まずは代表メンバーに入ることが目標。その上で司令塔としてほかの選手たちと積極的にコミュニケーションをとりながら予選リーグを突破して、そこからメダル獲得にチャレンジできたらと思っています」(東江) 「自力での五輪出場は自分のハンドボール人生の中でずっと掲げていた目標の一つだったので、決まった瞬間はめちゃくちゃに泣いていたことにも、後で映像を見てやっと気付くくらいに興奮していました。自分は高校生の頃から代表にいて、ベテランの選手とも昔から知っている仲。今は歴でいうと中堅ぐらいになってきているので、代表内では選手同士の架け橋的な役割ができると考えています。プレーヤーとしても新しく就任した監督の考えや自分に求められることをしっかりと理解して、それをコート内でしっかりと表現する。五輪はかなり厳しい戦いになると思いますが、より勝つ確率の高いプレーを選択していけるようにしたいです」(部井久) あがりえ・ゆうと(写真右) 1993年7月6日生まれ、沖縄県出身。身長183cm。センターバック。興南高等学校を卒業後、早稲田大学へ。2013年の全日本学生ハンドボール選手権大会では優秀選手賞を受賞し、’15年は第28回ユニバーシアード競技大会、および同年日本代表にも初選出。日本ハンドボールリーグでは’16~’21年に大同特殊鋼でプレー後、ジークスター東京へ移籍。’23年のアジア予選では代表キャプテンを務めた。 べいぐ・あだむ・ゆうき(写真左) 1999年4月21日生まれ、福岡県出身。身長196cm。レフトバック。パキスタン人の父親、日本人の母親を持つ。博多高等学校へ進学後、2017年7月に高校生初の日本代表に選出される。中央大学へ進学後の’18年にはフランスリーグのセッソン・レンヌ・メトロポールHBと契約して渡欧。大学卒業後はジークスター東京に所属し、昨年春にはAl Jazira(UAE)への約1か月半の期限付き移籍も経験した。 ※『anan』2024年6月12日号より。写真・須田卓馬 スタイリスト・井田正明 ヘア&メイク・伏屋陽子(ESPER) 取材、文・松木智恵 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/552851/ Source: ananweb

  • 2024.03.17

尾崎世界観「意外とエゴサーチがいいんです。腹も立ちますけど (笑) 」 バンドマン特有の“色気”を分析 | ananweb – マガジンハウス

音で、声で、振動で、肌に伝わる音楽。そんな音楽を通して薫る、目には見えない色気は、いつの時代も我々を魅了する。なぜ、バンドマンはこうも色気を醸すのか? 艶麗なライブパフォーマンスで人々を惹きつける尾崎世界観さんに、その色気の正体を考察してもらった。 怒りや苛立ちを隠せず、自分の欲望に素直なバンドマンが好き。 バンドマンから放たれる、アンニュイな色気。クリープハイプのフロントマンである尾崎世界観さんが魅了されるバンドマンには、“照れ”があるという。 「自分が色気を感じるのは、ちゃんと照れている人。人前に立って、自分が作ったものを表現するというのは、やっぱり恥ずかしいことなんです。学生時代に初めて曲を作って歌った時からそうで、恥ずかしいからこそ人に見せる価値があると思ったし、年々、その考えは強まってきています。逆に、自信に満ち溢れた人には色気を感じません。あと、ステージで芝居がかった振る舞いをする人にも惹かれないですね」 キャリアを積んで人気が出れば自信がつく。自信と反比例するように、バンドマンの色気のコアにある“照れ”が薄れてきてしまう。そのことに尾崎さんは自覚的だ。 「だんだんと、否定的なことを言ってくれる人がいなくなる。だから、常に自分自身にネガティブな視線を向けるように意識しています。それには意外とエゴサーチがいいんです。腹も立ちますけど(笑)、“確かにな”と思うことが一つでもあれば、こちらにとっては得しかない。損得関係なく文句を言ってくれる存在は、いま周りにはなかなかいないので、一つの意見として受け止めています」 SNSで書かれていることが多数派のように聞こえてしまう時代にあって、色気の在り方にも変化が起きているよう。 「バンドも、ファンの声や反応に過剰に引っ張られているところがありますよね。ファンの見方がより高度に、評論家っぽくなってきている。だから、もしかしたら“色気”というのも、各媒体やSNSで言語化されすぎて、感じる前に消えてしまっている可能性もありますよね。自分が名乗っている“世界観”は、説明しがたいものをとりあえずそういうものにしておくための言葉という印象ですが、“色気”だって、もうちょっと言葉にならない、伝わり切らない感情だったはずです」 詞に限らず、エッセイや小説も書く尾崎さん。言葉の使い手として色気は意識しているのだろうか。 「発する側としては、何でも好きに言うわけにいかない状況で、どう伝えようか考えるのもゾクゾクしますね。バンドにとって、大前提として、作品は自分を演出するためのものではなくて。もし自分から色気が出てるのだとしたら、歌っているうちに、自分自身さえも知らずにいたそういう要素が奥のほうから出てくる、そんな流れが理想ですね。歌詞は、わかりやすくエロいことを書くとコミカルになってしまうので、そこにすごく気を遣っています。もちろんわかりやすいエロに色気を感じる人もいるので、その辺りの線引きが難しいんですけどね。文章を書いている時は、その姿を誰かに見られるわけではないので、色っぽくある必要もない。それなのに、読むとそこに表現したいすべてが詰まっていて、かつ色気が感じられる、そんな文章に憧れます」 バンドマンとオーディエンスとの、目には見えないコミュニケーションの上に成り立っているライブ。毎回、湧き出る感情が違うのも生ものの醍醐味だが、うまくいかないと感じた時のほうが、観客の満足度が上がることがあるそう。 「ライブって、お互いに空気を窺っている感じがあって、それがぴったり合う日もあれば、合わない日もあるんです。合わないと“なんでこんなに早く拍手がくるんだろう、もうちょっと待ってくれてもいいのに”などと、ちょっと気が立ってくる。でも何かしらの隙が自分にあるからそうなっているはずだし、そんな自分にイライラしてくるんですけど、そうしたイライラや怒りによってお客さんの感情を動かすのも大事で。もしかしたら、それが色気に通じるのかもしれません。それだからか、“もっとできたのに”と自分自身が納得できていない日にお客さんからよかったと言われることもある。怒りというのは、普段の生活ではよくない感情ですが、バンドのライブでは爆音がすべてを呑み込んでくれる。自分自身、ロックバンドのライブでただハッピーになりたいわけではないんです。幸せだとか、満たされた開放的な表現をそこまで求めていないし、それをわざわざお金を払ってまで観ようとは思いません」 自分自身に向けられる怒り、満たされない苛立ち。エモーショナルな姿が露わになった時、観客はバンドマンに色気を感じ、恍惚とするのだろう。その瞬間が起こるのがステージというマジカルな場所。フェスでは時間帯によって色気の感じやすさが変わるよう。 「昼と夜とでは、音の伝わり方が全然違うんですよね。明るい時間帯よりも、暗い時間帯のほうが、音が奥のほうまで響いていくんです。そして、暗い中ではっきり浮かび上がってくるものといえば、ライトを浴びてステージに立つバンドマン。視覚と聴覚を集中させる分、色気を感じやすくなるのかもしれません」 OZAKI’S CHOICE 年代別・色気を醸すバンドマン尾崎さんが年代別に選んでくれた、色気を感じるバンドマンたち。 「夢を叶えてプロになり、ステージに立ち続けていても、まだまだ理想には追いつかない。それでも“よかった”と言われる苦しさ、理解してもらえない自分自身への怒り。お客さんを喜ばせるプロとしては、出してはいけないのかもしれないけど、そうした感情を隠せず自分の欲望に素直なバンドマンが好きです。自分がそういう人間だから、そういう人を見たり、音楽を聴いたりして、安心しているだけなのかもしれませんが。この中でも忌野清志郎さんには不思議な魅力を感じます。人間味があるのに、神様のようでもあって。怒りや悲しみのさらに奥にある、もっと深い感情を吐き出しているように感じます」 1960’s Bill Evansクラシックを音楽的ルーツに持つ、アメリカのモダンジャズ・ピアニスト。1960年代には、ベースとドラムと共に演奏するピアノトリオを追求し、ジャズの歴史を変えた。名盤『Walts for Debby』など50枚以上のアルバムを発表。 1970’s 忌野清志郎“KING OF ROCK”の異名を持つ伝説のバンドマン。1970年、RCサクセションとしてデビュー。’70年代は、フォークからロック/R&Bへと形態を変え、時代のアイコンとなるほど人気を博した後年への礎を築く。 1980’s 大江慎也1980年、ザ・ルースターズのボーカル&ギターとしてデビュー。“孤高のカリスマ”と呼ばれ、いまも熱狂的なファンを持つ。代表曲に「どうしようもない恋の唄」「ROSIE」など。’82年、映画『爆裂都市 BURST CITY』に出演。 1990’s Kurt Cobain1980年代の煌びやかなロックを否定し、退廃的な詞や荒々しいサウンドを特徴とするグランジを確立したNirvanaのフロントマン。’91年に発表した「Smells Like Teen Spirit」で世界的成功を収めるも、’94年に自ら命を絶つ。 2000’s Zack de la Rochaヘビーメタルとラップのミクスチャースタイルを生んだRage Against the Machineのボーカル。怒りに満ちた強烈なメッセージとサウンドで一時代を築くが、2000年に解散。’07年の再結成以降も、反権力の姿勢を貫く。 2010’s  Childish Gambinoラッパー、俳優、コメディアン、作家として活躍。2019年、銃暴力や人種差別を扱った「This Is America」で、第61回グラミー賞で最優秀レコード賞を受賞。映画『スパイダーマン』シリーズのアーロン・デイヴィス役でも知られる。 2020’s チバユウスケTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTやROSSOを経て、2005年、The Birthdayを結成。’22年公開の映画『THE FIRST SLAM DUNK』のOP主題歌「LOVE ROCKETS」が、大きな話題を呼ぶ。咋年、惜しまれつつこの世を去る。 おざき・せかいかん 1984年11月9日生まれ、東京都出身。2012年、クリープハイプのボーカル&ギターとして、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。現体制で15周年を迎える。小説家としては、著書『母影』が第164回芥川賞候補に。 スーツ¥68,750(lemontea TEL:03・5467・2407) ビンテージのシャツ¥33,000(Sick TOKYO sick_shibuyatokyo) ※『anan』2024年3月20日号より。写真・須田卓馬 スタイリスト・入山浩章 ヘア&メイク・シゲヤマミク 取材、文・小泉咲子 (by anan編集部) https://ananweb.jp/news/537857/ Source: ananweb